ep.015 雪江の過去
橘は、少し蒼ざめ頷く。
様子を心配した睦月は、作り笑顔でフォローする。
「橘先生、二人の事、少し教えて頂けませんか?」
「はい、稲美雪江さん、鈴木直子さんの両名とも富田森第七中学の出身で、成績は、まあ普通です。性格は、稲美さんは物静か、鈴木さんは明るいですね。ご両親は、鈴木さんが確か外資系の商社で、稲美さんが・・・」
睦月は優しい。
「橘先生、僕は何を聞いても驚きませんから・・・」
桜子が諭す睦月を見て、感心する。
《さすが、睦月先生、ポイントを心得ている・・・》
「はい・・・、稲美さんのご両親は、いらっしゃいません。既に去年揃って他界されています・・・」
「!!」
「睦月先生と鷲尾さんが、聖クリに来られたのが去年の二学期の始めだから、ご存知ないかも知れませんが・・・、それより前、ちょうど、今頃だったと思いますが、隣の富田森市で暴力団同士による抗争が在りまして・・・」
瞬時に、桜子は頭の中のデータベースを検索する
「新聞にも割と大きくでていた事件ですよね?確か・・・、暴力団・河内稲美会の組長と奥さんが、外出から戻って来た処を、散弾銃で撃たれて・・・。あっ!稲美会!!もしかして、亡くなったのって・・・」
「ええ、稲美雪江さんのご両親です・・・」
橘は、痛ましそうな表情で告げた。
「そんな事が・・・、稲美さんに・・・」
桜子の顔も曇る。
「成る程・・・、稲美さんのご両親が既に鬼籍だとすると、彼女の今の保護者は誰なんです?」
橘は、深くため息を吐く。
「稲美さんには、10才程の年の離れたお兄さんがいらっしゃって、その方が保護者になっています・・・」
睦月は、雪江の兄の事を話す橘の態度がおかしいのに気付き、更に優しく問う。
「まだ、ありますね?」
「は・・・い・・・、彼女のお兄さん、クレーマーなんです。もちろん、聖クリには、同じ様な生業をされている生徒の親御さんも何人かいますが、今までの場合でしたら、むしろそう言った方は、反対に学校に対し、何も言わないのが常となっています」
「まぁ、詳しくは知りませんが、そういう世界の人は、体裁や体面を気にされるみたいですし。上に行けば行く程、逆に何も言わなくなると思っていましたが、違うのですか?」
睦月が、不思議そうに尋ねた。