ep.014 理科準備室にて
職員室と同じフロアの理科準備室に三人は入り、橘が電気を着ける。
「適当に座ってもらって、構わないわ」
桜子と睦月に告げると、橘は角にある冷蔵庫に駆け寄る。
「オレンジジュースでいいかな?」
橘は、三本の缶ジュースを冷蔵庫より取り出して、座っている睦月と桜子に渡す。
オレンジジュースの缶が、キンキンに冷えているのが心地よかった。
睦月が、橘が自分の席に座ったのを確認し、話を切り出す。
「で、橘先生、お話というのは?」
睦月の口調は優しい。
橘は軽くため息を吐き、
「睦月先生、鷲尾さん、今から話す事は、他言無用でお願いしたいの」
と頭を下げた。
桜子と睦月は、顔を見合わせると頷く。
橘は、語り始める。
「ありがとう。実は数日前の事なんだけど、私の看護師をやってる友達から連絡が入ったの、聖クリの生徒二人がヤクザ風の男に連れられ、ウチの病院に来たの知ってる?って」
桜子は尋ねる。
「我が校の生徒で間違いないんですか?」
「ええ、ウチの制服着ていたから間違いはないそうよ」
「それで?」
睦月が、話を促す。
「実際、診察と処置を行われたのが、二人の内、一人だったのね。しかも、その女の子の制服は破れたりしていたらしいわ」
桜子は、急に気持ちが高ぶり、持っていた缶ジュースを凹ませた。
「それって、レ・・」
橘が、言葉を遮り、話を続ける。
「友達が奇妙に思ったのは、暴行事件の様なのに警察が来る訳でもなく、健康保険を使ってないので、カルテに記載されていた名前も正直偽名臭いって・・・」
「なるほど・・・、続けてもらえますか、橘先生」
睦月の顔が引き締まる。
「で、友達が、さりげなく同僚の看護師に、人物を特定出来る情報を聞き出してくれたの。出てきたのが二つ。ヤクザ風な男は大袈裟に処置を受けた女の子を“ゆきえ”と、もう一つがその男が何も無かった女の子に“すずきさん”と気持ち悪く呼び掛けていたって事なの・・・」
桜子は目を閉じ、頭の中にある聖クリ全生徒名簿の検索をかける。
《橘先生、ゆきえ、すずきさん、女子生徒、この検索からヒットするのは 、確かに二名・・・》
ここまでの所要時間、僅か0.5秒。
桜子は目を開け、橘に静かに語り掛ける。
「つまり、橘先生のクラスの稲美雪江と鈴木直子に、何かしらのトラブルが降り懸かっているとお思いなのですね」