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2 水の神殿で能力を与えられました。

2水の神殿で能力を与えられました。


カツカツカツ……


靴の音が耳に付き、私の思考はのろのろと浮上した。

重たい瞼を無理やり開けると、強い日差しに一瞬目が眩み、私は瞳を再び閉ざす。

そして、覚醒した意識が認識した事実に一つため息。

夢オチではなかったらしい。状況を把握すべく、よくよく意識を周りに向けると、知らない香りが鼻腔をくすぐり、投げ出されている肢体は柔らかい布団ではなく、冷んやりと心地良いツルツルした床の感触を伝えている。それから察するに、どうやら私は何処かに倒れているらしい。

さらに、節々が痛いことから多分、長い時間ここに倒れていたのかもしれない。そんな事をつらつらと考えながら、惰眠を貪っていると

「何狸寝入りしてやがる、いい加減とっとと起きんか!!」

その言葉とともに、頭を叩かれた。いや?殴られたのか?とにかくあまりの痛さに、呻きながら、私はしぶしぶ顔を上げ、その人物を見た。

神官風のひらひらしたローブを着た二十代前半くらいの凄い美人がいた。光を受けて輝く金色のサラリとした髪に、青い雪原を思わせる知的な瞳は、金色の長いまつげに縁取られ美しい。が、しかしヤンキー座りをしていてガラが悪かった。

「何見惚れてやがる。金取るぞ」

「………」

神はやはり、人に何かしらの残念な部分を付与するものらしい。完璧な人はいないのだな。

「お前の言いたいことは何となくわかるが、こっちにもこうなった理由がある。察しなさい」

「はぁ……」

あれかな。綺麗過ぎて人が躊躇しちゃて、寄り付かないとか…と思っていると、眼光鋭く女性は

「何かってに想像してんだ阿呆…前の二人も失礼だったが、お前もか!!なんでここ最近はまともなのを上は選ばないんだ。職務怠慢も甚だしい」

それは大いに賛同したい。

「こんな軟弱そうなのを寄越すわ。軽薄そうなのや、見た目は勇者なのに、一世代前の異物みたいなヤツとか…何なんだ?」

何なんだと私に言われても、困る。決めたのは神様なんだから、文句はそっちに言ってもらいたい。それに、軟弱そうなもなにも中身女なんだからしょうがないじゃないか。何かを言い返すのも面倒なので、憮然とした表情で黙っていると、女性はふいに立ち上がり、長いローブの裾を払って居ずまいをただした。

すっと立つ姿はドキリとするほど美しい。同じ女として憧れますな。

「さて、お前に愚痴ってもしょうがない。時間の無駄、労力の無駄だな。それに上と同じに見られるのは不愉快なので、仕事をはじめようか。えー…まぁ、これだけ言っといてあれだが、よく来たな。ご助力感謝する。私は水の神殿の神官をしているレイン。お前は勇者その3ユーキで間違いはないか」

「間違いじゃないですが、ここでも、その3扱いですか」

私は固まったままの筋肉を解しながら立ち上がり、レインさんと対峙する。ほぅ…男の姿の私は一応、そこそこ背はあるようで安心である。

「まぁ…あれだ。便宜上、キャラ分けが必要でな。別に個人を否定してるわけではないので、悪く思うな」

「はぁ…」

神代理に言われると腹が立つが、他の人にそう分けられるのは、なんだか悲しくなってくる。そりゃ、諸手を挙げて喜ばれるのは、これから自分が起こす行動を思えば、心苦しい。しかし、しかしである!それでも、少しは大事にしていただきたい。

「先ずは、言語解析プログラムのチェックだが…会話が不便なくできているのでよしとしよう」

何というか…ファンタジーゲームをやっている気分になる。それに、神代理もそうだったが、この世界の住人はえらく私たちが住む世界と会話的な違和感や齟齬がなさすぎる気がする。

「……どうかしたか?」

「なんと言うか…共通言語が多いのはなぜかと…」

「ふむ…多分、私達の世界の言語をお前達の世界風に自動翻訳しているのではないか?逆にお前達の言語は私達の世界風に直されてるはずだ」

「へー。便利ですね」

「……昔、うっかり翻訳機能が故障した状態でやってきたヤツがいてな。そいつは言葉が通じず、なかば廃人の引き籠り状態にまでなって使い物にならなかったらしい。それ以来、ここでも機能状態を最終チェックしてるんだ。煩わしいことこのうえない」

