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第六話 僕がこんな目に遭うのは絶対呪われているからだろう

「起きてください! ――大丈夫ですか!?」

「うおっ!」


 一瞬で頭が覚醒した。正直、このまま死ぬ自信があった。どきどきした。別の意味で。心臓発作で死ぬかと思ったわ。


「な、何かな?」


 高鳴る心臓を抑えつつ、なんともなさげに声をかける。だが、その心はすでに限界を突破している。


「帰ってきたのに返事はないし、気を失って倒れてるし、なんかうなされてそうだったし心配したんですよ!」

「ご、ごめん……」


 一瞬気まずい空気が流れる。だが、それを流すように話題を変える。


「そ、そういえば! さ、服、どんなの買ってきたのか見せてよ」

「あっ、はい! 聡様が着ておられるような服は見つからなかったので、気に入られるかはわかりませんが……」


 そういって彼女が持っていた袋から取り出されたのは、昔ながらの百姓の服……よりは豪華な服だ。ざっと触った感じ、洋服のそれと生地が結構似ている。でも最近の服って化学繊維じゃ……。


「その糸は外国から取り寄せられたものなので、ちょっと高かったですけど線菊様がそちらのほうがよろしいだろうということで買ってきました!」


 無邪気な笑顔でさらっと出てくる線菊。正直あいつ、神出鬼没のスキルをデフォルトで持っているんだろうか。気が付けば後ろに奴がいる。


「ま、まあ、着てみるからちょっと待ってて。部屋から出てって、早く!」

「あっはい」


 そして彼女を部屋から押し出し、部屋には僕以外誰もいない。とりあえず、この部屋は今後僕の部屋として使わせてもらおう。彼女もいちいち家の中で僕を探すのもあれだろうから大抵この部屋にいることを教えておけば少しは仕事が楽になるかもしれない。……自分でできることは自分でしておくべきだな。

 そんなことを考えながら服を着替える。服は日本の文化に合わせられたものなので帯の締め方がわからない……こういう時に線菊来いよ。椿に帯示させるの嫌なんだけど。


「はぁ、椿。帯の締め方……」


 そこまで言いかけて、ふと言葉を止める。ベルトすればよくね?


「よし、これでいいや」


 もう発想がいろいろとあれな気がするが、精神的にこっちのほうが落ち着くし、下着が見られる心配がないのでこっちのほうがいいかもしれない。寝るときだけ脱いで、今後下のスースーに慣れればいい。


「入ってきていいよ」

「はい。失礼いたしま――えっ」

「いや、どうしても下があれ慣れなくてね。多少不格好だけど大目に見ておくれよ」

「い、いえ。似合ってると思いますよ?」

「せめてこっちの目を見て言えよ」


 どうやら彼女は嘘が下手らしい。覚えておこう。……もう裏切られたくないから。人の行動はちゃんと覚えて癖も覚えて怪しい行動があったら軽く確かめてきな臭いようだったら距離を置く。僕があの日から覚えた処世術。親以外信用できなくなってしまったのだ。


