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第二話 聞けば聞くほどこの世界に科学とは縁が薄そうだ

予定より一日早く投下

 自転車に乗ってジョギングするかのように軽く走る彼女についていく。

 これで実に一時間の短縮にはなっただろう。そういえば、この世界に時計はあるのだろうか。一時間という考えがあるということはある程度の時間を図るすべがこの日本には存在するのだろう。

 僕は、カバンの中から音楽プレイヤーを取り出し、音楽を聴きながら彼女についていく。この世界の人間は一体どういう体の構造をしているのか。はぁ、考え事は後にしてまずは彼女についていくことにしよう。


 時間的には一時間と少し走っただろうか。それほどするとさすがに彼女の息が少し上がってきたように思える。どの方向に走っているのかはここを地球と信じるならおそらく東方向に走っている。

 そうなると西に沈んでいく太陽の姿は結構見えなくなるのは早く、気が付けばあたりは暗くなっていた。


「まだ結構かかるけど、今夜はここで野宿しましょ」

「うぃ、わかったけど近くに宿はないの?」

「あるわけないじゃない。あの機怪があたりをうろついているこのご時世になんの保証もなく道端に宿を出したら格好の的よ」

「そうだね」


 キカイとやらは頻繁に出てくるものなのだろうか。ならここで野宿するというのも結構危険な選択な気がしてならないのだが。


「大丈夫よ。ここらでの機怪の目撃はされてないから安心していいわ」


 ごめん。それフラグにしか聞こえない。

 だが、ここらは山が多いなぁ。現在僕らは小高い丘の頂上みたいなところにいる。あたりを見回すとここよりも高い山がぽつぽつと見受けられる。おそらくこれらの山道の中を巡っていくのだろう。

 考えるだけでも憂鬱になる。


「まぁ、いいか」


 完全に真っ暗になる前にいくらか燃料に使えそうな木の枝をそれなりに集めてきて火を起こす。僕はてっきり原始的な方法で火を起こすのかと思っていたのだが。ここで異世界というべきなのだろうという違いを見せつけられた。


「じゃあ、少し離れてて」

「うん」


 彼女は胸の装束を少し緩めた後、中からなんかお札みたいなものを出して薪の上に投げた。すると、突然お札に書かれている何らかの文字が光りだし、火がともった。


「えっ。何それ」

「何って……『術式』だけど……」

「術式ってそういうものなの?」


 今使ったのは火の術式か……。

 そわそわそわ。


「何? 不気味なんだけど」

「いや、その術式ってどういうものか分かってなかったし……」

「本気で術式が何かわかってなかったの!?」

「術式というものは知らないって言ったろ? 僕のところは絡繰りが発達してるんだよ」

「絡繰り……そんなものが発達してるの?」

「むしろ、この国にこんなものが発展してるのか分からないんだよこっちは」

「こんなものとは何だ!? 国家指定の技術だぞ!」

「……おまえらの絡繰りの技術はどれほどのものかは知らないけれど、こっちは少なくともそっちよりは原始的じゃないよ。どういう原理で動いてんだこの術式とかいうの」

「そ、そりゃ、精神力と想像力で……」


 正直火の光だけでは心もとないので画面と明りの大きい電子辞書を取り出す。明りを調節して、術式とやらを見る。僕自身魔法の類はそこまで詳しくないのだが、興味を惹かれてはいるので知識としてはかじっている。


