3 仮勇者に就任となりました。その③
3仮勇者に就任しました。その③
「………これは何?ってかこれマジで船?」
船着き場に到着した私の目の前には、この世界で言うところの船と言う乗り物があるのだが、私の知る船とは大きくかけ離れたものだった。一言でいうなれば、生き物。
イメージとしては、ネッシーとか某ボールを投げるゲームに出てきた水上移動用の動物といった感じだろう。いかんせん、御者も入れて4人もの人間を乗せられるような大きさではなかった。だったら船でも引くのかと思いきや、その船の影すらない。夜目に目が慣れていないだけなのだろうかと思いじっくりと、観察をするも、そのネッシーの背には御者らしい男性一人と、象の上とかにあるような籠しかない。籠には何やら円形の文様が書かれている柔らかそうな絨毯が引いてあるだけだ。さらにネッシーの周りには、多分明り取り用のランプみたいなものなのだろうとも思われる明るい球体がふわふわと浮遊している。いくら考えても、どう見ても3人も乗れるようには見えない。そもそも、船にすら見えない。あれか?生き物に見えてロボットで、スモールライトとかでちっこくなるとか。もしくは、秘密の国もアリスみたいにちっこくなる薬とか。
「どうしたんですか?早くしないと出向してしまいます。入ってください」
「えー…だってさぁ…なんか変だよ。これ、俺の知ってる船じゃない。そもそも、全員乗れるの?いや、そもそも……」
「おい。あんちゃんたち、もめるのは中に入ってからにしてくんな。時間押してるんだ」
苛立ちを隠そうともしない船頭さんの声。
入る?どこに入るというのだ?さらなる疑問が私に突き付けられる。そもそも、いくら船と呼ばれるものを見ても、私には疑問符しか浮かばない。こんなん乗ったら馬車の比じゃないくらい酔う!ちなみに、酔い止めはもうないらしい。
そして、私が渋る最大の理由は、この湖は相当でかいらしく、湖の中央にある島まで船で半日ほどかかるらしい。さらに対岸へ行くには一日を要するという。そんな距離をネッシーなんぞに揺られるなんて耐えられない。腰の引ける私に
「ほら!大丈夫。全員乗れますし、これはこの世界では船です!!早く入ってください!!」
背中を押して急かしてくるお姫様。
「とにかく出航が遅れてしまいますから、ご説明はあとでしますよ。これは揺れませんから大丈夫ですよ。あの円形の円の中心に入ってください」
目指しで絨毯を指す。なんつーか。子供騙しなおまじない的な事を言うアルファさん。
「これ以外に行く方法は……」
それでも渋る私に、アルファさんはため息をつきながら
「ありますけど、こんなに暗いんじゃ飛竜は出せません。そもそも、慣れないものが乗ると酔いどころの話ではないですよ。失心するでしょうね」
それは却下だ。そもそも、私は高所恐怖症。それでも、何とかのらりくらりと乗るのを逃げようとしていると、とうとう業を煮やしたらしい姫様の完全に切れた声
「ほんとにめんどくさい人ですね!!」
背中にそんな言葉を投げつけると共に、何やら強い衝撃が腰辺りに加わった。
私はつんのめる様に頭からネッシーの背に転がり落ちる。さらに残念なことに、勢いが良すぎたため、このままの勢いだと湖に落ちることは確実だ。ちなみに、私泳げない。しかし、どうすることもできない。
私は堅く目を閉じ、水に落ちる衝撃に耐える様に身を固め、さらに息を止めるが、いくら待っても水に落ちる感触がない。不審に思ってそろりと目を開けると、そこは、えらい賑やかな場所だった。行商人風の人や家族連れ、カップルなど様々な人がわいわいがやがやと、俯せに倒れている私に一瞥をくれながら通り過ぎてゆく。
びっくりして、そのままの体勢で周りを見回すと、フェリー風の船の中だった。ここは多分、船のロビーに当たる場所だと思われる。
