ep.136 政の覚悟
「そんな事が、雪江お嬢さんの身の上に・・・」
「ごめんなさぃ、言わなぃ方が良かったですよね」
政は強い意思を固め、心配掛けまいと瑠奈に笑い、
「いや、瑠奈さんの話聞いて、迷いが吹っ切れました。俺は、あん女を、雪江お嬢さんを、一生掛けて護っていく。それが俺の務めであり、亡くなった会長さんや姐さんに対する恩返しです」
「それって、もしかして?」
政は照れ、
「ええ。恥ずかしい話、年は離れてますが、俺は、雪江お嬢さんに惚れてました。気持ちは隠してましたが・・・」
瑠奈は、まるで自分の事の様に喜び、ぽろりと涙を流すと、
「ぅん。良かった。ァタシ、政さんに話して良かった」
政は限りなく優しい口調で、
「瑠奈さん、心配かけました。ただ、瑠奈さん、俺に話した事は内緒にしてやって貰えませんか?」
瑠奈は頷く、
「ぇぇ、政さんがそぅ言ぅなら」
「ありがたい」
そう言って、政は頭を下げた。
瑠奈は時計を見て、あっと漏らす。
鞄からお弁当を取り出すと、政に手渡した。
「これ、ぉ口に合ぅか判りませんが、礼司さん達と食べてみて下さい。じゃぁ、ァタシ行きますね」
深々と頭を下げ、瑠奈は政の病室を後にする。
残された政は、何気にお弁当を開けた。
おにぎりを一つ取ると、ぱくり一口頬張る。
母ちゃんの味がした。
《美味い!懐かしい味だ。しかし、俺も覚悟決めないといかんな》
そうやって思いを巡らせていると、扉が開き礼司達が帰ってきた。
「あっ、アニキ。何ですかその弁当!ズリィ~」
政はガハハと笑い、礼司達を手招きし、
「お前らも、黙ってこれを食え!美味いから」
礼司達は、それぞれおにぎりを手に取るとがぶりと食べ、
「美味っ!」
「!!!」
「美味いっす!今まで、こんな美味いおにぎり食った事ないっす。政のアニキ」
かなり感動した仁が、思わず、
「あの瑠奈さんて、彼氏居るんすかね?」
礼司が仁の肩を抱き、
「残念だったな、仁。イケメンで優しい彼氏が既に居てるそうだ」
「礼司くん、マジで?」
礼司は黙って大きく頷く。
「あ”~、振られた。告る前から振られた。これで、53連敗や」
智巳は、仁を慰めようと、
「安心しろ、仁。世の中には坊主頭を好きって、女の子も稀にいるから」
「智巳、イケメンのお前が言っても、フォローになれへんし~~~」
瑠奈は混み合うエレベーターの中で、
《思ったより時間かかっちゃった・・・、雪江ちゃんに謝らなきゃ》
ドアが開くと、聞き慣れた声が聞こえてくる。
「あっ、瑠奈ちゃ~ん。こっちえ。皆んな一緒どす!」