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クラスマッチの恋心シリーズ

クラスマッチの恋心 アナザーエンド3

『クラスマッチの恋心』アナザーエンド3です。

アナザーエンド1、アナザーエンド2もございますので、よろしければあわせてご覧ください。

『クラスマッチの恋心』アナザーエンド3です。

途中までは『クラスマッチの恋心』と同じ文章ですので、アナザーエンドのみを読まれたい方は〔 〕部分以降をお読みください。


何もかも、あの場所に置いてきた。

思い出も、想いも。

俺は、振り返らない……つもりだった。


高校卒業とともに、俺は日本を離れた。

もともと外国に興味を持ってはいたが、このタイミングで日本を飛び出すとは、高校に入る頃には考えていなかった。

きっかけは、二つ、いや、三つかもしれない。

他人が聞いたら納得してくれるのか分からないが。


一つ目は、海外への修学旅行で知った外国の同い年くらいの子たちの意欲的な姿勢だった。

日本の大学に留学するために、日本でいう高校を卒業して、さらに留学のための学校で日本語や専門科目の勉強をしているという話に、俺はなんだか感動してしまった。

そして、「大学に入るため」に勉強している自分に疑問を感じた。


二つめは、その疑問が膨らんで破裂してしまったということだ。

今やっていることが、「大学に入るためだけの勉強」に感じてしまった俺は今の方向とは違う、別の道を探すことにした。

もちろん、日本にいて別の道を探すのは簡単かもしれない。学校を辞めて「自分探し」をすればいいのだから。

でも、周りは「高校は卒業しなさい」と説得してきた。

俺には考えがあった。

外国で、全部一から勉強して、自分を鍛える。言葉も、文化も、全て。

それこそ高校卒業にこだわる必要もない気がしたが、俺を高校に引き留めた要素があった。


三つめ。

俺は、クラスの女の子に恋していた。

彼女とは2年の頃から同じクラスだったが、最初は全く気にしていなかった。

その頃の彼女は部活のために学校に来ているようなものだった。朝練を終えた後ギリギリで教室に現れ、ホームルームが終わったら一番に教室を飛び出していくような子だった。

「本当に、授業終わったらすぐいなくなるよな」

恋心とか、そういうものはその頃は全くなかった。ただただ、感心していた。俺は何の部活にも所属していなかったので、それだけの熱意を部活に傾けられる彼女に感心するだけだった。


その感情が、恋心へ変わってきたのはいつのことだろうか。席替えして、席が隣になって、話すようになってからだろうか。

実は、俺と彼女は中学の頃からの顔見知りだった。

このクラスにも、そういう奴が何人かいる。地元大手の進学塾で同じクラスにいて、この高校を志望した奴は数え切れない。だから、彼女のことは全く知らなかったわけではなかった。

でも、話をするうちに、彼女のことをより知っていくうちに、俺はだんだん彼女に惹かれていったのだろう。


俺が自分の感情、彼女への恋心をはっきり自覚したのは、2年のクラスマッチだった。

男女別で行われるクラスマッチ。ソフトボールをしていた俺たちは、バレーボールの試合の間に来てくれていた女子の応援を受けていた。

俺が打席に立つ。男子のみならず、女子も打席に立つ一人ひとりに応援の声を向けてくれる。

その時だ。俺は、急に目に痛みを感じた。何だ……? 何が起こった?

試合が中断している。俺はやっと、自分が顔面に打球を受けたことに気がついた。

俺は保健室に、そして念のために病院に連れて行かれた。検査を受けて何も異常はなかったが、週末の土日は安静にしているように言われた。


週明け。

何もなかったように登校してきた俺を「大丈夫だった? コンタクト使ってるって言ってたから、目に当たったって聞いて、心配してた」と話しかけてきたのが彼女だった。

「何もなかったよ。ありがとう。心配かけてごめん」

「何もなかったんだ、よかった! 当たった場所が目だったから、見えなくなっちゃうのかとか心配しちゃってた」

ちょっと過剰な心配のようだったが、彼女の気持ちがひしひしと伝わってきた。

俺はこの時、間違いなく彼女に恋していると自覚した。


でも、俺は何もできなかった。

高校2年、周りはカップルだらけだ。付き合っていなくても、誰が誰を好きだというのは情報として入ってきたり、様子を見ていれば分かる。嫌なことに、俺はそういうことに関してかなり敏感なようだ。

