ep.163 八犬士
秀こと山崎は、レクサスを走らせながら政に殴られた事、その後、政から礼 司達三人を任された事を思い出していた。
当然ながら秀の横には礼司が、後部席には仁と智巳が座っている。
礼司は、まだ秀に預けられた事に納得がいかず、
「山崎さん、俺達何で・・・」
秀はニヤリと笑うと、
「会長さんの言う事は、絶対やからな」
どうやら、政の事を会長と呼べるのが、かなり嬉しいらしい。
秀は言葉を続けた。
「お前ら、肉体的にも体力的にもまだまだやからな、まあ、鍛え直しって事や。的屋の仕事も教えなアカンしな」
礼司は口を尖らせると、
「それはそうなんすけどね・・・」
山崎は破顔し、
「それから、俺の事は“山崎”やのーて、“秀”って呼んでくれや」
「はぁ・・・」
「後日、俺の弟分も紹介するわ。皆んなそれぞれ、腕っぷしに自信がある奴ばっかでな。喧嘩っ早いのが、玉に傷やけど。はははっ」
礼司達は一撃で秀にヤラれているので、秀の言う “腕っぷしに自信”が本当である事は理解していた。
ただ純粋に、強くなりたいと願う礼司は、
「俺、その人達・・・、あっ、兄貴達か・・・、と闘らしてもらえるんですか?」
秀は軽くため息を吐き、
「闘らしたるけど・・・、礼司?やったな名前」
「はい、礼司っす。」
「病院でも言うたけど、自分はもう少し、そやな、後10kgは体重増やさんと・・・」
「増やしたら勝てますか?兄貴達に?」
「それでやっと勝負になるかな。正直、礼司、お前はええパンチ持ってると思うで。もっとも、後ろの二人、えっと・・・」
仁が、身を乗り出して答える。
「仁っす。こいつは智巳で・・・」
「すまん、そやったな。仁と智巳・・・、もう忘れへん。自分らは、まだまだやな。基礎すら出来てない」
智巳がボソリと、
「まだまだですか・・・」
「智巳、気にせんでええ。鍛えたら、皆んな強くなるから。自分ら三人で、まずは切磋琢磨したらええ」
礼司達三人は、はいと答えた。
秀は、礼司達の名前を口の中で何度も呟き、ある事に気付く。
「はっ、そうか!お前ら縁があるはずや」
礼司は少し驚き、
「どうしたんすか?秀の兄貴?」
秀は一度深呼吸し、
「お前ら、八犬士なんや!」