ep.148 ピアノ・ソナタの流れる部屋で
「ありがとう、ベス。部屋を使わせてもらって。雪江ちゃんの様子は?」
桜子は脚を組み、目を伏せたまま背後の扉から入って来たベスに声を掛けた。
ベスは優しく微笑むと、
「ぐっすり眠っているわ。直子ちゃんも傍に居るし・・・、一応、ラベンダーのアロマ・キャンドルも点してきたけど」
そう言って、空いているソファーに座った。
部屋の中は、レースのカーテンによって、柔らかい光が部屋を満たしている。
桜子達の背後で、静かにショパンのピアノ・ソナタ第三番が流れていた。
桜子を中心として円を描くように、右側にこころ、瑠奈、皐月、ローズ、ベス、そして、藍の順で座っており、表情は全員一様に硬い。
桜子は目を開くと、仲間達を見回し、
「全員揃ったわね。皆んな、今日は調査とフォローお疲れさま。まず、アタシから報告させてもらうわ」
こころがギリっと奥歯を噛み締め、
「何ね、何ね、何ね!雪江ちゃんや直子は、ヤクザの覇権争いのネタにされとると?その為だけに、あんな目に逢ったと?」
皐月がすっと立ち上がり、こころの背後に回ると右肩に手を掛け、
「こころ、少し冷静にならないと・・・。熱くなりすぎては、いけないわ」
こころを諭す皐月の右手も、かなりの力が入っている。
皐月は、桜子に目をやり、
「桜子、私は今から北海道に飛びます。明日の朝一の便で、帰って来るわ」
「ええ、お願いね、皐月。気をつけて」
北海道へ旅立つ皐月の姿は、革のタイトミニに、蜘蛛の巣柄の網タイツ、黒のビスチェ、そして漆黒のはねくみのライダージャケット姿である。
胸元と左中指には、ベスからもらったアクセサリーが妖しい光を放つ。
「しかし、皐月。北海道に行くには、少しセクシーすぎじゃなくて?」
桜子が、皐月の姿をまじまじと見て漏らすと、皐月はクスっと笑い、
「札幌の男達を虜にして、情報を聞き出すにはこれくらい着ておかないと、ね」
刹那、藍が椅子から降りると、皐月にひょこひょこ近付き、
「皐月ちゃん、耳貸しておくれやす」
藍が何か囁き、皐月は頷いた。