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はねくみ☆セブン  作者: こころ龍之介
一日目
16/243

ep.016 冷たい炎

「はい、稲美さんのお兄さんは、よくお電話を掛けていらっしゃいます」

「どんな事でです?」

今度は、桜子が問う。

「鷲尾さん、鈴木さんはバレー部なのよ、でも稲川さんは・・・」

即座に解答を、桜子は出すと、

「何も入っておられませんよね?」

「そうなの・・・。この前も、夜の8時前に学校に電話があって、『まだ雪江は帰宅していない。何時に出たんだ、どんな躾しているんだって』、えんえん1時間も・・・」

桜子が、深いため息を()き、

「躾は、保護者が行うもんですよね、普通」

聞いていた睦月が頷く。

「ただ・・・」

「ただ?どうしました?橘先生」

かなり、橘は躊躇(とまど)っている様子である。

睦月は、橘の手を取り、目を見つめた。

「一人で背負い込まないで、僕が一緒に担ぎますから、おっしゃって下さい」

その言葉は、限りなく優しい。

見兼ねた桜子も、

「橘先生、私も力になりますから」

と力いっぱい微笑んだ。

「鷲尾さんも・・・、ありがとう」

橘は、白衣からハンカチを取り出し、目元を拭い、

「ええ、話さなくては、理解(わか)りませんものね・・・。そうやって、電話でクレームを聞いていると、稲美さんが帰ってきたみたいで、お兄さんは電話を放り出し、何か言い出したんです」

睦月は握る手に軽く力を込め、

「何と言ってましたか?」

「はい、聞こえてきたのは、頬を叩く音、『何処言ってやがったんだ、心配かけさせるんじゃねぇ』と言うお兄さんの台詞、そして、『アタシが何処行こうと、アンタには関係ないだろ!』と怒鳴る稲美さんの声。正直、もの静かな彼女がここまで声を荒げるのにも、びっくりしました。ここまでは、思春期のよくある家庭内のいい争いだと思います」

「違ったんですね?」

桜子が状況を想像し、恐いくらい冷静に聞いた。

橘は頷く。

「電話口の向こうから聞こえてきたのは、『まだ、立場が理解(わか)ってないようだな!』と稲美さんと同じように声を荒げるお兄さんの声。それと・・・」

橘は身震いすると、

「更にこう言ったんです『身体で理解(わか)らせるしかねぇか、おい脱げ、さっさとしねぇか』、それから、何かを破る音、しばらくして、聞こえてきた若い男と女の喘ぎ声・・・。私がそうやって呆然と聞いていると、電話はいきなり切られました・・・」

ずっと誰にも話せなくてて、辛かったのだろう、橘の目に涙が溢れる。

睦月は橘を抱きしめ、

子供をあやすように諭した。

「お辛かったでしょう。もう安心ですよ」

「睦月先生・・・」

妹を溺愛する睦月の目に、恐いものが宿った。

ちらりと睦月が、桜子を横目で見る。

窓は開いてないハズなのに、桜子の髪の毛が舞った気がした。

桜子は、静かに怒りをもたげつつある。

まるで冷たい炎の様に・・・。

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