「それは、そうでしょうけど、我々からすれば恐怖ですよ!きちんとやってください!!」

知り合いのいないこんな世界で、会話すらまともに通じなかったらと思うと背筋が凍る。

「あと、本は読めるが字は書けん。まぁ…書けなくても読めれば、魔法書や剣術書を覚えるのに差し障りはない。ちなみに、読んだり誰かに教えてもらうだけで、自動的にスキルがマスターできるらしい。まったく嫌味な能力だよ。体力、筋力も少し鍛えれば、アスリート並みに簡単になれる。とまぁ…基本的な能力はこんな感じだ」

確かに、なんつー無茶振りな設定である。でも、生存率を上げるにはこのくらいのズルはしかたない気がする。自分が生まれた世界以外で命をはらされるんだから、多少は多めにみてもらいたい。

「次はお前の職業だが、苦情は受け付けん三択だ。重剣士、剣士、双剣士から選べ」

レインさんはそう言うと手を水平に移動させた。すると目の前に三本の剣が空中に出現した。どういう仕掛けなのか非常に気になるが、一先ず置いておくとして、さて、選べと言われても、困る話である。むしろ、後方支援という選択肢はないのだろうか。いや、そもそも、選択肢が剣士のみって生存率を上げる気があるのかないのか。

そんなことをつらつらと考えていると、レインさんに頭を思いっきりぶん殴られた。早くしろということらしい。

うむ。でも、困った。きっと後で変更なんてできないだろうし、下手に向いてないのを選んだら首を締めるのは自分に他ならない。ここは恰好とか気にせず、慎重に行こう。

「触れますか?」

レインさんに聞くと頷く。

先ずは、重剣…刃の部分の長さは、女の時の自分の背丈160より少し小さいくらいざっと…150弱くらい、剣幅は食パンくらいの幅だった。ファンタジーと同じなら、重さを活かした戦い方をする剣だ。私が剣の柄に触れた瞬間、一気に重力がかかった。そして、剣の重さにたえきれず「ぬぅおっ‼」剣先が落下しそうになった瞬間。

「床を傷つけたら、シメル…」

持てる力を振り絞って耐える。しかし、あまりの重さに身体がふらつく。

必死にふるふるして耐えている私に、レインさんは何とも言えない表情を向けた。

「軟弱な」

次に渡されたのは、一般的なヤツだ。コレは残念な事に長時間持てる気がしない。疲れる。

「貴様はそれでも男か?何だそのヘッピリ腰は⁈シャンとせい!」

一喝されたが、しかたがない。どうやら、男であるはずの今の私の基礎体力は一般女性と大差ないくらいだろう。あの神代理もいらんものを追加せず、こういう基本的なパラメーター部分を強化してくれればいいものを…。

でも、これだけ体力関係が低いとなると、今後を考え、安心できるレベルまで多少は鍛えねばなるまい。

最後は双剣…重さも、小回りも何とかなりそうだが、リーチが短かいので、接近戦では不利、でもまぁ、直接戦わなくても、敏捷性を上げて奇襲攻撃と魔法を駆使して、動けば逃げるには支障ないだろう。それに、今までの中では、そこそこ見栄えもする気がする。しかし

「何持っても残念だな」

私はむっとした顔でレインさんを睨み、

「……そんなことを言っても、しょうがないじゃないですか!!もともと、お……むおぉ‼」

私が女だと言おうと口を開いた瞬間、何かが口に突っ込んできた。

私はビックリして口に入ったものを慌てて吐き出す。そこにはつぶらな瞳をうるうるさせているキツネの分身。

「言うなと?」

こくこくとものすごく必死に頷いている。

自分とこの神様がこんな凡ミスしてるなんて、さすがに言い触らされたくはないのだろう。

まぁ…あれか。神代理を脅迫するにいいネタでもある。ここで下手にバラすよりも、今後のためにも有効に使わねばなるまい。

「よし、わかった。言わないどいてあげよう」

そういうと、キツネはキューと鳴いた。胸が高鳴るほどの愛らしさ。私はキツネを持ったままふるふるとしていると、突然肩を叩かれた。驚いて振り返ると、そこには、憐れみの表情を私に向けているレインさんの姿があった。

「お前頭でもいかれたか?」

あー…うん。まぁ…そうですよね。そりゃ、普通に考えれば、動物に話し掛けてりゃ心配もしましょうよ。今度からは話しかけるタイミングは気をつけよう。

「いや…可愛いかったんでつい…ははは…ところで、わ…じゃなくて、俺これからどうすればいいんですか?」

「城から迎えが来るはずだけど、そういえばまだこないな。三人目だしなぁ」

なんともやる気なさそうにそう言うと、レインさんは私から視線を外し、私の後方を見た。釣られるように振り返ると、そこには、両開きの重厚な作りの大きな扉があった。

私は、なんとなくその後の視線の持って行き場に困り、今更だが、四方に視線を向けた。私が倒れていたここは、かなり広い空間で、パルテノン神殿みたいな大きく太い柱が規則正しく連立し、私の目の前、レインさんの真後ろにはローブ姿の聖母マリア像のようなものがある。さらに、その女神の後ろには、巨大な光の加減で色が変化する不思議なガラスがはめ込まれた窓のようなものがあった。その光はこの室内を明るく照らしながらも、キラキラと色を変化させながら幻想的に作り上げていた。