「へぇ、全然わからないけどなんだかすごいものなんだなぁ」

「まあね。それよりもその明りを出してるやつちょっと見せてよ」

「いいけど下手に触るなよ。君壊しそうだし」

「失礼ね!」


 そういって彼女は僕の手から電子辞書を受け取る。

 彼女の手は柔らかい。少なくともあんな巨大なロボットと戦っているとは思えないほどには華奢に感じた。

 こんな僕と同い年か少し年下くらいの女の子があんなのと戦っている世界……。

 僕はその事実に恐怖した。今は、なんとも感じていない。この状況に。極限状態にいる人間は多少のことは気にならなくなる。いや、気にしていられないのか。


「今回のは貸し一つ。命を助けてもらったからこの貸しは絶対に返す」

「へぇ、あなたみたいなのに返せるとは思えないけど」

「僕が元の場所に帰るまでには返すよ」

「じゃあ、期待せずに待ってるわ」


 彼女はどこか愁いを帯びた笑みでそう返した。


「じゃあ、僕は寝るから。そっちが寝るなら起こして。代わりに火の番やるから」

「あっうん」

「あと、こいつを着といて」


 僕は学ランを彼女の装束の上からかぶせた。


「まだ肌寒いだろ。着ておけよ。明日の朝風邪ひかれてたら困るから」

「へぇ、気が利くのね。でもあなたが寒いんじゃない?」

「大丈夫。ジャージがあるから」

「ジャージ?」

「運動着みたいなもの。程よくあったかくていいもんだよ」

「そっちよこしなさいよ」

「今日は僕汗かいてたから結構汗臭いよ? 汚いよ? それでもいいの?」

「じゃ、じゃあやめておくわ」

「ああ、お休み。あと名前を聞いてなかった。名前は?」

(りん)。夏風鈴」

「おやすみ。夏風さん」


 僕はそう言ってジャージに着替えて寝た。

 地面が硬くてなかなか寝れないかと思ったが、下にハーフパンツと学校指定のズボン。上に半袖の体操服にカッターシャツとジャージ。頭にアイマスク代わりにハンドタオルを置いた僕に隙はなかった。走り回った疲れもあり案外すんなりと僕は眠れた。

 ちなみに枕は教科書を積んだものだ。


~~~~~


 どれほど寝ただろうか。ずいぶんと寝た気がするが体が痛い……。硬い地面で寝るのにはやはり、無理があったか……さすがに寝ずに過ごしたほうが良かったかもしれない。寝違えてないか、体の調子を確かめてから上半身を起こす。


「うーぅぅぅぅぅぅ……」


 とりあえず寝違えてはないらしい。

 薪が燃えるパキともパチとも取れる音は聞こえている。

 もしかしてあれか。日が沈んで割とすぐ寝たから夜中に目が覚めたような感じか。


「夏風さん起きてる?」

「ん? よく眠れた?」

「体は痛いけど……眠気はとれたよ」

「ならよかったわ」

「さて、そっちは寝なよ。あとは僕がやる」

「いいわよ。そっちには体調崩してもらったら困るんだから」

「大丈夫だよ。その程度で体調崩してたら今ここに僕はいない」


 むしろここまで精神的に刺激があったのは久しぶりと言っていい。いい意味でも、悪い意味でも。


「まぁ、わかったわ。でも、変なことをしたら……殺す」

「き、肝に銘じておくよ。そんなことは絶対にしない。あたりまえだろ?」


 殺されずとも僕のモノがチョッキンされてしまうかもしれない。そんなことをされてしまうのは嫌だ。童貞のまま死にたくない。

 朝まで僕は見張りを続けて、日が昇りきったところで彼女を起こし、行動を再開する。自転車は彼女が押している。逃げられないようにとのいらない配慮のためだ。僕が夜中にこっそり逃げ出すことを考えもしなかったのだろうか。いや、僕はこの辺については何も知らない。またあのキカイとかいうのに襲われるのが落ちだろう。


「でも、こんな山道を通ってどこに向かってるんだろうなぁ。人の隠れ家がるとか?」

「隠れ家というより隠れ里ね。許可した人間以外は認識できないから。情報を漏えいするわけにはいかないの。だからこういう場所に細心の注意を払って隠れ里を作っているの」


 そういうことか。なるほど、つまり許可のない人間が近づいても認識ができないから、入ることができない。あれ? 僕は許可されてないはずだか彼女についていくだけでは隠れ里とやらに入れないのでは?

 いやな予感がするなぁ。

 実際この道のりは僕の体力のなさ(?)が原因で、本来六時間で着くところを八時間そして屋外での睡眠時間を含めると十四時間ほどかかってしまった。現在時刻朝六時。日が昇っているので動き出すのには絶好に時間帯だろう。おなか減った。昨日の夜から何も食べてないよ。ああ、せめてコンビニで菓子パンを買った後とかだったら全然違うのになぁ。


「さて、そろそろよ」


 そういって彼女は立ち止まった。

 ここにきていやな予感の嵐が僕の胸の中であれまくる。正直後悔の念しか浮かばないほどだ。


「――――」


 彼女が小さい声で何か言った。そのとたん人の気配が一気に漂いだす。だが、発せられるその気配は一般人のそれではなく完全に僕に敵意を持っている。存在感だけでないのだ。完全に視線が僕に固定されている。怖い。数は一人や二人ではない。

 囲まれている。


「さぁ、ついてきてもらうわよ」

「えっ?」


 そして後ろに気配が迫って振り向こうとする瞬間――。


「がっ!?」


 すさまじい衝撃とともに僕の意識は奪われた。


