表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

競売

大学生活が暇すぎて中二病が再燃してしまったので、またポツポツと書いていきます。どなたかに読んでいただけたら僥倖ですね。

 俺がオークション会場に着いたのは、オークションが始まる十分前のことだった。会場の正面は金色の装飾で彩られており、照明も多いので真夜中でもとても明るい。入り口には二人のバニーガールが控えている。ドレスで着飾った男女がそこを通って会場に入る。

 それに対して裏手では、泥に塗れた監獄艦が幾つも泊まっている。照明が無いのであまり見通しはよくない。入り口には何人もの銃を構えた男が立っている。黒服に身を包んだ男達が商品を連れて会場に入る。

 ここで取引されるのは主に奴隷用の生物だ。奴隷として使えることが重要なので、売られるのは人間だけとは限らない。力仕事のためのオークや、召使いのためのエルフなども運ばれてくる。

 俺はその中から目的の女が入れられた監獄艦を見つける。その女は他の者と違って手錠をかけられているが、代わりにドレスを着ている。傷も見られないが、これは他の商品にも言えることだ。

 正門に戻って、今度は自分と特徴が一致する者を探す。髪の色なんかは一致してなくてもいい。染めてることにすればいいのだ。それよりは耳や目や鼻なんかが似ているほうが好ましい。ふと、俺と目と口が似ている老紳士と目が合う。俺はその人に近づき、大きな声で話しかける。

「おじちゃん! オークションに行くの?」

 突然話しかけられたことに驚いた老紳士は、一拍置いて俺に答える。

「ああ、そうだよ可愛いおぼっちゃん」

 俺がまた大きな声で言う。

「いーなー! 俺も入りたいなー!」

 老紳士が笑って答える。

「うーん、しかし、君にはまだ早いんじゃないかな?」

 立ち去ろうとする老紳士の視界に青の混じった赤い石をチラつかせる。老紳士の足が止まる。宝石を老紳士のズボンに忍び込ませる。

 老紳士が真顔で答える。

「感心しないね?」

 俺はにやりと笑いながら言う。

「お好きでしょう?」

 老紳士は肩をすくめると、俺と手を繋いで会場に入る。

 会場には数え切れないほどのイスと、奥の方に豪華なステージが据えられている。ステージ脇に垂らされているカーテンの裏には、商品どもが整列させられているのが見える。空調はあまり効いておらず、人々の熱気もあって暑いほどだ。

 会場内には客の他にエーテル酒と、悪酔いのための幾つかの触媒、それに酔い覚ましの特効薬を売っている者がいる。男女で来ている者らの殆どは片方がそれを買い、一人で来ている者は誰も買わない。

 俺が老紳士に耳打ちする。

「買ってくれ」

 老紳士が売り子を呼び止め、商品一式を購入する。触媒には紅葉した銀杏の葉を選ぶ。売られていた触媒の中では一番上等なものだ。売り子が離れた後で俺は老紳士に代金を渡す。

 鐘の音が響く。それに合わせてシルクハットを被った中年の紳士が出てくる。彼は客にもうすぐオークションが始まることを告げ、酒の購入を催促する。男女組の幾人かが酒と触媒と薬を買う。

 紳士が客の動きが止まったことを確認し、会場の照明を落とす。暗闇の中で商品がステージに上がる。スポットライトに照らされる。

 まず初めは細っこい赤毛の少女だ。ぱっちりした目と長めの犬歯が目立っている。大衆の視線を浴びてその体を震わせている。そんな彼女の姿を見て、何人かが酒と触媒を口に放り込む。出品される商品だと、当然愛嬌のある者と、肉体労働に耐え得る者の二つが人気だ。

 紳士の合図によって入札が始まる。まずは小競り合いが、連中の酔いが回ってくると一手ごとに桁が上がるほどの熱戦が仕掛けられる。0が8個付いたところで予算を超えてしまったのか、入札者が相方に無理矢理酔い覚ましの薬を突っ込まれる。他の終盤を争っていたものどもも正気を取り戻し、自分のとった行動に各々恐怖している。とりわけ青ざめているのは落札者だ。酔い覚ましの薬はギブアップの役割を持っており、最後の入札者が薬を飲んだ場合はその直前に入札していたものが商品を手に入れるのだ。

 その後も同じように出品、入札、落札が続く。老紳士もたまに力のありそうな者なんかに入札する。異星人の理解できない道楽に、俺は段々眠くなってくる。そこに先ほど見つけた、ドレスを着た女が入ってくる。俺は自らの頬を叩いて眠気を振り払い、老紳士の脇を小突いて目当ての者が来たことを知らせる。

 まだ商品を買っていない者どもの殆どが酒と触媒を口に含む。そうでない者どもは隣の席の者と大声で話し合っている。老紳士に酒を飲ませる。

 紳士の絶叫の様な合図で入札が開始される。俺の指示で老紳士が入札する。

「一兆パーロン」

 声が止む。一兆パーロンは地球の日本という国の、円という単位に換算して十億円だ。それはこのオークションの入札限度額でもある。十秒ほど経ってプロである運営側がオークションの進行を再開し、それから五秒ほど立って客どもの喧騒が戻る。俺は老紳士に一兆パーロンを預けて席を立つ。

 会場の外に出ると、客の熱気の篭った会場とはうって変わって風が冷たい。タバコを模した砂糖菓子をくわえ、壁によりかかったまま目を閉じる。十歳の脳味噌が遂に眠気に負けてしまう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