ep.161 ただの山崎秀彦や
「実家って・・・、アンタ・・・、この前、スーパーで話した時、美沙ちゃん、こっちで産むって笑らってたのに・・・」
政は何か思う所があったのか、
「まぁ、トメさん。何かしら秀さんにも事情があるんじゃないですか?なぁ、秀さん」
秀はジャケットからハンカチを取り出すと、冷や汗を拭き、
「そっ、そやねん。さすが政さんや・・・。き、急に、美沙のオカンが戻って来い言うねんな・・・」
トメは疑いの眼差しを残したまま、
「ふーん、まぁ、政さんがそう言うならそーなんだろねぇ・・・」
政は、一度深呼吸をすると、キッと顔を引き締め、頭を下げ、
「しかし、秀さん。連絡を取らなくてすまなかった。俺は、俺はな、組長さんと姐さんが襲われた時、護れなかったばかりか、不覚にもテメエ自身も深い傷を受けちまってて・・・、情けねぇ・・・。正直、そのまま消えちまった方が、いいんじゃねぇかとさえ。隠退も考えた。悩んだ・・・、しかし、気がつけば・・・、世の中に未練があるのか、まだ俺の事を“兄貴”と慕ってくれる若い弟分も・・・」
秀は少し困った顔をして、
「政さん、もしかしてそいつは中々の色男ちゃうか?」
「あぁ、ヤクザにはもったいねぇ二枚目の野郎さ・・・。カタギで居りゃいいのに・・・。少しばかり喧嘩っ早ええが・・・」
秀は深々と頭を下げ、
「スマン、倒してもーた」
政はニヤリと笑うと、
「いや、どうせはやとちりでもして、秀さんの事、鉄砲玉か何かと間違えたんだろ・・・。まだまだ、アイツぁ、礼司は人を見る目がねぇな」
秀もつられて笑う。
「政さんにそう言ってもらえると、俺、助かるわ・・・。あの二枚目は礼司って言うんや。ええ若いモンやな、パンチも良かった。久しぶりに鍛えてみたいと思ったわ」
政は、秀の胸元に有るはずのモノに今気付いたふりをして、
「秀さん、代紋どうしたんだい?」
「あっ、アレな・・・。バッジは帰したんや・・・。せやから、もう俺は・・・、俺は“河内稲美会”若頭の山崎秀彦やのーて、ただの・・・、そや、ただの山崎秀彦や」