ep.128 藍のCD、直子の霊感
「さぁ、ローズちゃん、直子ちゃん、富田森記念病院行くえ~」
藍はローズの愛車日産・キューブの助手席に滑り込むと、高らかに目的地を告げた。
ほぼ同時に、ローズは運転席、直子は後部席に乗り込み、OK!と返答する。
藍はごそごそと鞄の中から、二枚のCDを取り出し、
「どっちが、よろしおす?」
直子が覗き込むと、一枚は邦楽、もう一枚は洋楽だった。
一人は知っているアーティストである。
ローズが、エンジンキーを回しながら尋ねた。
「誰ト、誰デスカ?」
「“パティ・スミス”はんの“イースター”と、“中島美嘉”はんの“ジ・エンド”どす。昔のニューヨーク・パンクと、NANA名義のアルバムどすなぁ。今日は、パンク・セレクトにしてみました」
ローズがワォといい、
「Patti Smith、カッコイイヨ~。マイマムノ、大好キ~ナ、artistネ!」
藍も頷き、
「カッコよろしおすなぁ。ほな、先に“パティ・スミス”はんにしましょ。帰りに“中島美嘉”はんで」
藍がCDをセットするやいなや、ローズが手を伸ばし曲を何曲か飛ばす、
「Because The Nightガ、聞キタ~イデ~ス」
ローズは、密かにいつも藍が持ってくるCDが楽しみであった。
理由は簡単で、リクエストしない限り、同じCDを二度とは持ってこないのであるのと、同じ世代ながら藍の音楽知識は半端なく広いので、いつも軽いサプライズが有ったりするからである。
車が動きだし、ローズがPatti Smithと一緒に歌いだした。
余り美声とは言えないが、楽しそうである。
直子は、初めて聞くPatti Smithのしゃがれた声に、感動を覚えた。
《カッコイイ!知らないアーティストがまだまだ有るなぁ》
5分程、車を走らせた頃であろうか、レンタルビデオ店に貼ってあるホラー映画のポスターを見て、直子が昨夜体験した事を思い出した。
少し身震いする。
「藍先輩、あの聖マリア寮って、出ますよね?アタシ、トイレに夜中に起きた時に、人魂みたいなの見たんですけど」
藍はクスクス笑い、不思議な事を言った。
「大丈夫、気にせん事どす。寮に憑り付いてる訳やおへんから。直子ちゃんは、霊感あるんどすなぁ・・・」