「せっかく買ってきてもらったんだし、一緒に外に出てみない? 町の案内頼みたいんだけど」

「喜んで!」


 きれいな笑顔だな。むかつくわ。


~~~~~


「へぇ、前は機怪騒ぎで全然観光できなかったけどこんな感じになってるんだ……」


 町並みはいたってシンプル。全体的にはもう江戸時代としか言いようがないように感じる。ところどころにログハウスのような家も見かけている。外交はしているようだ。だが外国の宗教の類はほとんど見ない。おそらく意図的に遮断しているのだろう。だが、糸なんかを輸入しているあたりからすると、そういう情報がないのは向こうの宗教がこちらに入る余地がないと判断したからなのか。まぁ『術式』なんて神秘が現実で起こせるような国だ。下手にほかの宗教を招いて術式のルールが崩壊しては元も子もない。


「ここら辺は商店が並んでいます。団子屋や、お汁粉屋、服から何まで大体ここでそろえることができます。ちなみに私が買った服はあちらで売ってたんですよ」


 あたりを見回してみると、確かにたくさんの商店が並んでいる。団子屋やお汁粉屋に限らず、和菓子のお店や一部の洋菓子なんかも扱っているようだ。

 今度お菓子を買いに行こう。


「他にも、もっと別の場所に行けば金物屋なんかもありますよ」

「そうなんだ。じゃあそれは今度教えてもらおうかな」

「はい」


 彼女は笑顔で答える。こいつ分かりやすいな。こいつなら、『信用』できるか。その程度にしか近づけるつもりしかない。少なくとも意図的に裏切るそぶりはなさそう。


「じゃあ、今日はいい気分転換になったし家に戻ろ――」


 すると、あの時と同じような一陣の風が吹いた。だが、今回の風は生ぬるく肌にまとわりつくような悪意に染められたものだった。


「えっ」


 その間の抜けたような表情を最後に椿の顔が遠くなっていった。空を飛んでる……。飛んでるというよりは……跳躍か。屋根伝いで移動してるな。顔は覆面。体格から察するに男か。つまりこいつの向かう先は線菊が言っていた『僕の処遇に納得のいかないやつ』ってことか。さすがに曲解して自由に動きすぎたか。

 今回でさすがに懲りた。


~~~~~


 あまりのスピードに意識がブラックアウトしていたようだ。場所は分からない。だが、あたりに木材だか土の壁が確認できることから、どこかの建物の中なのだろう。手は後ろのほうで柱につながれるようにして拘束されている。あがいてみるが、もちろんほどける様子はない。猿ぐつわをそれていないのは、僕が叫ぶ前に何かをするつもりがあるのだろう。


「お目覚めかい? お姫様……いや、男だからとらわれの王子様か」


 暗闇から僕を連れ去った男が現れた。

 覆面をしているあたり、顔が知れるのはやはりまずいのかもしれない。街中で僕をさらった時も覆面をしていたし、異常に気付いた人が然るべき機関に報告へ向かうだろう。ただし、こいつらとグルではないという保証はない。


「はははー。まさかこんなに不用心だとは思わなかったぜ! よくこんなにのこのこと表に出て着てこれたと思うよ。お前おつむ足りないんじゃねーの?」


 どちらかというと危機感がなかったというべきだろう脳筋。


「で、僕に何の用? 何か聞きたいことがあるから猿ぐつわもせずにわざわざこんなことをしたんだろう?」

「余計なことをしゃべるな」


 奴の手からくないが投げられる。それが頬をかすめて飛んで行った。


「いってえ! 痛い痛い!」


 暗闇で感覚が敏感になってる上にもともと痛みに慣れていない僕からするとこの痛みは普通にやばい。


「大声上げるなよ……ばれんだろ?」


 近寄っていて膝蹴りで腹を穿つ。内臓破裂したらどうする。死んだらお前のほしい情報がしゃべれなくなるんだぞ。かろうじて腹筋に力を入れてダメージを軽減させる。喀血や下血の様子は僕からは感じない。内臓はだめになってないな。


「かはっ、はぁはぁ……」

「お前、機怪について何を知ってる? 向こうのやつに情報を売るのが目的か」

「し、知らないよ。僕は何も知らない。あいつらはからくり人形で精密なものだから割といろいろなものに弱いことしか知らない。本当だ」

「あっそう。まぁ俺としては、お前がその程度のことしか知らないのにあの待遇を受けていることが不満なんだわ」

「へっ、どうせ君の上は僕をいざというときに囮にでもして殺すつもりだろうから安心しなよ。遅かれ早かれ僕は死ぬ。おまえらの作戦上で、事故を装い始末されるだろうさ。例えば次の機会に機怪が現れた時にでも、僕の家に誘導して僕がいる家を破壊すればいいんだから簡単だろ?」

「……残念ながらそれはない。今ここでお前の始末を言い渡された。有力な情報を吐かない、もしくは持っていない場合、殺すことを言い渡されてるんでな」


 嫌だ。死にたくない。

 助けを呼ばなきゃ。携帯で……携帯で助けを呼ばなきゃ。電波とか大丈夫なのか? いや、もうそんなことを気にしている場合じゃない。だけど、両手を縛られてる。……もう、駄目かな。奴は忍び刀を抜き、僕ののどに押し当てる。下手に動けば殺される。いや、もう殺される。


