ep.162 親の言う事が聞けねえってのか!
トメが驚き、取り乱す。
「ひ、秀さん・・・。アンタ、何て事を・・・」
政はトメを征すると、
「まぁ、いいじゃないですか」
トメは怒って、
「政、アンタはどんだけ呑気なんだい!」
政は、首を数回横に振り、
「いや、丁度良かったんですよ、トメさん。じゃないと場合によっちゃ、この秀さんと俺が正面からぶつかる事になってましたから・・・。すいません、トメさん。その引き出し開けてやっちゃもらえませんか?」
トメは、政なりに考えがあっての事だろうと思い、立ち上がると引き出しを開け、
「こ、これは・・・」
そう漏らすと、数枚の白磁器の盃を取り出した。
山崎も盃を見つめ、
「政さん、アンタ・・・」
政は黙って頷き、
「受けて貰っちゃくれねぇか?秀さん。いや、秀彦。俺の盃・・・。一の子分として、右腕として」
秀は思いがけず願いが叶ったのか、目をこれでもかと見開き、
「え、ええんか?俺なんかが・・・」
「あぁ、俺はアンタになってもらいてぇ・・・。本来なら、ちゃんとした場所で、親子の契りを交わしてぇトコだが・・・」
山崎は首を横に振り、
「かまへん、かまへんねん。場所なんか何処でも」
政は頷き、
「そう言ってくれると、ありがたい。トメさん、さっきの引き出しの下の引き戸に酒があるはずなんですが・・・」
トメは黙って言われた通り日本酒の小鬢と真っ白な紙を取り出し、政に渡した。
政は日本酒を開け、盃に注ぐと
「貰ってやってくれるかい?」
「はい、頂きます」
秀はそう言うと盃の酒を飲み干し、紙で包むとジャケットの懐に直した。
政はそれを確認すると、
「さっそくだが、秀。親として、頼みがある」
秀は嬉しそうに、
「はい、会長。何でも言って下さい」
「馬鹿な考えは止めて、お前は美沙ちゃんの居る吉野へ行け!お前が一緒にいて安心させてやれ」
「しかし・・・」
政は、ベッドから降りると、いきなり秀を渾身の力で殴りつける。
秀は吹っ飛び、壁に背中をぶつけ、そして、嗚咽を漏らした。
政はキッと秀を睨み、
「秀、テメエ、親の言う事が聞けねえってのか!俺に恥かかすんじゃねえ!」