ep.152 時間が過ぎるのを待っている
店の一番奥の席に、“河内稲美会”若頭・山崎は一人で座っていた。
既にどこかの店で飲んでいるのか、顔が幾分赤い。
山崎は俯いたまま時折ため息を吐き、時間が過ぎるのを待っているかにも見えた。
ハルナは山崎の前に立つと、人を安心させるような満面の微笑みを浮かべ、
「山崎さん、指名ありがとー。びっくりしたわ、まさか今日来るとは思わへんかったし」
山崎は目を細めハルナを確認し、淋しげに笑うと、
「大きな借りが有ったし・・・、それに、ちょっと頼みたい事も・・・」
「なんや、何か辛気臭いなぁ。どーしたん?とりあえず、横座ってええ?」
山崎は頷く。
「飲み物は何にする?水割り?」
ボソリと山崎は漏らす。
「いや、ロックにしてくれ。今日はなんぼ飲んでも、酔われへんねん・・・」
「ロックね、ええよ」
ハルナはボーイに指示して、ロックグラスを受け取る。
手早く氷を入れ、セットのウィスキーを少し多めに注いだ。
軽くマドラーを回し、
「ダブルにしといたわ。ウチも何かもらってかまへん?」
そう言って山崎にグラスを渡した。
山崎は受け取り、
「何でも好きなん飲んでくれ、ハルナちゃん」
ハルナは、いつもならウーロンハイ風ウーロン茶をオーダーするのだか、山崎が来てくれて、かなり機嫌が良くなり、カクテル“ヨギパイン”を注文した。
すぐにカクテルがテーブルに置かれる。
「ほな、山崎さんとの再会に、かんぱ~い」
「かんぱい・・・」
グラスの当たる軽い音がテーブルに響いた。
ハルナはカクテルを一口飲み、
「くぅー、めっちゃ美味しい~」
刹那、山崎のグラスがテーブルに置かれ、ハルナがふと見て、驚く。
空なのだ。
「えっ、ダブル一気したん?」
山崎はボソリと囁く、
「お代わり・・・」
ハルナは、軽くため息を吐き、
「はいはい、お代わりね」
ハルナがウィスキーのお代わりを作って山崎に手渡すと、また山崎は一気にあおってしまった。
また、『お代わり』と山崎が漏らしたので、これにはさすがにハルナは呆れ、何があったかと山崎を見回す。
ある事に気付いた。
「ちょっと山崎さん、大事なバッジどうしたん?」