あちらこちらに敷物を引いて座っている姿や、その敷物の上で雑魚寝してる人。柵から身を乗り出し、景色を楽しむ人やら、私が知る船旅の風景に近いものがあった。
「………打ち所が悪くて夢でも見てるか。私死んだか?」
私がぼんやりと周りを見回していると、今度は軽く頭をはたかれる。
「まったく、大丈夫と言いましたでしょう?」
「あっ。暴力お姫さ……」
思いっきり頭を殴られた。流石に頭にきた私は立ち上がるとお姫様に詰め寄り
「さっきからなんなんだよ!!俺の背中思いっきり蹴ったり、頭殴ったり!!」
「ちんたらちんたらしてるからです‼」
「こんの暴力女!!俺はこの世界は初めてなんだ!一から説明するのがお前らの仕事だボケ!つーか!ネッシー見て船とか意味が分からん!!つーか何なんだここは!!」
「それが人に尋ねる言い方ですか!!ここは水竜の背に在った魔法陣の中です。これは空間魔法を利用した……説明しても解りませんね。とくかく、私たちの世界で言うところの船とはこのことを指します」
「あのなぁ。だったら先に説明をしろ!!言葉が通じても意味が通じるとは限らないんだ。今後は何かするならまず、説明をしろ説明を!!いきなり入れとか言われても躊躇するわ!!」
睨み合いながら二人して肩で息を弾ませていると、
「まぁ、まぁ、お二人とも、確かにこちらの説明不足もありました。けれど、少し周りを見て下さい」
アルファさんの言葉に顔をあげると、呆気にとらわれてる人やニヤニヤ楽しそうな人そんな様々な人の目とかち合う…自分たちの周りには人だかり。
「事態は飲み込めましたね?さぁ、皆様の邪魔になりますから行きますよ。私たちは上の階です」
「先が思いやられます」
アルファさんについてフェリーの2階に上る階段に向かう途中、そんなお姫様のため息交じりの言葉にムッとしたがグッと堪える。そんな私にアルファさんさんが耳元で
「すみませんが、少し我慢なさってください」
ここに来てから我慢する事ばかりだ。疲れてため息を吐き出したその時だった。
(難儀されてますね。祐樹さん)
ここ最近聞いた中で一番かっこいい声の主と言ったら、一匹しか知らない。私はビックリして足下に視線を向けた。そこには、キツネがいた。キツネは私の影から抜け出すとするするすると私のフードの中に滑り込む。
周りには大勢人がいるし、傍にはアルファさんもお姫様もいる。私がどう返事を返そうかと悩んでいると、
(頭で考えるだけでイイですよ。流石に声にだすのはまずいでしょう)
(何かあったの?誰か代理帰って来た?)
(すみません。流石にそれはないです。一応、連絡は取りましたが、難しいですね。本当に申し訳ないです。ですので、なるべく時間ができたら、フォローに回ろうかと思いまして…)
なるほど、あんな神代理の下につけとくのが実にもったいないキツネであるが、その上司は何をしているのか。私がこっちに来てからうんともすんとも連絡をしてこない。
そんなことを考えていると、お姫様が私のコートを引っ張った。
「ユーキ、明日からこの世界の学問、魔術、武術、剣術の修業を始めます!」
確かに生き残るには必要な知識ではあるのだが、さすがに、この姫様が私にべったりくついている状況はそろそろ、回避しないとまずい。いらぬ誤解。さらには私の行動が制限されかねない。私はこの世界を救う気はないのだ。そんな私が目立てばそれだけ自由がきかない。それに、駆り出されかねない。でも、かといって、このお姫様は気が強いから下手なことを言っても、押し切られそうだ。しかたない。これはあまり使いたくはない手ではあるが…。
私はスッと目を細め、なるべく声に感情を込めないように淡々とした口調でお姫様に切り出した。
「あんたの助力はもういらない。もし、何かあれば今後はアルファさんを頼るさ」
「なっ!!」