多分、雰囲気的にここはきっと礼拝堂みたいな場所なのだろう。

「あれは神様ですか?」

私がレインさんの後ろを指差すと、レインさんも視線を向け

「あぁ、水の女神アマリンだ。この世界には地、水、火、風とそれを束ねる主神である光と闇の二つを司る神がいる。お前を召還したのが、光と闇の神オルシュファだ」

ほう…それが、諸悪の権現の上司の名前か。しかし、光と闇が同じ神とは変わった世界である。

「この世界の詳しい説明は、王都ルーヴィルで聞けるだろうが、暇だし少し雑談代わりに話してやろう。この世界は五つの大陸があり、そのうち、四大陸は地、水、火、風のそれぞれの女神が庇護している。ただし、中央の大陸だけが、どこの女神の庇護も受けていない中立大陸となっていて、別名スカイホールとも呼ばれるが…まぁ…行きゃその名前の意味もわかるだろう。ちなみに、ここは水の大陸な。で、お前らの最終目的地ってか魔王のいるところだが、不可視の大陸と呼ばれる伝説上の隠された第六大陸になる」

つまり、そこがラスボスステージとなるわけか。聞いているだけでも、これが一筋縄ではいかないのはわかる。そこにたどり着くためにも様々なイベントがきっと目白押し。

私が難しい顔で唸っていると、真後ろの扉がすごい音を立てて開いた。どうやら、城からのお迎えが来たようであるが、この世界の住人はなんとも騒々しい。私は振り返り、その人物を見た。まぶしい光をバックにしたその人物はこちらに向かって歩を進めながら、朗らかな声で

「待たせたわね!」

と元気よく告げた。声からすると若い女性だろう。だんだん光に目が慣れてくると、こちらに向かって進む人物の姿が見えてきた。赤を基調とした中世ヨーロッパを思わせる絢爛豪華なドレスを身に纏い、知的で気の強そうな紅茶色の瞳はキラキラと輝き、栗色の長い髪は歩くたびに揺れ、愛らしさも感じる。一言でいうなれば、その姿は可憐。同い年くらいの驚くほどの美少女は、私の目の前に立つと、腰に手を当て顔を思いっきり近づけてきた。

身長は男の姿の私の頭一つ下くらい。なるほど、これが世にいう上目使いドッキュン!なんだろうな。

「ふ~ん…最後の人ってあなたなのね?」

「はぁ…」

私は少し身を引きながら、答える。何ともいい匂いが鼻孔を擽り、頬が熱くなってくる。

「女の子みたいな顔ね?」

ふふふっと首を傾げる姿は、くらっときてしまうくらい可愛い……ふわぁ!!いやいや、そういう問題ではない!!私は女!彼女も女!私にはちーちゃん!!よしっ!私は心の中で気合いを入れる。そんな挙動不審な行動を怒っていると勘違いしたらしく

「どうしたの?あっ!ごめんなさ失礼………だったわっよっね!!」

頬を染め恥じらう姿を想像していた私の目に飛び込んできたのは、ふわりと跳ね上がるスカートの中身。均整のとれたカモシカのような足。そして、目に眩しい白磁器のような太ももには真紅のガーター…しかし、そのガーターには…少女はガーターに、装備されていたレイピアを素早い動きで引き抜いた。

私は、その一連の動作を目で追いながら、上体を思いっきり反らす。すると、私の鼻先ギリギリを剣先がかすめる。しかし、勢いを付けすぎたせいで体は真後ろにひっくり返るように倒れ、ホッとする間もなく頭部に強い衝撃と痛みがわが身を襲う。

痛みに身悶える私に、先ほどの可憐な姿はどこへやら、少女は凛々しくも厳しい瞳を私に向け、さらにその手に持つレイピアは私の眉間をぴたりと狙う。

「最後の一人に賭けていたけど、彼らではきっと妹を・・・この世界の人々を救えるわけがないわ」

少女は厳しい目を私に向けたまま、レイピアを鞘に収めた。



次回「3(仮)勇者に就任となりました。」


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