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第五話 それぞれの過去にとらわれた彼ら

 朝ご飯を食べると、もうすることがなくなってしまった。

 僕としては、こう来客みたいなことを望んでいたのだけれど、考えてみればさすがにそういうのは面倒くさいだけなので、久しぶりに小説でも書いてみることにする。自分の世界に閉じこもるのには最適だ。ほんのそこまで広くない一室に閉じこもりひたすらシャーペンを握りノートにペンを走らせていく。ノートが一ページ埋まるごとに推敲と誤字脱字を見直していく。それをひたすら繰り返していくだけの作業だ。

 落書き帳代わりに使っているノートは何十冊もこの中に入れてあるので大丈夫だ。消しゴムやシャーペンの芯も、絵も描く関係でかなり持ってきてある。幸いというべきか、この前のキカイ戦の時には無事でよかったと思っている。ノートはサブカバンに本当に腐るほど入れてあるので問題はない。落書きのあるページくらいなら消しゴムで消して再利用できるだろう。


「よし、やるぞ」


 最初にページを一枚ちぎる。

 そこにまず設定を考えていく。世界観、主人公の設定、必要とあれば能力までもどんどこ書き連ねていく。

 そしてプロットを書き終えた時点で一度見直す。この設定を掘り下げなければならなくなった場合、どういう理由づけにするのかを考えてメモしておく。

 そこからヒロインを作り、絡ませたいシーンを妄想する。

 はぁ……楽しい。パソコンでやると凄く目が疲れるからあまりやりたくない。好きだしどちらかといえばパソコンでやる府が便利だからパソコンを使うのだがこの世界にはパソコンなんてものはない。知識の提供源は教科書と、電子辞書だけだ。


「はあ、話広げられないかなぁ」


 この世界の人たちを観察して過ごしたいが、あいにく僕はいつどこで襲われるかわからない身。あのいけ好かない仙人に手を煩わせのは迷惑になるのであまりよろしくない。


「外へ出かけるのもいいかもしれない」


 中枢機関は僕の存在を認知しているだろう。下手に外を歩けばつかまる可能性も否定できない。必要最低限の生活の保障はすると言っていたがどこまで保障されるのかは全く分からないのだ。考えようによっては家の敷居をまたいだ瞬間に襲われないとも限らないのだから。


「あ、そうか。こういう時のための彼女か。……いやだなぁ」


 ほんの数年前のことを思い出す。

 僕は正義感に任せて、愚かな行為をしてしまった。いや、間違いではなかったはずだ。自信を持って言える。だが、僕は後悔してしまった。その感情で自分という存在にも限りが見えたことを知った。


「ねえ、いるー?」

『はい? なんですか?』


 彼女は僕がいる部屋に入ってこない。襖すら開けない、つまり彼女は『自分と距離を置きたがっている』程度には察したらしい。なかなか優秀じゃないか。


「服を買ってきてほしいんだ。お金は後で線菊にでも請求しておいて」


 さすがに僕に一張羅で過ごせだなんて言わないだろう。少なくとも最低限の生活を保障すると、これは重要だ。とりあえず、どうとでも解釈のできる情報を渡したあいつが悪い。僕は自由に行動させてもらおう。……彼女を使ってな!


『衣服ですか。大きさはどうされますか?』

「僕の身長は五尺六寸ほどだよ。一回り大きいのを買ってきてもらえると嬉しいね」


 僕の身長はもうあまり伸びる余地は残っていなさそうなのだが、せめてもの見栄だ。


『はい……。わかりました』


 そして襖の向こうから人の気配が消えた。

 ……これで安心か。椿という少女がいないだけで僕としてはかなり安心できる。寂しさを感じないわけではないが、だが間違いが起こってしまうよりははるかにましなのだ。僕は女には触れない。いや、正確には特定の肩書を持てない。恋人とか、幼馴染とか、そういうのは無理だ。だいぶん治ったほうではあるが下手をすればまた悪化させかねないほどだ。非常時にはそれなりに抑えは効いてくれるが、実際はそれ以上の役目は果たさない。鈴のときも椿のときも、極限の状態だから効いただけなのだ。


「大丈夫だ。ここにあいつはいない」


 そうだ。あいつはいないのだ。今は住んでいる世界が違うし、日本にもいない。


「僕は、……もう誰かのためには動かない」


 もう、自分が嫌な思いを被るのは御免だ。そのためにわざわざあの土地から離れたのだ。守る。自分の心を。


「ずいぶんと悩んでいるみたいだね」


 突如後ろから声をかけられた。後ろを即座に振り向くと彼がいた。線菊がそこに……。


「ってお前何勝手に入ってきてるんだよ。殺すぞ! よくも椿を僕につかせたな! 今さら変えろとは言わないけれど少し考えてくれよ」

「何を考えろっていうんだい? 君の苦手なものなんて僕には考えも及ばない。ただ、彼女をあてがっておくのが君にも彼女にもちょうどいいと思ったからだよ。この世界で生き残るために彼女という情報の提供源は重要な存在なはずだよ」


