ep.122 嫁の行き手が思いやられる
「何やら楽しそうどすなぁ~」
「ホンマネー、藍チャン」
藍とローズは、微笑ましい直子とベスの光景を見ながら入ってくると、
「ほな、お昼にしましょ、ベスちゃん、直子ちゃん。お待たせして、かんにんえ。お陰様でええの出来ました」
藍は、ペコリと頭を二人に下げた。
ベスは立ち上がり、大袈裟にお腹を触り、
「藍、アタシ、もーお腹ペコペコ」
直子も釣られて立ち上がる。
「藍先輩、全然構わないですよ。ベス先輩と楽しくお話してましたから・・・」
そんな台詞を言った時、直子のお腹が“ぐぅー”となった。
直子の顔が真っ赤に染まる。
藍はにっこり笑うと、
「体は正直どすなぁ、直子ちゃん。くすっ。ウチも、お二人と一緒でペコペコどす」
ローズも、
「ソー、直子チャン。ワタシモネー」
そう言った途端、ローズのお腹が直子以上の音を発てて鳴った。
「オー、ゴメナサーイ。ワタシ、一番ハングリーネ」
四人は顔を見合わせ、キャハハと笑いあった。
厨房から、四人に声が掛かる。
中年のいかにも大阪のおばちゃん然とした、少しドスの利いた声だ。
「ちょっと、あんたら、さっさと昼ご飯食べちゃってくれるかー。食べてへんの、あんたらだけやでっ。片付けたら、おばちゃん、駅前に買い物行きたいねん」
「あーい、おウメさん」
藍が元気よく返事した。
そして、付け加える様に、
「片付けウチするから、買い物行ってもよろしおすえ」
厨房からおウメさんは、おばちゃんパーマがよく似合う顔を覗かせ、
「かまへんの?藍?」
藍は、いつもの敬礼をして、笑って答える。
「あいっ」
「藍に、そう言ってもらったら、おばちゃん、ホンマ助かるわ。おおきに」
「かましまへんえ、おウメさん。それから、ウチらも片したら、出掛けるよし、お願いします」
藍はペコリと頭下げた。
ローズ、直子も続いて下げる。
おウメさんは不思議そうに、
「あら、ベスは行かないのかい?」
「はい、アタシは、今日はお留守番です」
「そーなんかい?だったら、お留守番のベスには、オヤツ買ってきてあげよ。何がいい?」
ベスの顔が明るくなり、少し考えると、
「お梅さん、今日はチーズケーキが食べたいです」
「ベスは、確か・・・。レアが良かったんだよね?」
ベスは大きく頷く。
刹那、食堂に残っていた他の生徒達も、
「えー、ベスだけズルイ~」
次々に口にしだしたので、おウメさんは深くため息を吐き、
「もー、ウチの娘達は、どんだけ食い意地が汚いんだい。全員分買ってくるから安心しな。ホンマに、嫁の行き手が思いやられるよ。はぁ・・・」