ep.158 格の違い
山崎は、愛車・レクサスを富田森記念病院の玄関に横着けすると、緊急搬送口から中に入った。
その姿を見て驚いたのは、政から買い物を頼まれ丁度エレベーターから出てきた礼司達である。
仁が顎で山崎を指し、囁く、
「礼司君、アレ・・・」
礼司は頷くと、
「どー見ても、ヤーさんやなアレ・・・。丁寧に尋ねてみて、行き先が兄貴んトコやったら・・・」
「ツブす、だね・・・。礼司くん」
智巳が残酷に笑う。
普段、虫も殺さぬ色男振りなだけに、こんな時の智巳は恐ろしい。
既に三人は、山崎と闘う気でいた。
礼司が、山崎に声を掛ける。
「あのー、すいません・・・。失礼ですが、どちらのお部屋に?」
言葉使いは丁寧だが、表情は冷たい。
政にすぐ会えると思っていた山崎も、当然牙を剥く、
「あ”あぁ?お前らに答える義務は無い。すまんな、俺、急いでるんや」
山崎が軽くあしらったので、気を悪くした礼司が、
「オッサン、もしかして、905の部屋に用事か?だったら、行かせる訳には行かないなぁ」
普段の山崎なら、チンピラの戯言と捨てておくのだが、今日ばかりは違った。
心の中では、政に会える事の嬉しさが勝っていたのだ。
つまり、邪魔するヤツは全て“排除”である。
山崎は軽くため息を吐くと、
《はぁ・・・、どうして俺はいつもこうなんだ・・・》
落胆を隠せない。
礼司は、山崎の風体から誤った判断をした。
まだ山崎が代紋を着けていれば、話も違ったのだろうが・・・。
《このオッサン、恐らく殺し屋!だとすると、兄貴が危ない!》
礼司は、仁と智巳に目で合図をする。
二人が動いた。
仁が山崎の右腕を、智巳が左腕を押さえ付ける。
山崎は焦り、
「おっ、おい、お前ら・・・」
礼司が恐い気を放ち、
「オッサン、俺らに出会ったのが、不幸やわ。覚悟せーや!」
渾身の右ストレートで、山崎の顔面を殴りつける。
手応えは確かにあった。
山崎は逃げずに、正面から礼司の拳を受けていた。
格の違いというのであろうか、山崎はニヤリと笑い、
「坊や、いいパンチだが、まだまだだな」