風じゃない(後半)
そんなことが続いていたある夜のこと。
深夜1時頃で、その日はバイトもなくMさんはすでに家に帰っていた。
彼氏も一緒だった。
二人でくつろいでいると突然、部屋のドアがそっと開いたという。
ワンルームなので二人の眼にもそれははっきりと見えた。
鍵をかけ忘れていたのだ。
閉め忘れていたのは鍵であって、扉そのものではない。
扉そのものは完全に閉めた状態であって、ラッチボルト(仮締)もカチャリと嵌まっていたのだ。この状態からはわざわざノブを回して引っ張らなければ開けられない。
風にそんなことは不可能だ。
「誰だ!」
彼氏が咄嗟に叫んだ途端、ドアは30度くらい開いたところで止まり、そっとまた閉まった。
あの男だ――Mさんはそう確信した。
あの自転車の男だ。やはり変質者だったのだ。
この話をした友人は信じてはくれなかった。
「あのね。おかしいでしょ。扉が閉まってるのを外から見ても、鍵がかかってないって分からないよね。仮に分かったとして、『誰だ!』って言われていったん逃げた変質者が、直後にもう1回開けに来る?」
そして、扉が鍵以外最後まで閉まっていたというのは勘違いだという。
最初から少し開いていたのだ。それが風か気圧で開いたに過ぎない。
いや、風なんかなかったと本人は頑強に主張する。
彼氏だって見ていたのだ。
あれは自転車男だったと、今でもMさんは信じている。