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第一話 異世界だか何かわからないけれど頭が混乱している

一陣の風が吹いた。

その風は気圧の差から生まれる空気の流れとしてモノではなく、動くものとすれ違った……生き物が通り過ぎたような、わずかなにおいと生温かさを感じた。

 それを認識した途端自転車は完全に転倒し、体を投げ出される。だが、体が感じたのは硬いアスファルトの素材で舗装された道路ではなく草と、土だった。


「っつぅ……」


 強く打ったところを、制服越しにさすり閉じていた眼を開く。


「――――っ」


 詰まった息しか出なかった。

 僕が知っている現代の日本の風景ではなかった。

 そこは、現代日本というよりは戦国時代の日本というのを連想させた。


「ここ、どこだよ……」

「何してるの! 早く逃げて!」


 そんな声が投げかけられる。


「えっ」


 そして目の前では、三メートルはあるだろうその巨大なロボット相手に少女が戦っていた。


「早く……逃げなさい!」

「あ、ありがとう」


 我に返り、自転車に乗り再び自転車をこぐ。先ほどの転倒でゆがんだりしていないか不安だったがそんなことは感じさせないスピードだ。


「と、とりあえず、早く逃げなきゃ……」


 全力で逃げた。しばらく走っていると、だんだん草の背丈が高くなってきた。自転車の車輪に草が絡まりそうなので僕は自転車のスタンドを立てて、そこに置いておき、念のために鍵をかけてその場に座ることにした。

 結構の距離を走ったようで、爆発音のようなものが聞こえるものの先ほどの女の子とロボットの影は見えない。


「それにしても、あいつは何だったんだ……」


 この空間? 世界? もそうだが、異質すぎる。少なくともぼくの知る現代日本ではないことは確かだ。なんで、僕がここにいるのか、そもそもなんでここに来たのか。そういうことも含めてなんだか気味の悪い話だった。


