表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

林檎の町

 女が戻って来て一週間が経つ。俺達は身内ではそれぞれ銃士ガンマン、N・K、魔術機マジシャン人機サイボーグと呼び合うようにし、対外的にはサン、クレア、アスカ、デバイスという名前で活動している。人機に偽名が付いていないのは彼女が人前には出ないからであり、それなのにコードネームが付いているのは秘密を共有するもの同士の連帯感を持つためだ。

 我らが事務所<フォー・ザ・グレル>、偽名を<アップル・ワン>はこの一週間の活動により、今ではそれなりの信頼を得ている。事務所の活動にはペットの捜索、害虫・害獣の駆除、病人の看病などの依頼を受けての活動もあれば、ゴミ拾いや町の見回りなどの自主的な活動もある。それらに加えて俺の大道芸、女どもの露店も合わさって、たった三人の何でも屋の評判は林檎の町中に知れわたっている。

 今日も俺は大道芸のために六時に起き、洗面台で歯を磨き寝癖を直し、食卓で予め人機が用意してくれていた朝食を食べる。人機に尋ねる。

「今日の天気は?」

 人機が答える。

「ずーっと晴れですよ! 絶好の大道芸日和です!」

 彼女に言う。

「汗でメイクが落ちなきゃいいがな」

 皿洗いは任せて身支度を整える。でかいサングラスをかけ、頬に赤い丸を描き、口ひげを付け、蛍光黄色のベレー帽を被り、終いにアヒル笛を首に下げて家を出る。

 ドアを開けると、ガキどもが俺を待ち構えている。ガキと言っても大体は俺と同じぐらいの年で、二人だけそれなりに年が上の奴がいる。ガキどもが絶え間なく俺に話しかけてくる。

「お前なにそのダッセー帽子!」

「今日はどんな芸してくれるの?」

「なー、なんだよそのダセー帽子!」

「サンは毎朝早起きだなー」

「なんでそんなダサイ帽子被ってんの?」

 俺はガキどもに一遍に返答する。

「ほら、ダサイ格好して人気者になれるのは芸人の特権だろ。早起きは得意分野だから余裕だし。あと」

 一度言葉を切って、次の言葉を繋げる。

「芸の内容は教えられ、ないよう」

 ガキどもが寄ってたかって俺の頭を叩く。俺は集団から抜け出して大声で後ろに呼びかける。

「さあ付いて来いガキども! 俺一番得意のジャグリングで魅せてやるぜ!」

 ガキどもを引き連れて町の主要なみちへと進んでいく。男の方の年上のガキが俺の耳元でこそこそと話しかけてくる。

「芸の内容は教えられないんじゃなかったのか?」

 俺は溜め息を吐いて答える。

「言いたかっただけだよ。察しろよ……」

 彼は溜め息を吐いて俺から離れて歩き出す。女の方の年上のガキと話し始める。

 目的地に近づくほどに道が広がっていく。植物の影が増えていく。早朝にしては人も多くなっていく。林檎の香りが漂ってくる。ちょっとの話し声と、微かな楽器の音色が聞こえてくる。大きな丁字路に行き着く。丁字路の周りには芝生や林檎の木なんかが植わっている。広がっている緑は十字路とブロック塀で区切られて四つの区画になっている。それぞれの区画では纏まり無く、自由にイベントが行われている。俺はいつも北東ブロックで大道芸をしている。

 今日もそこに行ってみると、一人の少年が笛を吹いている。辺りを見回すと公園中の人が少年の笛の音を聞きに集まっている。少年は笛を吹きながら回り、跳ね、宙を舞い踊る。それを見た観客から歓声が起こる。俺も自分の道具を持って芸に加わる。三つのピンを宙に放り投げ、掴み取り、放り投げ、掴み取り、一つ加えて放り投げ、掴み取る。少年がメロディーを早めると俺もペースを上げ、俺が背中でピンを受け止めれば少年も曲にアクセントを入れてくる。二人でのパフォーマンスはあっという間に終わり、観客達の拍手が送られる。少年が手を差し出してくるので、それに応えて握手する。少年が話しかけてくる。

「良い腕してるね。特別な技術なんかは無いけど、僕の演奏への対応が抜群に良かったよ。反射神経が良いんだね」

 俺が言う。

「そっちもイカしてたぜ。お前さんの笛、極々普通の笛に見えるが、音色は一級品だったよ」

 少年が笑って言う。

「ふふふ、なんだか子供っぽくない喋り方だなあ、君」

 彼の言葉に一瞬硬直してから、溜め息を吐きながら言う。

「よく言われるよ、気にしないでくれ。ところでこの辺りでお前さんらしき人影を見たことがないんだが、旅行者か?」

 彼は手を顎に添えて唸り、暫く経ってから答えを返す。

「まあ、そんなところ、か、なあ。うーん、どうなんだろ。一応、旅行も兼ねてはいるんだけどね。お仕事もしなくちゃいけないからさあ」

 芸の余韻も消え去ると、ガキどもが近寄ってきて俺達を取り囲む。ピンと笛と俺を玩具にしながら少年に話しかける。一斉に話しかけてくるので何を言っているのか聞き取ることができない。年上のガキどもはそれを遠めに眺めている。

 群れの中から抜け出す。やりたいことはやったので走りながら彼らに別れを告げて去る。

「じゃーなー! 明日は家に引き篭もってるけど、何か困ったことがあったら何でも屋アップル・ワンをよろしく!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