「そもそも、一国の王女がしゃしゃり出ること事態おかしな話だ。他の勇者だって、アルファさんみたいなお付が教えてるんだろうし、俺だけ特別ってフェアーじゃないよ。あんたが側にいれば、いらぬ火種だって生まれることぐらい予想付くだろ?」
「…そんな……私はこの世界の為に!!」
「確かに、ユーキ様がおっしゃる通りですね。本来は私がすべきことです。姫様あとは私にお任せください」
ため息交じりにアルファさんがそういうと、お姫様はキッ睨みつける。
「アルファ!!」
「おい。アルファさんは関係ないし、そもそも間違ったことは言ってない。大体さ。俺なんかに労力を向けるより、他に向けるべきところがあるんじゃないか?この世界の命運とか言う前に、まずは自分の国の人々をどうするか考えろ。自国の現状を認識しろ。アルファさんの話じゃ、大変みたいじゃないか。それを何とかするのが、この国を治める王族の務めじゃないのかよ」
「それは…お父様が……それに、大臣たちの報告では……」
「なるほど……人任せか。お前の代でこの国終わるな。このままじゃ、生まれ故郷をなくす奴が出ちまうかもな。じゃあ、あとで、俺屋上に行ってるよ」
少しきつく言い過ぎただろうかと思い、ちらりと、お姫様に視線を向ければ、唇を噛みしめている。頭の悪い人間じゃないだろう。それに、これだけ言えば、自分が本来すべきことに目が向くだろう。このお姫様は、私と会ってからこの国の内情の事より世界の命運の事しか言っていなかった。そんな人間が世界をうんぬん言ってはいけない気がする。まぁ、何もしない私が言うのもお門違いではあるかもしれないが、それでも、箱入り娘で我儘が通るような現状ではないはずなんだ。
そもそも、ファンタジーっていつも思うが、お姫様が勇者と一緒に自国をほっといて冒険に出ること自体が疑問でもある。世界より、まず自国を守って何ぼじゃないだろうかと私は思う。
(祐樹さんなかなかいいますね)
苦笑交じりの狐の声。
(言い過ぎた気はするよ。けど、このまま私の世話なんか焼いてたらいらぬ火種になりかねなかったし、それだけの効力はある存在だった。その自覚を持ってもらわないといけなかった。それにさ。そもそも、私はこの世界を救う気はない。勇者にはならない。その責任も義務もない。そんなのの側にいてもね。だからこそ、早めに気づかせて対処させたかった。お姫様はこの世界の住人なの。世界も大切だけど、自分の生まれた国がなくなるなんて嫌じゃない。やっぱり、自分の背負ってるものを自覚しないと取り返しのつかないことになる気がしたんだよね)
(やらないよりはやった方がましだと思いますよ。王族というのは国を束ねるという責任がありますからね。それは、王位を継ぐ者なら、知らなかったですむものではないですからね)
(部外者だから好きに言えちゃうよね)
キツネは何も言わずに、私の肩のぽふんっと頭を乗せた。
「ユーキ様!!」
私が振り返るとそこにはアルファさんが困った顔で立っていた。
「どうかしました?」
あれか?手打ちとか…それくらいの暴言は吐いた気がする。後先考えずに言った自分に冷や汗が出る。最終手段で狐に助けてもらうしかない。しかし、アルファさんは私に向かって深く頭を下げた。
「すみませんでした」
「あなたが謝る理由がわかりませんが、あの姫の代わりに謝るってんなら怒りますよ」
私は思いっきり狼狽えながらも、そう思わず言うとアルファさんは首を振って
「違います。本当なら、あなたが言った事は私どもが姫に言わなければいけない事だったんです。けれど、誰も言えなかった。言えば死罪になる可能性もあるし、出世も危うい。自身の保身に走り、見て見ないふりをしていたんです。あなたに汚れ役を背負わせてしまってすみません。そして、ありがとうございます。今姫は部屋に引きこもってしまってますが、聡明な方なので、きっとユーキ様がおっしゃったことの意味をきちんと理解されると思います」