「これからどうするかねぇ」


 誰に聞こえるとも限らない独り言をつぶやき、荷物を確認する。


「あっ、カバン落としちゃった……」


 まあ、あの状況だ。置いてきたのは吉だろう。

 そしてしばらく経っただろうか。僕のいたところあたりから、煙が立ち上った。人間が燃えながら煙を出すだなんて思えなかったから、僕はあの煙のあたりにもう一度向かった。


~~~~~


再びそこへ向かうと金属片が大量に散らばっており、ロボットも完全に壊されている。

形は結構そのまま残っていた。見た目に反して中身がぐちゃぐちゃだ。電子レンジや、冷蔵庫の扉なんてものも見える。案外凄いロボットではないのかもしれない。いや、あのサイズのロボットが人型で知能らしきものを持ってバランスとって動いてたのには驚きだが。


「動かないで」


 気配を感じることができなかった。気が付けば背後を取られていた。僕は生き残るすべはないかと瞬時に脳内で考えを巡らせるが駄目だった。


「両手を頭の後ろで組んで」


言われるがままに両手を頭の後ろで組む。ザッザッと足音が聞こえてきて、後ろにまで迫ってきた。そして、背中を何かとがった刃物のようなものを突き付けられる。


「あなたは何者? どこから来たの? その着物は?」


 かけられた言葉は日本語。だが、僕の後ろの声……先ほどの子だろう。その子が僕に質問を投げかける。


「僕は……、小鳥遊聡。年は十五、住んでる場所は『日本』。この服装は、学校に通う生徒が着る学ランというもの」


 時間が空く。妙な間ができる。

 この妙な間の間に逃げることができればどれだけうれしいことだろう。だが、彼女はあのロボットを一人で壊した。残念だが、そんなことをすれば僕は殺されてしまう。死にたくないです。


「……ここは日本だけど?」

「……僕の知る日本とずいぶんかけ離れていますね」


 さて、なんとなくだけど今心理戦に持ち込まれた雰囲気がする。お互いの空気が張り詰められる。


「あなた、あの機怪について何か知ってそうね。知っていることを全部話しなさい」


 刺さらない程度に背中に当たる刃物らしきものが突き付けられる。


「あれは、具体的なことは知らない。これは本当」

「嘘も言うの?」

「妄想、というか推測が正しいかな」

「事実だけを述べなさい」

「あれは、機械……絡繰り人形……かな」

「そんなものは見ればわかるのよ。問題はその先、『どうして、術式もなく勝手に動いているの?』」


 術式? なんだそれは。間違いなく向こうは『相手が同じ知識をある程度共有している』ものとして話を進めている。ここは、訂正をしておこう。後々面倒なことになる。死にたくはない。より正確には苦しく死にたくない。死ぬならそれで構わないが、刃物で刺されて死ぬとか痛いだろうし絶対に嫌だ。


「君が僕を何者か知らないように、僕も君が何者かは知らない。正確にいえばここら一帯、いや、世界全体が僕の知らないものだと思う。だから、教えてほしい。術式って何だ?」

「……本当に何者なの?」

「僕があいつに追われている間は、少なくとも僕がいる範囲では何も起こっていなかった。けど、僕が目をつぶってから変化が起こった。君には僕がどう見えている?」


 少なくとも、情報は小出しにするべきだろう。相手の望む情報と僕自身の情報。この二つをペラペラと話すのは得策ではないだろう。推測をさせる範囲でとどめておくべきだ。信用できるならすべてを話しても問題はない。


「……ここは日本。日ノ本の国。現在、この国はとある異変に遭遇している」


 向こうも少しずつ情報を出していくようだ。大まかな外部の事情を話してきているあたり、まだ僕も信用されてはない。


「私たちは、あれを機怪と呼んでいる。さっきのあなたは、ありもしない坂から降りてきたわ。あなたはあれのことを知っているのね?」


 一回会話がループした。だが、先ほどと違うのは少なくとも向こうからの敵意は薄れている。警戒はされているが、少なくとも僕が無知であったことが幸いしたらしい。


「僕は、さっきのあれについては絡繰り人形であること以外は推測がつかない。あと、君のいう『術式』が何かがわからないけれど人の手は間違いなく入っている」


 刃物らしきものを握る手に力がこもるのがわかる。このまま刺されたりしないだろうか。恐ろしい。


「どのように人の手が入っているの……? 今すぐ教えなさい……!」

「君にわかりやすい言葉でいうなら術式というのがやはりしっくりくると思う」

「!」

「あれは特別な信号を使って術式を打ち込んでいる。僕の知る言葉ではプログラムとか回路とかいう言葉だ。僕の知る範囲ではあれほどのものを作ることは多分今は無理だ。おそらく、僕の知るそれ以上の存在がいる」


 五メートル超の人型の機械がバランスを取りAIを持ち、行動できる。それは正直おかしいことだ。現代でパワードスーツなるものはすでにいくつか作られている。が、それらは人型ではあるものの歩くことすらできない。しかも、ロボットにおいては人型で人が全力でこぐ自転車に追いつくロボットはまずない。変形して高速移動する機能があったとしても、その時点でまず現代ではありえない。

 そしてもう一つ間違いなく。

 これがオーパーツ足りえることと、製作にまず日本が絡んでいることは間違いない。

 日本のロボットは外国と違い『人型』に対してのこだわりが比較的強い。パワードスーツ然り、アシ○フ然り、人型がベースである。最近しゃべれるようになったようである。


「断言する。僕は無関係とは言えないかもしれないけど、無実であることは間違いない」

「…………」


 会話が途切れた。

 正直、これ以上何かを話せと言われても推測の話でしかない。先ほどの思考も推測ありきのものだ。


「わかった。一応信用するわ。でも、少しでも怪しげな行動を見せたら、拘束させてもらうから」

「それでいいよ。さっきは助けてくれてありがとう」


 そうして、後ろに突き付けられていた刃物らしきものの感覚がなくなる。改めて姿を確認すると、しのび装束のような恰好をした少女が後ろにいた。


「いいえ、こっちも有益な情報を引き出すことができたわ。少なくとも、私……私たちに敵がいることだけは確かなようね」


 あれ、これもしかして勘違いされたりしないですよね? 現代日本について少しだけ話した。だが、科学技術とか話してもわからない。僕が知識を話したから僕のところが標的にされたりしませんよね……。


「敵は僕らじゃないよ。敵は僕らじゃない別のやつらだから」

「そうよね。とりあえず、どこの国かしら……」


 さりげなく別世界から来たのをほのめかしたのに、通じてないのか……、駄目だこりゃ。まぁ、一応この世界について学んでおこう。そして、あとで話すのもいいだろう。

 だけど……、あのロボットの部品を見る限り、そんなことがあり得るのだろうか。


「ねえ、聞いていい?」

「何を?」

「日本に、妖怪とか……いる?」

「えっ……いるけど……」


 いるのか。

 ってことは、あのロボットの正体は……。


「おお!」


 ぽんと手をたたく。


「何?」

「付喪神か」

「違うわよ」

「どうして」

「どうしても何も、あいつには日本にないものばかりじゃない」


 僕の世界にはあるんだよなぁ。だが、僕の近くにいたということは、あそこの近くに不法投棄された家電製品とかいろいろあったのかな。


「いや、僕のいたところにはあのキカイ? っていうものの部品があったよ。だから付喪神自体は間違いではないと思う」


 付喪神なら、あの巨大な自立ロボットの説明がつく。魂があるのだから当然だ。


「まぁ、あいつらの正体は現在調査中だから。とりあえず今は被害の拡大を防ぐほうが先なのよ」


 まぁ、僕の世界から来たものだなんて想像つくはずないか。


「じゃあ、行くわよ」

「行くってどこに?」

「決まってるでしょ。街よ。報告しないと行けないし」

「お、う、うん……」


 そうだけど、僕正直不安だなぁ……。


「ちなみにここから一番近くの町ってどの辺?」

「そうね歩いて六時間ほどね」

「よ、六時間!?」


 六時間とか冗談じゃない。膝が砕ける。物理的にも。


「ちょ、ちょっと待ってよ……。それだと、かなり遠くない?」

「私一人なら走っていけば一時間もかからないけど、それだとあなた置いてけぼりよ?」

「お願いします! 歩きで!」


 自転車で行けるところまでは行こう……。


~~~~~


 あのあと、カバンを探し中身が無事なことを確認して、改めて目的地に向かって歩き出した。

 だけどきっと、ここで僕は変われるのかもしれないと心ひそかに思っていた。だって、既に僕の心は躍り始めていたから。



まだ脳内麻薬が出てる。

次回は24日です

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