そして、彼女には恋している相手がいるという情報を手に入れた。といっても、すでに相手に告白して失恋し、その痛手を引きずっているとの噂だった。

俺なら、その気持ちを、彼女の感情を、真っ直ぐに受け止めるのに……。

でも、毎日を忙しいながらも楽しそうに過ごす彼女に、今の生活に疑問を感じている俺は、想いを告げることはできなかった。告げる資格がないと、思っていた。


そうしているうちに、俺らは高校3年になった。

担任は、「世界に出ていろいろなことを知りたいなら、その前にできるだけのことを勉強しておいたがいいんじゃないかな。その方がどこに行っても、きっときみの力になるだろうから」と言った。

それもそうかもしれない。何も知らないでどこかに飛び出すより、何か知っていた方がこれから先の役に立つだろう。だからこそ、大学に受かるための勉強じゃなくて、今からもっといろいろな深いものを見ていくような勉強をしよう。


偶然か幸運か、俺は再び彼女と同じクラスになった。学校に行けば彼女がいる。それだけでも、俺は学校へ行く気になれた。

彼女は3年になった春、彼女は大失恋をしたようだった。もう、このまま追い続けても無駄なんだと悟ったようだ。

部活も引退した彼女は、否応なく受験生モードに入ったようだ。

今なのか、想いを告げるなら、今なのか。こんな俺を、彼女は受け止めてくれるのか。

やはり、俺は直接想いを告げることはできなかった。

その代わり、彼女に好意を示していくことにした。

2年の時にできなかった、積極的な好意を示していく。

それで彼女が気づいてくれれば……完全に受け身な気持ちだったが、今の俺は、彼女に拒絶されてしまったら完全に学校にも行けなくなると思った。


言葉は悪いが、彼女はニブい。誰にもミエミエな付き合っている奴らのことですら、彼女は「全然気がつかなかった!」と言っている。本気でそういうことに気がついていないようだ。

だから、俺はあからさまに見えるような行動もとることができた。

周りは「お前、本当に好きなんだな、あの子のこと。お前のやり方かなりあからさまなのに、よく気づかないよな彼女も。ニブいっていうか」と言う。

女子からも、「好きなんでしょ、あの子のこと」と突っ込まれるくらいだ。

それくらい、俺はわかりやすい好意を示している……つもりだった。


夏が終わり、秋を迎えた。学園祭でもあからさまに一緒の仕事をしてみたが、彼女は自分に任されたことで一杯一杯のようだった。

「学園祭で彼氏ができるとか、羨ましい!」

教室に彼女の声が響き渡る。声が通りやすいのか、ただただ大声で叫んでいるだけなのか、あるいは俺に彼女の声しか聞こえないフィルターでもかかっているのか。

気づいてくれよ……結構、俺、わかりやすい好意を示しているはずだけどな……?


その想いが、ようやく通った……気がしたのがその後だった。彼女と目が合ったら、そらされる。それも、何度も。

もしかして、もしかしてか?

俺はそれだけでも、嬉しかった。


彼女に好意を気づいてもらえた気がした頃。俺は来年から日本を離れ、外国の学校で一から勉強する環境を整えた。一度日本を離れたら、しばらくきちんと帰国するつもりはない。自分のやりたいことはそれだったから、本気でやるつもりだった。

彼女のことも、忘れるつもりで。


冬。ひとまず、センター試験は受けておいたが、もう気持ちは日本の大学にはない。

俺は誰にもこのことは話していなかったから、ひとまず私立大学や国公立大学の前期と後期試験を受ける用意はしていた。

こういう試験の存在が、俺の人生を変えたのかもしれない。この年齢ならば、人生を左右しかねない試験だ。試験に翻弄されなければ、もしかしたら俺は、彼女と一緒にいるという道を歩んでいたかもしれない。でも、それは俺が選ばなかったから。要は、俺がヘタレだっただけだ。

