ep.106 かわいいイチゴが、ヤバいです。
昼過ぎの博愛会・富田森記念病院のロビーで、雪江はちょこんと長椅子に座り、瑠奈を待っていた。
昨夜運び込まれたお手伝いのトメさんも、ストレスからくる過労と診断されたので、雪江はちょっと安心している。
《あー、瑠奈先輩まだかなぁ・・・》
そんな矢先、病院の裏口から入って来た瑠奈は雪江を見つけ、お茶目にも驚かしてやろうとそろりそろりと近付く。
《へへっ、びっくりさせちゃぉ。雪江ちゃん、どんな顔するかな・・・》
“わっ”と言おうと思った瞬間、雪江が先に振り向き“わっ”と声を上げた。
予想しなかった雪江の行動に瑠奈は驚き、すべって尻餅を付く、
「ぅぁっ。ぁっ、ぁ痛たたっ・・・」
雪江は、瑠奈があまりにも見事に尻餅を付いたので、思わず吹き出し、
「もー、瑠奈先輩。バレバレですよ~。それから、かわいいイチゴがまる見えで、かなりヤバいです」
雪江が指差す先には、瑠奈が履いている菜の花柄のスカートがめくり上がり、ピンクのイチゴのパンティーがこんにちわしていた。
ロビー内の看護師や見舞客も、少し唖然とした後、笑う。
瑠奈は真っ赤になり、慌ててスカートを直し、
「もぅ・・・。どぅして、ァタシが近づいてぃるって?」
瑠奈が不思議がると、雪江は右側の窓ガラスを指して、
「アレに写ってたんです。静かに気配を殺して近づく姿、最高でした。くすっ。怪しくって」
瑠奈は納得した様子で、
「ぁー、それで!出しぬこぅと思ってたのにぃ・・・。まっ、ぃっか。それはそぅと、遅くなってゴメンなさぃ。コレ作ってたの!雪江ちゃんと食べよぅと思って・・・。はぃ、ぉ弁当!」
瑠奈は、右手に持っていた紙袋を差し出した。
雪江は、かなり感激して、
「うわぁ、いいんですか?」
瑠奈は大きく頷くと、
「雪江ちゃん、そこの河川敷公園行って食べよ。ォヤッにプリンも有るんだ」
そう言って、今度は左手のコンビニ袋を差し出した。
雪江は思わず口にする。
「プリンも!素敵です。瑠奈先輩」
瑠奈は満面の笑みを浮かべると、荷物を左手に全部持ち替え、雪江に右手を差し出す。
「じゃぁ、行こぅ。河川敷公園」
雪江は素直に手を繋ぎ、瑠奈と共に歩き出した。
雪江はふと思う。
《不思議だわ・・・。昨日初めて話したのに、どうしてこの人の前だと、こんなに素直になれるのだろ・・・。だから、“はねくみ”の一員なのかしら?だとしたら、やっぱり先輩達って凄いのかな?昨日、直子と来られた鷹見先輩も・・・》