ep.102 私、幸せ過ぎます
「後、今の組長は、どうやって捕まったのかしら?記事には詳細は載ってないけど・・・」
「それは、タレコミですわ。その日、兵庫県警の麻薬取締本部に匿名で連絡が入ったそうです。当時、稲美裕一が住んでいたマンションの部屋に、ヤクの売人が出入りするって・・・」
皐月は少し喉の渇きを覚え、テーブルの上に置いてあるエビアンを一口飲み、
「ふーん、それで?」
エビアンを飲む姿に、性的興奮を感じる徳野は口元をニヤつかせ、
「くぅ、水を飲む姿も艶っぽいですなぁ、たまりまへん・・・」
徳野が返答をせずに、怪しい視線を投げているのに気付いた皐月は、
「あら、ダメな男ね」
そう言い放つと、右手で徳野の左耳をつねり引っ張り上げた。
痛みで我に帰った徳野は、謝りを入れ、
「あっ、痛っ・・・。ホンマ、すいません。あんまりに皐月さんが色っぽいもんですから・・・」
まだ徳野の耳を放さずに皐月は、耳元で息を吹き掛けながら囁く、
「そんなにセクシー?そんなに色っぽい?」
徳野は言葉で答える事が出来ず、頷くしかない。
刹那、皐月の左手が徳野の頬を思い切り叩く、ビンタの音が部屋中に響いた。
「感じる前に、とっとと喋れ、この鈍亀!」
徳野は、右の頬にくっきり着いた真っ赤な紅葉の跡を触り、
「うわっ、うわっ、あっ、あかん、あきません、皐月さん。そんな、ビンタなんて仕打ち・・・、私、幸せ過ぎます」
徳野は悦にいっている。
少し切れ気味の皐月は、残っているエビアンを徳野の頭から降りかけ、
「徳さん、正気に戻った?続きを聞かせて!」
正気に戻った徳野は、
「はっ、すんません。続きでしたね」
「そっ」
「どこまで話ましたっけ?」
皐月は呆れて、
「稲美裕一の部屋に、売人が出入りするって・・・」
「あー、そうでした。結局、ポリがマンション前で張り込みかけてたら、出てきたんですわ、指名手配の売人が・・・。で、所持品検査したらシャブが出てきてアウト。で、ポリはタレコミ通り稲美裕一の部屋に行って、彼に任意同行を求め、薬物検査したら陽性反応が出て、即日逮捕となった訳でして・・・」