ep.114 場をわきまえんかい!
「岸田のヤロー!組を売るようなマネしくさって!」
一番年下の悌士が真っ先に切れた。
それに呼応する様に、信次郎が、
「アニぃ、俺に殺らさして下さい」
「いや、アニキ、俺に!車にトカレフ積んでますから、俺に行かせて・・・」
孝弘の言葉を遮り、一番年配の義雄が、
「孝弘、ガキは引っ込んどけや!ワシがタマ取って来る!」
「あ”ーっ!誰に向かって言うてけつかんじゃ、オッサン!いわすぞ!!コラッ」
一触即発を見兼ねた忠志が、孝弘と義雄の間に割って入る。
「おい、義サンも孝も・・・」
頭に血が上っている孝弘は忠志の言葉を遮り、そして、忠志の右肩を張った。
「ビビりは引っ込んどけや!」
刹那、忠志は孝弘の胸倉を掴み、
「誰に対し吐かしとんじゃ、あ”ー!オドレ、締めるなんか、簡単やねんぞっ!」
さすが関西一の武闘派と言われる“河内稲美会”・山崎一派である。
もうこうなると手の付けようが無い。
山崎は深くため息を吐くと、忠志に近付き問答無用で横顔を殴りつける。
忠志は吹っ飛び、背中から石畳に落ち悶絶した。
忠志に手を離され、バランスを崩した孝弘の髪の毛を山崎は左手で掴むと、力任せに二度三度と頭突きをかます。
孝弘の鼻は出血し、戦意を喪失した。
山崎は孝弘の髪を離し、振り向き様に左の裏拳が放ち義雄の顎を殴り付ける。
義雄は口の中を切ったのか、顎を抑える手が赤い。
山崎はビビる信次郎と悌士を睨み据え、ずいと近付き、右の拳を悌士の腹に放つ。
山崎の拳は悌士の鳩尾にまともに入り、吹っ飛ぶ。
悌士は前のめりに倒れると、その場で嘔吐した。
山崎は悌士を殴った勢いに任せ、左のフックを信次郎のこめかみ目掛け振り抜く。
鈍い音がして、信次郎は膝を折り倒れた。
僅か十秒にも満たない間の出来事である。
山崎は忠志達に吠えた。
「オドレら、ココ、何処や思とんじゃ!先代の組長さんと姐さんの前やぞ!場をわきまえんかい!」
山崎はそう言い放つと、稲美家の墓石に向かい、土下座した。
「組長さん、姐さん、みっともない処見せて、すんませんでした」