ep.157 マグマム・ワィバーーーン!
ベスは愛車の真っ赤なビモータ・db1に跨がると、
《正直、さっきは藍には、びっくりさせられたわ。あの子だけが、直接アクセサリーを身に着けてくれないから、動きがスキャン出来ないのよね・・・。何かしら理由でも有るのかしら?そのうち話しないとね。それはともかく・・・》
ベスは、db1のセル・スイッチを押しエンジンをかける。
《とりあえずは寒さと風圧対策ね・・・》
ベスは、右人差し指と中指を揃えて真っ直ぐ伸ばし、左手首のブレスレットの最初にクリスタルを、次にルビー、そして、エメラルドを触った。
指に赤い光と緑の光が灯り、ベスは要領良く空中に五芒星を描き、次にそれがすっほり収まる様に真円を描く。
ベスは円の周りに口に出しながら、魔法呪文を古代ゲール語で書いていく、
『大魔女ソーニャ・スノウィオウロードの孫にして代理人であるエリザベス・スノウィオウロードが、火の精サラマンダー・風の精シルフに願う、我に炎の温もりと風の盾を!マグマム・ワィバーーーン!』
そう言い放つと、最後にもう一度、呪文を取り囲むように大きい真円を描き、魔法陣を仕上げると宙に放り投げた。
魔法陣は宙で大きくなると、すっと降りてきてバイクとベスを包み込む。
刹那、まばゆいばかりの光を放ち輝くと、あっと言う間に消えてしまった。
ベスはニィっと笑い、
《ふふっ、これで6時間は寒くもないし、風圧にも影響受けないわね》
愛車・db1のタンクを軽く撫で、
「スカーレット、行くよ。北へ・・・」
ヘッドライトがウィンクのように点滅した。
《可愛い子》
ベスはアクセルを回し、河内長原の街へ駆け出して行った。
山崎は、レクサスのステアリングを操りながら、政を思う。
《政さん、俺はアンタに言わなくちゃいけない事が沢山あるんや》
レクサスは阪神高速から西名阪道へ抜け、藤井社インターで降りる。
国道170号線を南下し、富田森記念病院を目指した。
丁度、富田森市に入った頃であろうか、山崎は不思議な体験をする。
前方から来たバイクと思われる物体が加速し、一瞬光を放つとそのままフワリと宙に浮き、北を目指して飛んで行ったのだ。
《はぁ、何じゃありゃ?あれがUFOっちゅうヤツか?それとも、俺、頭おかしなったんか?ヤバい、酒飲み過ぎたか・・・》
山崎は少し先にあるファミリーマートに車を停めると、ダッシュで店内に駆け込む。
ミネラルウォーター“八甲田の粋な水”の2リットル・ボトルを二本買い、駐車場に戻ると頭から一気にぶちまけた。
水の冷たさが心地良い。
《疲れてんのかな?アカン、アカン、そんなん言うてられへん・・・》
山崎は、両の頬を自分で思いっきり平手打ちすると、
「っしゃあー、気合い入った!」
再びレクサスに乗り込み、富田森記念病院を目指した。
空には赤い上弦の月、風はまだ冷たい。