5話 新たな計画
「で、その後どうなったんですか?話に出てきた、ウィルやシャルの生存が不明なんですが。」
どこか投げやりに用意された飲み物を飲むセレーネだがその動作一つ一つに上品さを感じるのは気のせいではないはずだ。
ある程度話し、少し心に余裕が生まれたエリオスはセレーネを上から下まで眺めていたのだが質問の答えを言うことを忘れるほど今のセレーネは美しく成長していた。
夜空のような黒い髪を肩までの長さで整え、肌は月のように白くきめ細やかだ。すらりと伸びた手足や女性らしく起伏に富んだ身体も程よく鍛えられ引き締まっている。気がつけばセレーネが不思議そうに見つめてくるので、目をそらしながら平静を装う。
「いや、気を失ってたから詳しいことは分からなくてな、目を覚ましたら身体中が包帯だらけの男が隣に寝てて悲鳴をあげそうになったわ。」
うんうんと頷きながらどこか感慨深く言っているがその原因は…エリオス本人である。もちろん包帯だらけの男は注意をそらそうと頑張ったシャル君である。
「その怪我は誰が処置したんですか?どう考えても見張りの方達ではなさそうですよね。奴隷達に医術大国『フィリアス』の出身者でもいたのですか?」
「ウィルだよ、ウィル。あいつフィリアスの出身だからな医術の心得を持ってんだよ。あいつも男たちを相手にした後で俺たちの怪我の治療もしたんだぜ。本当にウィルには頭が上がらねぇよ。」
呆れたように笑いながらも感謝の意を示す言葉を発したエリオスはセレーネの表情が少し変わったことに気づいたのか真剣な表情で声をかける。
「……セレーネ、お前を呼んだのは俺の過去をよく知っているからだ。そのお前に聞きたい……レンっていう男をどう思う?」
セレーネは飲み物で唇を湿らせ目を瞑り考え始める、しばし2人の間に沈黙が流れ、考え終わったのかゆっくりと目を開く。
「……おそらくは彼と一緒のはずです。あなたから全てを奪ったあいつと同じ、世界に異常に愛されていますね。たまたま、師匠達の話を聞き、偶然にも門を開けることかができ、更には追っ手から無事に逃げることができたことから間違いないでしょう。」
表情を曇らせながらも自身の考えを報告するセレーネにエリオスは確信を得る。
「それでいつからもう1度逃げ出そうと考えたんですか?」
自身の話したいことは終わったとばかりにエリオスに話の続きを促す。
「まぁ、その後はシャルが予想以上に怪我してたのと俺の傷を癒したり、体を鍛えなおしたり、監視の目が緩むまで待たないといけなかったから3年間は大人しくしてたよ。次に実行に移し始めたのは今から1年前だな。」
〜1年前〜
相変わらず魔石の回収を行っているエリオス達は周りをチラチラと見ながら、以前とは変わったものに思いを馳せていた。それは見張り小屋までの通路にここの責任者が雇ったであろう獣人の見張り計5人が代わる代わる奴隷達に目を光らせていた。
他にも、夜に点呼を行うようになり、夜中からの脱走者を防ぐために奴隷達の寝床にも見張りが置かれるようになった。
数少ない、いいことと言えば新たな奴隷達が補充されたことであろう。主に子供が多く、自身の置かれている状況を良く理解しているものは少ないせいで見張り達がそちらに注意を払ってくれるおかげでエリオス達は割と助かっていたりする。
「しかし、あまり囮としては役に立たないしな。かといって協力してくれるにしても色々と足りないしどうすりゃいいんだ?」
「ボクにも情報が流れなくなってきたからね、なるべくなら少人数で動きたいけどボク達だけじゃ足りないし、だからといってあんなに小さくてかわいい子供達を利用しようなんてまるで悪魔の所業じゃないか⁉︎見損なったよエリオス!君はもっと子供を可愛がるべきだ!」
どこか論点がずれた話をしながら働く子供達を見るがその目はどう見ても草食獣を狙う肉食獣の目そのものである。
「変態は置いといて、真面目にどうするのだ?監視が厳しくなった結果、こんな風に纏まってるだけで不審がられて疑われるぞ。」
「…色々と足りないなら俺たちでその不足分を補うしかないだろ。2人とも耳かせ、いい考えがある。」