ep.142 信用ならんヤツ
“河内稲美会”会長補佐・岸田は、イラついていた。
それもそのはずである。
会長の裕一に刺された脚の治療を愛染病院で行い、出てきてみれば右腕の若頭・山崎の姿が、車共々見えないのだ。
「山崎のダボ、何処行っとんや!」
岸田はそう漏らすと、携帯を取り出し山崎へ架ける。
数回の呼出し音の後、携帯は直ぐに留守番電話に変った。
《あー?何で出よらへんねん》
岸田は再度試みる。
やはり、携帯は繋がらなかった。
《使えんやっちゃ・・・、若頭から降格や!》
岸田は諦め、別の番号にかける。
《あんまり、コイツは使いたくないんやけどな》
コールが二回鳴った後、相手はすぐに出た。
「壱野か?俺や、岸田や。今、何処おんねん?あー?羽曳川?今から富田森の愛染病院まで、ワシ迎えに来てくれ!あ?債権回収中?そんなもん明日でかまへんわ。すぐ来いよ、すぐ」
《ホンマ、どいつもこいつも、使えんヤツばっかしや!あのボンクラかて、ワシの脚刺しやがってからに、そのうち鉛弾ぶちこんだるからの》
岸田は、ポケットからラークを取り出すと火を着ける。
一口だけ吸い込み、すぐ靴底で揉み消した。
しかしながら、イラつきは消せそうになかった。
15分もした頃であろうか、姫路ナンバーの黒のベンツ・C280が愛染病院の玄関先に着く。
壱野だ。
ウインドウを下げ、ニヤけた顔をちらつかると、
「お待たせしました、補佐。どうしたんです?その脚?山崎さんは?」
足元にかなりの吸い殻を作って、相変わらずイラついてる岸田は、ベンツの後部座席に乗り込むと、
「刺されたんや、ボンクラに!」
「ボンクラ?」
壱野は、わざととぼけてみせた。
岸田はキレ気味に、
「ボンクラや!ボンクラ!会長のボンクラにや!」
「麻薬が原因でですか?」
「俺が知るか!とりあえず、堺の俺の事務所行ってくれ」
「はい、本家じゃなく、補佐の事務所ですね」
ベンツは堺を目指して走り出した。
壱野は口には出さないが、岸田が刺された事が面白い様だ。
岸田は流れる景色を見詰めながら、
《コイツは信用ならんヤツやからの、気をつけんと・・・》




