3話 現実
まだ日が昇りきっていない早朝の時間、冷えた空気の中から奴隷達の1日が始まる。他の奴隷達はのそのそと起き始め、朝からの労働に憂鬱そうな表情を浮かべながらも逆らってはいけないという考えからか、エリオス達のように固まらずいつもの現場に1人、また1人と向かっていく。
採掘現場は寝床からの一本道なので自動的に1列に並んで歩いていく。それを利用して、毎朝点呼を取りそれから魔石採掘の仕事に入る。
採掘現場には高台が2箇所あり、そこから2人が見張り辺りをうろつくのが3人と、計5人の見張りが常に奴隷達を見張っている。
奴隷達の寝床の反対側にも道があり、そこから見張り達が出てくるので恐らく見張り達の小屋があり、搬入口もそこにあるのだろうとエリオス達は考えていた。
「となるとまず、搬入口を調べるか、後は見張りの数とここの詳しい地図があいつらのところにあるといいんだが。」
「搬入口は任せた。ボクが数と地図をやるよ。多分、今夜中にでも奴らからか情報を得られると思う。ボクの体が大好きな奴らが何人かいるからね。その代わり、次の日のボクの分の魔石採取頑張ってね。」
そう言って、男にとって魅力的な体を自慢するかのように見せつけながら、作戦の計画を立てていく。
「……いつも悪い、お前にばっか迷惑をかけて」
「貴様がいなければ俺様達だけではこういった情報を集めるのにより時間がかかるからな、……すまないな。」
「君たちが気にすることじゃないよ、適材適所ってのがあるだろ?ボクはそれを実行してるだけさ………それにボクはもう汚れてるからね。」
手をひらひらと振りながら、見張り達の元へ向かっていくウィルを見送りながらも彼等は次の計画を立て始めた。
「次に必要なのは搬入口だな。なら、俺が行こう。どっちか1人が残らないといけないなら見張りをごまかす役目がいる。シャル任せていいか?必ず、搬入口を見つけて帰ってくるからさ。」
シャルは無言で頷き、準備を始めた。エリオスも見張り達の目をかいくぐりもう一つの通路の近くに移動し、シャルからの合図を待つ。
シャルは見張りの1人に近づくと後ろから岩石を力強く投げつけた。当たりどころが悪ければ死ぬであろう速さで投げられたその岩石は振り返った見張りの顔のすぐそばを通っていく。
当たらなかったはいえ、自分が狙われたということはわかったのだろう、すぐさまシャルに殴りかかる。抵抗せずにシャルが殴られ倒れるがそれだけでは足りないのか、はたまたストレスのはけ口にしたかったのか高台の見張りも呼び、ウィルが連れていった見張りも含め全ての見張りがいなくなったところでエリオスは通路に侵入する。
通路に侵入したエリオスは体を屈めなるべく見つからないように壁の窪みや落石の後などを利用して先に進んだところで二手に道が分かれていた。
(灯りがある道とない道、どっちに進むべきだ?)
しばし自問自答した後、灯りがない道を進む、灯りがなければ追っても見つけにくいと考えたからだ。
その結果、エリオスは搬入口とは別の出口に出ることになる。
(ここはどこだ?)
情報を得ようと辺りを見回すと奴隷が寝ていたため、エリオスは注意を払いながらもその奴隷達に近づいていく。
「すみませんが、ここはいったい何処ですか?何か知っていることがあれば教えてもらいたいのですが?」
そう言って、寝ていた奴隷を起こそうと軽く揺さぶっていたが反応がない。むしろ、反応がなさすぎる。不思議に思い、体を持ち上げようとするとやけに体が冷たい。
(まさか……死んでる⁉︎)
その時に叫ばなかったのは幼い頃に父に連れられ、盗賊を倒していく父の勇姿を見ていたからだろう。意識を失いかけるもなんとか踏みとどまる。
心を落ち着け、息を整えながら周りを調べ始める、調べた結果周りにはござの上に置かれた死体とくず石だけがあり、大きな穴を見つけた。穴から出る酷い匂いから恐らくここからゴミを捨てているのだろう。
(ここからも逃げられそうだけど何処に続いているかわからないから保留だな。)
震える足を押さえなんとか立ち上がりながら、元来た道を戻り始める。いずれこうなるかもしれない現実を見て、逃げ出す決意を新たにしながら。