私は居た堪れない気持ちを抱く。そんな大層なことを言ったつもりはないのだが……私はアルファさんに向き直ると頭を掻きながら
「姫様ほっといていいんですか?」
「とりあえず、防御魔法と封鎖魔法とかもろもろを掛けてきてますので、少しの時間なら大丈夫だと思いますし、今日は部屋から出てこないでしょう」
あのお姫様の周りにはもしかしたら過保護が多いのかもしれない。誰もそういうのを見せてこなかったのかもしれないが、知ろうとしなかったのはお姫様自身でもある。これもある意味責任なのだろう。王族の責任。
私は頭を振ると、
「そうですか。まぁ、俺は部外者ですから、感謝も謝罪もいりません。で、本題は…俺と話したいことはなんですか?」
「あなたはこれからどうなさるおつもりなのかをお聞きしたかったんです」
これは、非常に答えにくい質問である。あれだけお姫様に言っといて、実際のところ私は引き籠ろうと画策しているのだ。それは、この国の現状を知った今でも、変わることはない。私はあくまでも異邦人でいる立ち位置を崩すつもりはない。私が無言でいると
「勇者になるつもりはないんですよね?」
怒るでもなくアルファさんは静かな声でそう切り出した。どちらにしろ、いずればれることだ。私はため息とともに
「ない…です。申し訳ないですけど、世界の命運なんて背負わされるなんて、御免ですよ。そんな義務も責任もない。ただ、私はここに連れてこられただけで、自分の意志でどうにかしようと思って来たわけじゃない。それに、その期待が大きいほど、出来なかった時の反動は恐怖でしかない」
私は嫌な記憶が呼び覚まされそうになるのをグッと眉間にしわを寄せて耐える。思い出したくない。私は深く深呼吸を繰り返してそれを押し込める。
私は知っているんだ。期待そして、それに答えられなかった時の人の目。
「……あなたは、とても聡明な方だ。よく考えて行動なさっている。もしかしたら、異世界から勇者を召喚するのは、後腐れないようにする為に、選ばれるのかもしれませんね。ただ、これだけは言わせてください。この世界の人間にとって現実問題でもある。この世界にいる限り、いずれ否が応でも、引っ張り出される時が来るかもしれませんよ」
それは重々承知している。いずれ逃げ切れなくなる時が来る可能性がある。例の強制力なるものもあるのだ。その時のための予防線も立てていかなければいけない。アルファさんの言葉に私は首をすくめて
「そうでしょうね。その時になったら考えますよ。とりあえず、今は他の勇者が世界を救うことを祈ります」
私はそういうと、船の船の屋上を目指して階段を上り始めた。
屋上に出ると、そこには下階の喧騒もなくひっそりとしていた。
風もなければ、振動もない。本当に進んでいるのかと不思議になる。
周りを見渡せば、あまり人がいない。どうしてだろうかと思っていると、周りには着飾った人々が多い。ここは上流階級クラスでなければ入れないのかもしれない。
私はとりあえず、空いてる椅子に腰かけると、そのままぼんやりと空を眺める。見たこともないような満天の星空。そして、金色と銀色の二つの月。
「……思えば遠くへ来たもんだ………なぁ。キツネさぁ。寝て起きたら元の世界に戻ってないかな。目覚ましで叩き起こされてさ。お母さんにどやされて……ちーちゃんが迎えに来てさ。いつも通りの毎日になってないかな……」
(祐樹さん……。出来るだけ早く。他の神が戻られたらご連絡しますから……)
「うん……」
私はフードからキツネを出すと、船の板張りの床の上にごろりと寝転がった。
すると、目の前には星の海だ。
どのくらいそうしていただろうか。気が付くと周りには人っ子一人いなくなっていた。
「……お腹すいた」
「これ食べる?」
ぼそりと呟いた私の頭上に、茶色い紙袋が視界を覆った。
「アカルの実。これがまた、梅干しみたいで美味しいんだよ」
