ep.104 二つのお願い
皐月が聞き慣れない言葉に疑問を抱き、
「ミテコって?」
「あー、すんません。ミテコってのは、18歳未満の未成年って事ですわ」
「なるほど、稲美裕一には、彼女はいなかったのかしら?」
「捕まる前は居てたみたいですなぁ、淡い付き合いやったみたいですが・・・。確か・・・」
徳野は内ポケットから小汚い手帳を取り出すと、唾を手に付けページをめくる。
「あっ、これですわ。福知恵美。同じ大学の1コ下ですね。でも行方不明になってますなぁ。稲美裕一、逮捕以降。元々、北海道の女の子ですから、帰ったんちゃいますかねぇ。この女の子が居たら、あっこまで酷くはならんかったかもですなぁ・・・」
皐月は目を細め、考える。
《この福知恵美って子、必要かもね・・・》
「徳さん、その福知恵美さんの居場所、すぐ調べてくれる?費用は幾ら掛かってもかまわないわ」
徳野は、少しいやらしい笑みを浮かべると、
「皐月さん、料金はよろしおます。その代わり、二つお願いが・・・」
皐月は眉間に少し皺を寄せ、
「何?徳さん」
徳野は、少し緊張した面持ちで、
「一つは、今後、皐月さんの事、二人っきりの時は、“皐月様”とお呼びしていいですか?出来れば、私の事は、“徳”とだけ、さんは要りませんから・・・」
皐月は、クスっと笑うと、
「いいわよ、徳。私の事はご自由に・・・。もう一つは?」
「ありがとうございます、皐月様。もう一つはですね・・・。あのぅ、そのぅ・・・」
少しイラっとした皐月は、
「はっきり言いなさい、徳!」
徳野は真っ赤になって、
「はっ、はい。そのお飲みになっていたエビアンを、私めに下さいませ!」
皐月は、深くため息を付き、ほとんど空になったエビアンを徳野に投げ、
「大事にするのよ、徳」
すると、徳野はまるで宝物を扱う様に、それを拾うと感激で涙を流し、
「おおきに、おおきに、皐月様。私、大事にします」
皐月は席を立ち、徳野に近付く。
左手で徳野の顎を持ち上げ、サロメの如き妖艶な微笑みで囁く、
「徳、さっきの福知恵美さんの居場所、二時間以内で調べて。ご褒美はそうね・・・、今度は飲みさしのコーラをあげるわ」