ep.113 墓前の代紋
階段を上がりきった所に歓真寺の墓地は在り、更にその真ん中にある桜の古木の下に河内稲美会・先代組長とその妻が眠っている。
若葉の間からの木漏れ日が優しい。
山崎が召集をかけた弟分達は既に集まっており、引き締まった面持ちで彼を待っていた。
一様に皆、黒スーツ姿である。
山崎より電話を直接受けた松本忠志が、サングラスを外し、切り出す。
「秀ニィ、お疲れ様です。とりあえず、信用できる義雄、信次郎、孝弘、そして、悌士の四人だけ集めました」
山崎は忠志が集めた弟分達を見渡し、
「忠志、無理ゆってスマンかったな。皆も、ご苦労。先に組長さん、拝まさしてもらうわ」
忠志達も頷く。
山崎は持ってきた花を添え、線香に火を着けた。
辺りを線香の香りが漂う。
上品な香りは、白檀だろうか。
山崎は屈むと、スーツのポケットから折り畳んだ白いハンカチを取り出す。
ハンカチを開くと、中から黄金の稲穂を模った代紋が二つ。
黙ったまま、墓前にその代紋を捧げた。
目を閉じ、手を合わせる。
忠志達も、山崎に倣い手を合わせた。
静かに時間が流れる。
山崎は目を見開くと振り返り、忠志達に告げた。
少し苦しそうに・・・。
「俺・・・は、今の組を、河内稲美会を・・・、抜ける」
忠志達に動揺が走る。
「えっ、秀ニィどういう事です?」
「アニぃ!」
「アニキ!」
忠志達は、山崎に各々の疑問を投げ掛けた。
山崎は両手を差し出し、忠志達を黙らせ、
「俺はずっと疑問を抱えてた事が有った。今日、その答が判明った。お前ら、俺の性分、知ってると思うけど・・・」
忠志がゴクリと唾を飲み、
「判明ったんですか?先代を殺ったの」
「あぁ、聞いてくれるか」
忠志達は、顔を見合わせると頷いた。
山崎は、今の会長がヤク中になった理由、先代の殺害の真相、そして、それに関係する岸田と播州田嶋組の存在について忠志達に話した。
ただ、雪江が裕一に強姦されている事実だけは伏せて。