ep.107 不器用な料理の天才
石川の堤防沿いに在る河川敷公園の芝生の上に新聞紙を広げ、瑠奈と雪江は向かい合い座る。
日差しは柔らかく、春風が心地好かった。
目の前には、鮮やかな黄色の菜の花が一面に咲いている。
瑠奈は、大きく伸びをすると、
「ぁー、気持ちぃぃ。ァタシ、この季節が一番好き。雪江ちゃんは?」
「アタシは冬生まれなので、冬が好きです」
「そーなんだ。冬もぃぃよね。雪も綺麗だし。さっ、ぉ弁当食べよ」
瑠奈は紙袋からお弁当を取り出し、広げだす。
雪江にお茶のパックを渡しながら、
「たぃしたぉ弁当じゃなぃけど、ゴメンなさぃ」
そう言って開けたお弁当の中身は、おかかと明太子のおにぎり、卵焼き、唐揚げ、タコさんウィンナー、そして、ハンバーグだった。
もちろん、全て瑠奈の手作りである。
雪江はいたく感動し、
「瑠奈先輩。コレ、全部、アタシの為に?」
瑠奈は照れながら、
「へへっ、見た目は、ぁんま良くなぃけどね・・・。もうちょっと、ァタシも、藍ちゃんや桜子ちゃんみたいに、センスが有れば、カッコぃぃぉ弁当になるのになぁ」
そんな瑠奈のセリフも気にせず、雪江はいただきますと言いハンバーグを一口。
確かに見た目は少々不細工ではあったが、そのハンバーグは雪江が今まで生きてきて食べたハンバーグよりも最高に美味しかった。
しかも、お弁当向けに作られているにも係わらず。
雪江は唸る。
「ん~~、何ですか、このハンバーグ!」
すると瑠奈は申し訳なさそうに、
「ゴメンなさぃ。口に合わなかった?」
雪江は全力で首を横に振り、
「ちっ、違います。瑠奈先輩、最高に美味しいです。もしかして、この唐揚げも・・・」
そう言って、雪江は唐揚げをパクり。
「卵焼きも・・・」
今度は卵焼きをパクり。
そして、破顔すると、
「めっちゃ美味しいです。もしかして、瑠奈先輩って料理の天才?だから、天才やクセ者揃いのF組なんですか?」
瑠奈は首をぶんぶん横に振り、
「そんな事ないょ。たまたまF組なだけだょ。使ってぃるのは、普通のスーパーでタイムサービスで買ったぉ肉とかだし・・・。ほら、ぉにぎりもどぅぞ」
照れながら、雪江におにぎりを差し出した。
瑠奈の料理の秘密のスパイスは、食べてもらう人に対するハンパない愛情である。
もう二度と食べてもらえないかもしれない。
そんな一期一会の気持ちでキッチンに立つ。
その愛情の深さが、どんなスーパーのタイムサービスで買った素材であれ、最高の旨味を引き出すのを、瑠奈は本能で知っていた。
そういう意味では、瑠奈は料理の天才と言えるかも知れない。