 腐っても僕の同一個体とかぬかすわけか。考え方が僕のそれと同じだ。おそらく理由が一つ僕からは分からないが、隠し持っているだろう。


「ふふふ、君はそうやって人の心をのぞこうとするよね。人を信じられなくなった、までは分かった。だから人の心を常に読もうとするのも分かった。じゃあ聞くよ。――何が君をそこまで追い詰めた?」

「……っ!」


 こいつの目を見ているとすべてにのまれそうになる。人の記憶を目の奥から探り出そうとしている感じだ。とっさに線菊から目をそらす。こいつはどんな奴よりも僕を理解していないが、どんな奴よりも僕を理解できる存在だ。違う世界にいるだけで、僕と同じなのだから。


「多分僕と君の決定的な違いは年齢と、精神力だよ。きみのこころは強いけどもろい。鎧が強いだけでその中身は弱いだけ」


 やめろ。その言葉は僕に効く。やめろ。やめてくれ。その声で、語り掛けてくるな。心を揺さぶるのはやめろ。


「まぁいいよ。今回は失礼する。でも、君はもう少し素直になるべきだと思うよ。同居人に隠し事をするのは感心しないなぁ」


 そういって彼は消えた。くそ。今度こそあいつに文句を言ってやる。やられたらやり返さなければ。


僕としては、隠し事は彼女のためでもあるんだけどなぁ……。僕があの状態で冷静さを描いてしまえばその辺に当たり散らしてしまう。それに彼女が巻き込まれないようにあえて距離を取っているのだ。信用していないわけではない。ただ、怖いのだ。また数年前のトラウマがよみがえるのではないかと。


「……もうひと眠りでもするか……」


 一人でいたいという欲求と同じくらい、僕には一人でいることが寂しいと思う感情がある。矛盾した感情は僕の心を疲弊させる。正直、一日の大半を寝て過ごしたくなるくらいには。眠気もないのに寝たくなる。今ここで寝るとあの夢を見てしまいそうで怖くなる。

 だが、既に眠気に襲われて目を閉じていた僕に、この睡魔にあらがう力は持っていなかった。


――――――


「まさか異世界からこの戦争に巻き込まれる存在がいたとはね。驚いた」


 自分は彼の存在を思い出し、これからのことを考える。彼なら切り札になりうると。この戦争における希望といってもいいかもしれない。現状この戦争における勝利は薄い。こちらは常に後手に回るしかないからだ。

 自分一人なら向こうへ行くことができる。

 だが、兵士たちはそうではない。だからそのための『機怪』なのだ。まったくもって不快だ。自分たちは高みの見物をし、危ない橋を渡ろうとせずこちらへ攻め入ってくるのだから。

 自分と彼ならどうにか、渡ることができる。ならばこちらの勝機はあるはず。今の彼ではだめだ。何があったのかはわからないが彼の心の泥を取り除かねば何もできない。

 親指の爪をかじり始める。

 ……焦ってはいけない。自分はここで彼らを守る義務がある。今、兵力は足りない。だがじきその問題も解決できる。


「時間はある。今回もあいつらをうまく撒くことができた。人の里が空間座標を移動させることができる限り、そう簡単にこの里に軍勢として攻めることはできないだろう」


 ここにいる人類が邪魔だから消そうとする輩に消されるいわれはない。自分もそのためには全力を阻止で事に当たるつもりだ。


「彼の事態の原因究明を急がないと……」


 自分は現在でそろっている情報を再びまとめて、どこか使えそうな情報がないかと思案を繰り返す。まだ正体がばれるわけにはいかない。向こうにもこちらにも。

 自分はこぶしを握り締めて、上を見上げる。

 地面の中に作られたこの空間には出入り口というものは便宜的には存在するが基本的にはそんなものは使わない。ここも……、まだばれるわけにはいかない。


「どうでもいいけど、ほんと早く彼、どうにかならないものか……」


 今後の彼を憂いて溜息を吐いた。彼の問題が大きいのが事実である。解決は多少荒くなっても仕方ないと思ってる。時間が無くなっていくと思うと怖くて仕方がない。


「はぁ……」


 ひときわ大きい溜息を吐いた。


――――――


この小説は分量よりも密度が優先されております(自分的に多分)感想ポイントお待ちしております。

とんでもないネタバレを言うようですが、この小説においてとある人物の正体を隠す予定はございません。想像しやすく(わかりやすく)描写させていただきます。

 なんかもうちょっと人目を惹くタイトルないかなぁ……

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