ep.160 ピーマンとニンジン
扉を開けるなり山崎は、政の顔を見る。
一歩部屋に入ると、緊張が解けたのか号泣した。
「まっ、政さん。良かった、ホンマに良かった。おっ、俺、俺・・・」
政も、山崎に懐かしさを覚え、
「秀さん。俺も連絡取らなくって、すまなかった。申し訳無い・・・」
そう言って、ベッドの上から頭を下げた。
政の目にもうっすら涙が浮かぶ。
山崎は、首を横に数度強く振り、くしゃくしゃの顔のままで、
「かまへん、かまへんねん。俺は、俺はな。政さん、アンタが生きてる。それだけで、嬉しいんや」
二人の様子を見兼ねたトメが、
「何だい、何だい。河内稲美会の若頭と武闘派No.1が、揃いも揃って泣くとは・・・、先代が居れば何と言うか・・・」
山崎は鼻をすすり、
「確かに、問答無用でゲンコツもんだ・・・」
政も、くしゃっと破顔し、
「怒ると怖かったからなぁ、組長さんは・・・。しかし、こうやって、俺達をあしらうトメさんも、たいしたもんだ」
トメさんもニヤリと笑うと、
「そりゃそうさ。あたしゃ、アンタ達が組に入りたてのガキの頃から、アンタ達の飯作ってるんだ。まだウダウダ女々しいようなら、政、アンタにはピーマン、秀、アンタにはニンジン食わせるよ!」
政と秀こと山崎は、顔を見合わせ、ぷっと吹出し、
「トメさん、そりゃ勘弁だ」
「本当や、俺、嫁さんにも無理言って、ニンジン外してもろてるのに・・・」
笑いが部屋を包む。
昔を懐かしく思える暖かいひと時だ。
我にかえった秀が、
「しかし、トメさん、何で病院に?」
トメは、一つため息を吐くと、
「情けない事に、心労がたたって昨日倒れちまってね・・・。そのまま救急車で、この病院に入院したのさ。明日には退院出来るんだけどね・・・。アンタこそ、身重の嫁さん。美沙ちゃん、ほったらかしにしていいのかい?確か臨月だろ?」
政が驚く。
「なんだ、秀さん。美沙ちゃんと籍入れたのか!しかも子供まで・・・」
n秀は淋しく笑うと、
「あぁ、先代の組長が亡くなられて、暫くして美沙の妊娠が発覚ってな。責任取って、籍入れたんや。ほんで、今日、美沙は吉野の実家に帰した・・・」