「梅干し?」
私がびっくりして体を起こすと、私を覗き込むようにしてフードを被った一人の少女が目を細めていたずらげに微笑んでいた。
「ねぇ!今梅干しって言った?」
「言った。君はアレだろ。異世界に呼ばれた最後の勇者」
「…………そうらしいね」
私は自身の膝を自分に引き寄せ、その上に顎を乗せながら、そういうと、少女は同じように私の隣に座り袋から紅い実を取り出し、口の放り込む。
「君は他の二人と消極的みたいだね。よかったよ。もし、ファンタジーゲーム感覚でいたら、少し忠告しておこうと思っていたんだ」
「君は私と同じ世界の人?」
「ほら、食べなよ。他にもサンドウィッチみたいなものも入ってるから一ついいよ……そう、君より少し前に来た感じかな。封印の巫女その2名前は千よろしく」
私は袋から紅い実を取り出し、口の中に放り込む。私のフードに移ったキツネにも渡す。確かに、この酸っぱさは梅干しのようで癖になりそうだった。
「わた……俺は祐樹、よろしく。これ、確かに梅干しみたいで美味しいね」
キツネの方も気に入ったらしい。数個まとめてキツネに渡す。
「だろ?今城がごたついてるみたいでね。いてもつまらないから、抜け出してきた。でも、君が来たってことは事態がようやく動くってことだろうな」
私が身を起こしたことで少女の表情はフードで隠れて見えないが、声の調子からすると、どこか楽しそうな感じだ。
「ほかの巫女さんたちは?」
私は言葉に甘えてサンドウィッチを一つ取り出す。
「完全に泣き寝入り。部屋から出てきやしない。気持ちもわからなくはないけどね」
膝に頬杖を着きながらため息交じりに答える。
「けど、このままだと非常にやばいんだよね。とくに、時間が経てば経つほど、いけない」
「なんで?」
「うん…。来たばかりでこんな話もなんだけど、仮の話として、ここでの経験は着実に私たちの中に蓄積されてゆくという話は神様に聞いてるかい?」
「聞いてる」
「で、私はちょっと危機感を感じてる。それは、向こうに戻った時違和感を生むんじゃないかということなんだ。異世界に来る前の感性、感覚で対応できなくなる。食い違いが生まれる気がするんだよね。自分がこちらに来た時のままの皆。けれど、自分は違う軸で別の経験値を積んでいる。今まで通りってのはできるのかな?」
「変わってしまうってこと?」
「少なくとも、ここいる私たちは確実に成長する。したくなくても、経験知識は入ってくる」
千はサンドウィッチに齧り付きながらそう言う。
「それって、例えば人の感情も変わってしまうのかな?」
「変わるだろうね。少なからず」
つまり、早く戻らないとちーちゃんのことを好きだと思う自分の気持ちが薄れていってしまうということなのだろうか。そして、家族との思い出もどんどん過去のものとして処理される。そんなの、それだけは嫌だった。
「これが一つ目、もう一つが向こうもこちらも時間が動いてる可能性。これが一番嫌な可能性なんだけどね。でも、これはどうやらないらしい。でもさ。人との関わりを持ってしまえば、いずれは愛着や情が出てきてしまうものだよね。私はその前に戻りたいと思ってる」
千はそういうと、厳しい目で空を見ている。
「千は早く戻りたいの?」
「祐樹は戻りたくないの?」
千はびっくりした顔で私を見る。フードから見える顔は綺麗な少女だった。銀色の髪にダークグレーの瞳の少女だ。しかし、その表情は中世的な雰囲気があり知的な印象がある。
「戻りたい」
「私も同じ。向こうに恋人がいるだよ。私はね。その人と一緒に時を歩みたいんだ。こんなところで、無駄な時間を過ごすなんて御免なんだよね」
千はそういうと立ち上がり、一つ伸びをする。
「さて、そろそろ行くよ。また」
私はそんな千の姿を見送り、千の言葉を考えながら、アカルの実を口の中に放り込んだ。
次回「3 仮勇者に就任となりました。その④」