ep.108 タコさんウィンナーと林檎のウサギ
「ぁっ、このタコさんゥィンナーも食べてみて」
雪江は、タコさんウィンナーをつまみ上げる。
ある事に驚く。
「あっ、鉢巻き!ヤバい、可愛いすぎます。瑠奈先輩・・・」
「へへっ、瑠奈ちゃん特製タコさんゥィンナーだょ」
褒めてもらって瑠奈は、かなり嬉しそうだ。
実際、雪江はいたくタコさんウィンナーに感動し、作り方を教えてもらった。
「ポィントは、鉢巻きだょ」
瑠奈は笑う。
作り方を聞いていて、はっと雪江は気付いてしまった。
《あれ?アタシ、本当はまだ生きたいんじゃ・・・》
「後、定番だけど・・・、林檎のゥサギさんも有るょ・・・」
瑠奈はプラスチック製のタッパに入った林檎を見せた。
《えっ?林檎のウサギ・・・》
刹那、雪江の瞳から涙が溢れ出し、小さい頃の母との思い出が甦る。
『お母さん、アタシ、今度の大会では、ダブルアクセルは跳んでみるんだ』
『あら、失敗せずに出来るの?』
『うん、出来るようになったよ。だから・・・』
『はいはい、お弁当には林檎のウサギさん入れておかなきゃね。ちゃんと上手く跳ねれますようにって』
『やったぁ!アタシ、がんばるね。絶対、入賞するんだ』
『雪江、そのうち、トリプルアクセルとかも、跳べるようになれるといいわね』
「うっ、うっ、ひっく・・・。おっ・・・、お母さん・・・。うわぁーーーん」
瑠奈はオロオロするかと思いきや、雪江に近付くと抱きしめてやり優しく囁く。
「雪江ちゃん、ぃぃよ泣ぃて。我慢しなくて、ぃんだょ。ァタシは、ァナタの味方だから・・・。ずっと・・・」
雪江は瑠奈にしがみついたまま、泣き続けていた。
春風が優しく二人を包む。
雪江が泣き疲れた頃に、瑠奈はハンカチをポケットから取り出し、雪江の涙を拭う。
「雪江ちゃん、美人なんだから、笑わなぃと・・・」
「あっ、アタシは美人なんかじゃないです・・・。性格悪いし・・・。瑠奈先輩の方が全然女の子っぽいし、カワイイです」
瑠奈は真っ赤になって照れる。
同性から褒めてもらうのは、瑠奈にとって宝物だからだ。
「ははっ、ぁりがと。とりぁぇず、ぉ弁当食べてしまぉ」
雪江も、気を取り直し、
「はい、瑠奈先輩。さっさと食べないと、アタシが全部食べちゃいますよ。こう見えても元は体育会系ですから」
「ぇっ、ぇっ、それは困るぅ~~」
瑠奈と雪江は、きゃっきゃ言いながら、お弁当を楽しんだ。
数年後、雪江は我が子に瑠奈から教わった特製タコさんウィンナーをお弁当に作ってやる度に、この光景を思い出し、そっと心の中で手を合わせ瑠奈に感謝する事になる。
でもそれは、まだまだ先の話・・・。