~~~~~


 目が覚めると、そこは薄暗い牢獄の中だった。下着以外のものは全部剥かれたらしい。下着まで剥かれなくてよかったと思うべきなのか。

 とにかく、今の状況を確認してみようか。

 檻のほうへ手を伸ばし、柵を掴む。外からはわずかなろうそくの光しか差し込んでこない。

 わずかながら見える通路の壁は土で作られている。ええと、部屋の暗さ的に見て地下だろうか。地面に耳をつけて近くから人がやってこないかどうか確認する。……足音が聞こえるな。一人か二人かは分からないけれど確かに聞こえる。

 体勢を元に戻し、近づく足音に備える。何をされるかわからない。警戒をしておこう。


「おい、起きろ」


 そう声をかけられる。


「起きてるよ。なんだ?」


 気圧されるな。気を抜けば殺される。そのくらいの気持ちでいなければ。


「こい。話を聞く」

「夏風鈴さんに聞いてよ。彼女に話せることはすべて話した」

「それでもだ。あいつ一人だけの状況でこれを鵜呑みにするわけにはいかない。聞き間違えとか誤解があっては困るからな」

「……服は?」

「それを着てるからいいだろ」

「お前はふんどし一丁で出歩くのかよ。せめてズボンくらいは返せ」


 上の下着はまだしも、パンツを晒して歩く趣味はない。


「っち。面倒臭ぇな。向こうで返す。さっさと来い。こっちだって忙しいんだよ」

「…………」


 いらだちを隠さずに男は言う。暗闇に目が慣れてきたのかろうそくの灯だけでもその顔を確認できた。やつれている。こいつには同情するわ。


「わかりました」


 そして牢屋を出たところで手錠をかけられ、抵抗できないようにされる。

 まぁ考えてみれば当然か。何かされて逃げられたらこの人はすごいことになるだろう。このやつれ顔に免じて許すことにした。殺されはしないだろう。そう思うことにした。情報を吐くまでは拷問は受けても殺されはしないはずだ。

 そしてしばらく歩かされると、取調室のような場所に連れてこられた。とはいっても周りは土の壁だ。

 手前の椅子に座るように促されたので、座る。椅子の感じからすると西洋のものだ。この世界の日本は海外と交流は行っているということだろう。


「お前に聞きたいことがある」

「はい。僕のこたえられることなら全部答えましょう」


 正直拷問されることも予想している。というのも、僕の話の内容が信じてもらえない場合、真実を吐くように強制されることは目に見えて明らかだろう。

 いやだなぁ。


「まず最初に。どこから来た? 広島か、それとも大阪か? はたまた江戸か?」


 僕の知る現代の地名と過去の地名が混ざっているのか? 東京という名前が成立したのは明治の廃藩置県の時の話だから……ええと……いつだ? だが、なんらかの理由で江戸が江戸のまんまということなのだろう。


「僕は日本の……おそらくこのあたりから来ました」

『?』


 相手が動揺するのがわかる。正直、この世界に来て動揺しているのは僕も同じなのだ。僕もこの世界について知りたい。相手は僕の持つ敵の情報について知りたい。ならばウィンウィンの関係を持てる……はずだ……多分。


「僕は『ここ』に来てまず最初にあの化け物に襲われました」


 この世界に来るときに襲われたのか、この世界に来てから襲われたのか一日経って思い出してみたのだが少しうろ覚えだ。あの存在があまりにも自己主張が強すぎて、周りの印象が薄れてしまった。


「あいつについて僕はあまり知りません」


 相手の目を見る限り、その目は分かり切っていたものを見る目だった。そして、少し愁いのようなものも見えた気がする。そして、『侮蔑』のような、敵意に近いものを持った目。その目に少しひるんだ。心臓が少し鼓動を速めたが、胸に手を当て落ち着かせる。


「ですが、僕のいたところではあいつに近いものはたくさんありました。素人目にも確実を持って言えます」


 そして相手の中年男性の目からは少しだけ、揺らぎのようなものを見ることができた。彼女がぶっ壊した部品のあたりから基盤や回路らしきものは見えていた。オーバーテクノロジーであり僕の世界には実在しないものだ。内容は全く分からないしどの配線がどのように作用しているのかもわからないが、おそらく、弱点になるものがあるはずだ。


「済まないがその話を――」

「へっくし! すいません。肌寒いんで服調べ終わったら返してもらえないですか?」


 少なくともこの空間では『尋問』ではなく、『取り調べ』くらいにはなったはずだ。

 上着を着てから、気を入れ替える。ご飯もらえるかなぁ……。


まだ彼の脳内麻薬は出ています。次回は26日です

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