彼女も、ほんの少しながら、好意を示してくれていたと言うのに。


そして迎えた卒業式。

全てをみんなに伝える時だ。

一人一人教壇に立ち、自分の言葉で今の気持ちを伝える。

別れを悲しむ子、笑いを取ろうとする子、真剣に将来について語る子。それぞれだ。

彼女は「クラスのみんなに支えられて何とか今日までやってこれました。皆さん、ありがとうございました。とても、楽しい充実した3年間でした」と言って、泣き出してしまった。泣いている子は他にもたくさんいる。ハンカチで涙を拭った彼女は、最後は笑顔で席に戻った。


俺の番だ。俺は「留学します。短期間じゃなくて、一から外国の大学に入るつもりで行きます。皆さんありがとうございました」と言った。

みんなが驚いている。彼女を見ると、赤くなった目をまん丸にして驚いている。

これで、これでいいんだ。


最後のホームルームが終わった後の騒がしい教室。

俺は彼女に呼び止められた。

「留学するんだね、びっくりした」

「みんなには、今日まで黙ってたけど」

「ずっと、あっちにいるの?」

「たまに帰ってくるかもしれないけど、基本的には」

「うまく言えないけど、頑張ってね。一緒に試験受けに行く話……」

そう、俺は後期試験の志願先を彼女と同じ大学にしていた。周りにそこを受けに行く子がいなかったから、俺らは二人で試験を受けに行く……はずだった。

「俺は、試験には行かない。ごめん」

「分かった。2年間、ありがとうね、いろいろ。嬉かった」

周りから見たら、どちらかが後一押ししろよという状態だっただろう。そしたら……と言う空気が流れた。

(ここまで、『クラスマッチの恋心』と同じ文章です)


〔ここからアナザーエンド3です〕

二人の間に、沈黙の時間が流れる。今、想いを伝えるべきか。もしかしたら、二度と彼女には会えなくなるかもしれない。

でも……やっぱり……


俺は、自分の想いを言い出すことに決めた。

「小浜さん」

ちょっと声が上ずってしまった。

「実は、小浜さんのことが、好きだった。今伝えないと、後悔すると思って……」

「村山くん…実は私も、好きだった……」

「もう、遅かったかな。卒業式に想いが通るなんて」

「今からでも、遅くないよ。頻繁に会えないけど、それでいいなら、付き合ってください」

遠くから眺めていたいる奴らがにやけているのが見える。

「うん、なんだか俺、すごく嬉しい」

「私も、すごく嬉しい」

クラスマッチの恋心は、卒業式に花開いた。


日本を発つ日。

彼女は空港まで見送りに来てくれた。

「わざわざ来てくれて、ありがとう」

「しばらく会えなくなるんだもん。最後に会いたかったから」

彼女のバッグの中身がちらりと見えた。スマホにイヤホンが刺さっている。

「スマホで音楽、聞くの?」

「うん、動画見たり、ダウンロードしたの聞いたり」

俺は手荷物からイヤホンを出した。

「これ……交換しないか?」

彼女は驚いている。

「私の、かなりぼろぼろなのに」

「それでも、いいんだ。小浜さんがそばにいてくれる気がするから」

「分かった。はい」

彼女がバッグからイヤホンを取り出す。そして、俺たちはイヤホンを交換した。

「村山くんのイヤホン、格好いいね」

「結構使いこんだものだから、新しくなくて申し訳ないけど」

「ううん、村山くんがそばにいるみたいで、嬉しい」

「じゃあ、俺、行くから」

「気をつけて……頑張ってね」


飛行機が離陸して安定飛行に入ると、俺は彼女のイヤホンをつけた。

想いが通ったんだ。俺は今よりもっと強くなって、彼女を迎えに行くんだ。


イヤホンから、彼女の声が聞こえてくるような気がした。


【Happy End】



アナザーエンド3はハッピーエンドでした。

アナザーエンド1、アナザーエンド2もございますので、お読みいただければ幸いです。

※『クラスマッチの恋心』本文エンディングをトゥルーエンドとしています。

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