ep.154 俺、政さんに会ってくる
意外な名前が出た事に、山崎はかなり驚く。
動揺を隠せず、ハルナの両肩を力強く掴むと、
「おっ、おい、ハルナちゃん。自分、今、何て言うた?まっ、政、政さんて言わんかったか?」
ハルナは肩の痛みに、顔を少し歪め、
「いっ、痛い・・・。痛いって、山崎さん」
山崎は手を離し、
「すっ、すまん。せやけど・・・」
ハルナは、深くため息を吐き、肩を触ると、
「どんだけ力入れて掴んでんねん、ホンマ。あー、確かに言うたよ、政さんて」
山崎は顔をぐっとハルナに近付け、
「生きてるんか?政さん」
どう答えていいか判断らないハルナは、首だけを縦に振って答えた。
「そうか~、良かった。ホンマ良かった。政さん生きてた」
そう言って山崎はテーブルのナプキンで目頭を抑え、ハルナにポツリポツリと語り始める。
「俺ら、兄弟分でな。政さんは少し俺より年下やねんけど、組での位は俺より上で・・・。俺が《若頭》って呼ぶと、政さんは照れて、『やめて下さい、山崎さん。俺、そんなガラじゃないです』そう言って、俺を諭してな・・・。もちろん、殴り合いの喧嘩もしたが・・・、いつからか《政さん》《秀さん》と呼び合う仲になって。俺はあの人の盃なら、子分として受けたいと思ったんや・・・」
言い終えると、少し遠い目をし政を思う。
山崎の様子を見て、決心したハルナは、
「あんな、山崎さん。政さんの居場所・・・、知りたい?」
「教えてくれるんか?頼む、この通りや!」
山崎は、手を合わせ頭を下げたまま動かない。
《これは、山崎さんに教えても、害はなさそうやな・・・》
ハルナは瞬時に答えを出し、
「理解った。山崎さん、顔上げて。政さんは富田森記念病院に居てはるわ。つい一ヶ月前くらいに、905号室に転院してきてんて。ウチと同居してる親戚の子が、偶然仲良くなって・・・」
「富田森記念病院・・・、905・・・」
山崎はそう呟くと、拳を握りしめ、自身の顔を殴りつける。
意識はまだハッキリしない。
更に山崎は、テーブルのアイスペールを取り、勢いよく自身の頭の上にぶちまけた。
氷と溶けた水が、山崎に降り注ぐ。
山崎は頭をブンブンと横に振り、水滴を飛ばすと、
「目が醒めた。おおきに、ハルナちゃん。俺、政さんに会ってくる」