ep.011 熱き教師たち
聖クリ職員室は、教師たちの教育への熱気で包まれていた。
元々、私立の学校という事もあり、教師達は割と自由に授業カリキュラムが組めるのだ。
教師達は、日々いかにすれば、生徒の学力が上がるかを研究している。
また、生徒の学力アップ=教師の給料アップに繋がるのも身を持って知っていた。
教師の査定対象は、生徒達に年数回行われる学年別全国共通テストと、生徒達の部活動等での結果である。
理事長・JJは、教師達に一つだけ注文を出していた。
詰め込み教育やゆとり教育ではなく、生徒一人一人の事を考えた効率的な教育をして下さいと。
企業経営しているJJならではの発想であった。
桜子は、職員室の扉の前に立ち、深呼吸をすると、口元を引き締め、ノックする。
「鷲尾、入ります」
引き戸を開けた瞬間、全教師が会話を止め、桜子に注目した。
数人の教師達が、ここぞとばかりに桜子に近付く。
一番最初に、美術教師の真辺照代が駆け寄り、
「鷲尾さん、クレアと藍の競作の音楽祭のポスターの下書き見てくれた?」
「はい、真辺先生。私はアレでいいと思いますわ。でもクレアの事だから、もっと華美に、それに藍が加わるから、もっと斬新になるんでしょうね、仕上がりは。監修されている真辺先生の絶妙なさじ加減ポイントですよね」
と言って、桜子は微笑んだ。
「そうなのよ、かなり難しいけど、やりごたえはあるのよね。藍もクレアみたいに、美術だけに絞ってくれたらありがたいんだけど・・・」
それを見ていた音楽教師の植村学が、聞き捨てならない話題が出たので割って入る。
「真辺先生、それは困ります。藍には私としては、ぜひピアニストの道を歩んで欲しいのですから。そうは思わないか?桜子くん」
桜子は、少し困惑して、
「はぁ・・・」
「それから、桜子くんにも先生は、音大に行ってバイオリニストなって貰いたいんだが・・・」
「ははっ・・・」
桜子は、わざと真辺と植村の話の腰を折り、
「そういえば、植村先生、我がクラスの園咲メイ演奏によるのモーツァルトのクラリネット協奏曲って、どう思います?」
「メイねぇ・・・」
植村は考え、うん面白いと手を打つ。
「先程、若槻先輩と藍が音楽室に話に行きましたわ。ぜひ植村先生もご推薦されては?」
「そっ、そうだな、僕も行ってくるよ」
植村はその場を離れ、焦って音楽室に向かった。
それを見ていた真辺は、少し苦笑いをする。
「鷲尾さんも大変ね。週明けには、クレアにサンプル持たせて伺うから、見てやってね」
とウインクして席に戻っていった。