ep.145 それが一番正しいと思うから
聖マリア寮5階にある桜子の執務室の中には、桜子、雪江、そして、瑠奈がいた。
雪江はソファーに座り、うっすら額に汗をかき深く目を閉じている。
その傍らで、瑠奈が雪江の左手を取り、心配そうに彼女を覗き込んでいた。
桜子は立ち上がると薔薇のアロマ・キャンドルを吹き消し、雪江にかけた暗示を解く。
彼女を抱きしめ、
「もう安心だからね。アタシ達が、アナタと直子ちゃんを護るから・・・、今はゆっくりおやすみ・・・」
桜子の瞳には、哀しみの涙と静かな怒りが浮かんでいる。
そして、桜子は更に雪江の耳元で何か囁く。
雪江はコクンと頷き、意識を失ってしまった。
瑠奈は心配そうに驚き、
「桜子ちゃん。雪江ちゃんは、どぅしちゃったの?」
桜子はハンカチで涙を拭くと、瑠奈に優しく微笑み不安を取り除く。
「この娘はね、凄く気を張って生きてきた女の子なの。瑠奈や、今、こうして告白してくれた事で抱えていた秘密は無くなったけど、心のケアは万全とは言えないわ。だから、少しの間だけ眠ってもらったの、雪江ちゃんの大好きなお母さんが、夢に出てきて癒してもらえる様にして・・・。多分・・・、ううん、それが一番正しいと思うから」
瑠奈は安心し、
「そぅなんだ・・・、ゃっぱり桜子ちゃんは、スゴぃゃ」
桜子は首を横に振り、
「いいえ、違うわ。こうして雪江ちゃんが心を開くきっかけを作ってくれたのは、瑠奈、アナタよ。これは聖クリ生徒会長として、礼を言わなくちゃ。ありがとう」
不思議な事に、瑠奈は少しだけ哀しい表情をすると、
「ぅぅん。だって雪江ちゃんは、大事なぉ友達だし・・・。それに、桜子ちゃんも、大切なぉ友達だから、もっと、ァタシにも甘えたり、無理言ってくれてぃぃんだよ」
桜子は、深く反省した。
確かに、瑠奈の指摘の通り、“はねくみ”メンバーの中で瑠奈だけには甘える事を控えている節はあった。
しかし、それはそれで、桜子の瑠奈に対する優しさであったりするのだが・・・。
「確かにそうね・・・。ゴメンね、瑠奈」
「ぅぅん。理解ってくれるだけで、ァタシは嬉しぃから・・・」