「いやだ! 死にたくない!」


 そんな心の叫びが叫び声として放たれた。すると懐にある携帯が突然光を放ち始めた。普通の携帯にはもちろんそんな機能はない。ガラパゴス型携帯にはライト機能があるものがあるが、そんなものは関係ない。いくら暗いとはいえ服越しでまぶしいほどに輝く携帯は存在しない。


「な、なんだ?」


 目の前の男は動揺している。脚は動くな。よし!


「おりゃ!」

「あひんっ!?」


 股間にクリーンヒットした。嫌な感覚だ……。同時に僕の股間のあれもひゅんっと縮み上がった。痛そうだが、仕方がない。


「く、くそぉ! なめやがって……!」


 男は再びくないを投げてくる。


「ひっ……!」


 硬く目を閉じると、くないが金属音のようなものを立てながら何かにはじかれたように飛んで行った。


「な、なに?」


 僕が何もわからずあたりを見回していると、男が驚いていた。


「な、なんでお前が術式を使えるんだよ……」

「はぁ?」


 状況が呑み込めず、間の抜けた声が出る。仕方がない。実際、僕には無理だと線菊からは言われていたのだ。何でかはわからないがとりあえず、誰かが助けに来てくれたのか?


「おい、お前ら! 何をしている!」


 やや特徴的な声。この声は線菊のものか。前の時のときとは違いひどく冷徹で凛としている印象を受ける。体が動かなくなる。これが殺気とかいうものか。そのまま殺されてしまいそうだ……だが、さっきの対象がそこにいる男だけでなく僕にも向けられているのはどういうことだろうか。


退()け! この場は私が受け持つ。お前は黒兎隊のものだな。お前の上司の名はなんだ?」

「へっ! そういわれて教えるものっ!?」

「言え……貴様も死にたくないだろう」


 縮地法か何かで移動した彼の手刀が彼の腹部に刺さっていた。抜いた手に血が付いていないところから、本当に刺さっていたわけではないらしい。

 彼とは付き合いが短いが、ああいう声を出すような人ではなかったはずだ。体の芯から冷えるような声、なんというか、恐怖を体現したらあんな感じなんだろうかと思った。本当に見ているこっちのほうが泣き出してしまう始末なのだから。


「……殺すなら殺せ」

「ほう、いい選択だ。だが、貴様には全部はいてもらう。今は悪いが寝ておけ」


 彼は線菊の目を見た瞬間膝を崩し倒れてしまった。何かしたのだろうか。いやしたのだろう。彼の目にはハイライトが消えてしまっている。

 僕を視界に入れたとたんハイライトが元に戻り、怒り顔になっていた。いやお前誰だよ。


「君はほんっとうに馬鹿だね。私が何で怒ってるか分かる?」


 なんとなく彼と視線を合わせるのが気まずくなって目をそらしてしまった。


「わかってるよ。正直軽率だったと思う。ごめん」

「わかってるならいいんだ。だけど君の処分を考え直さないと行けなくなる」

「えっ? 今のままじゃダメなの?」

「曲がりなりにも君が術式を使っちゃったからそうもいかなくなった。生活環境は今と変わらないよ。その代わり、すっごく厳しく指導するから覚悟しておいて」


 えっ、まじで。


「これからよろしく。そしてようこそ。白狼隊へ」

「白狼隊? 黒兎隊の対みたいな感じ?」

「うん。格好いいでしょ? ちなみに白狼隊は仙道を修める戦闘員。黒兎隊はまた別の方法で強くなった戦闘員。術式はどちらも使える。基礎だから覚えておいて」

「あっうん。よろしく」


 なんかよくわからないけど僕は白狼隊に所属することになりました。


まだ復活しません。もうしばらくお待ちください

4/30追記 遅くても来年4月には再開したいと思います。最悪このままエタル可能性もあります(新作準備中)期待しないでください。

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