ep.012 全国制覇と温泉旅行
「しかし、芸術系の先生は熱いなぁ。そう思いませんか、鷲尾くん?」
と言って学年主任で現代国語教師の余崎和也が、後輩の生物教師の三好孝志と 数学教師の佐藤篤司を伴って、桜子の目の前に現れた。
「また、余崎先生、三好先生、佐藤先生まで、どうしたんです?」
三好が余崎を制して、
「余崎先輩、僕が話します」
余崎は頷く。
「実はなぁ、鷲尾。今度、次の全国共通テストに向け、特別対策のプロジェクト・チームを立ち上げたんだが」
「はい」
「それで、我々、教師で検討した結果、各学年の各科目のトップ10の生徒達に、それぞれアドバイザリー・スタッフとして参加して貰おうという事になったのだよ」
桜子は目を細め、
「面白い企画ですわね」
今度は、佐藤が話す。
「勉強方法、気をつけるべきポイントは生徒によってまちまちですからね。成績優秀な生徒達の意見を聞き、全体に反映させる事こそ・・・」
「学校自体の底上げになると、お考えなのですね?」
桜子は、佐藤の言葉を続けた。
余崎がニコリと笑い。
「そういう事だ、鷲尾くん。僕はこの学校での順位なんて余り意味が無いと思っていてね。それよりは、各科目、全国トップ100を聖クリが占めてしまう方が、面白くありませんか?」
桜子は少し考え、ニヤリと笑う。
「確かに・・・。勉強での全国制覇、興味がありますわ」
余崎は少し安堵し、
「理解ってくれましたか」
「はい。生徒会を上げて、全面協力させて頂きます。但し・・・」
余崎がギクリとし、冷や汗が額を伝たう。
「但し・・・、とは?」
こんな時の桜子は、冷ややかである。
桜子は、鉄扇を取り出すと優雅に開き、口元を隠して、
「当然、結果によっては、先生方の報酬が上がられる訳ですから、私どもにも、何かしらの形で還元して頂きたいですわ」
「せっ、先生達から、巻き上げようとするのですか?君は」
余崎の顔が赤くなる。
桜子は更に冷ややかに、
「あら、私はそんな私利私欲は、全くありませんわ」
「であれば、どうしろと・・・」
桜子の瞳が怪しく光る。
「そうですわね。全生徒を一泊二日で結構です。温泉旅行にでも、連れて行って下さいな」
「そんな無茶な・・・」
余崎は焦る。
学年主任で、決済出来るレベルでは無いからだ。
「あら、この達成による費用対効果は、全生徒の一泊二日の温泉旅行よりも、全然安いと思いますが」
桜子は、悪魔の如く笑う。
刹那、理事長室のドアが開き、リュウノスケを肩に巻き付けたJJが、思いっきりニヤニヤしながら登場した。
「面白い挑戦状ダネ。桜子ちゃん。いいヨ、受けて立つサ。来週月曜日の放課後にデモ、理事長室まで来てヨ、条件の打ち合わせするサ」
三人の教師達が驚き、
「理事長!いいんですか?」
理事長・JJは、リュウノスケを撫でながら頷く。
桜子とJJの間で、空気が重たくなり静かな火花が散る。
リュウノスケが、戦いのゴングを告げるかの様に、なぁ~ごと鳴いた。