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第4話

 

 翌日、プンップンにむくれたナファフィステアは、王宮を飛び出し、ハイドヴァン邸を訪れた。

 飛び出すといっても、ユーロウスに今日の予定を調整させ、官吏や騎士達も引き連れての大移動であった。


「酷いと思わない、ジェイナス? 陛下ったら、一緒に寝たくないっていうのに、無理やり私の寝室に居座るのよ!」


 ジェイナス相手に愚痴っていた。

 ハイドヴァン邸の家人達は、前触れもない突然の妃来襲に大わらわであった。

 特にハイドヴァン邸の執事は、大の大人が殿下相手に何を血迷い事をほざいているんだ、とナファフィステアを睨みつけていた。

 その存在を消すことに長けた執事の睨みは、残念ながらナファフィステアに届くことはなかった。

 この執事、後々まで妃を厄災女と信じ続けた。ジェイナスが大人になり、想い人が災厄女のところへ出仕することになった時には彼女を災厄から救出すべく陛下へある事ない事大袈裟な情報をチクり、殿下の想い人をハイドヴァン邸へ取り戻す働きをすることになる。それはまた、十数年後の話である。


「でも義姉上、兄上も義姉上と一緒に眠りたかっただけなのですから」


 ジェイナスの言葉に、羨ましそうな響きを感じ取った。

 あぁ、ずっと独りなのか、この子は。


「じゃあ、今度、一緒に寝る?」


 ガシャガシャッ。

 振り向くと、お茶を入れていた家人が茶器を壊していた。

 彼女は慌てて「申しわけございません」とバタバタと片付けにかかる。


「ナファフィステア妃、殿下は立派な男性ですから、そのような発言は不適切かと思われます」


 いつも冷静な侍女リリアの声である。

 男性ったって、まだ子供でしょうよ、ジェイナスは。

 と思ったけど、言われた本人も、少々頬を染め俯いてしまった。

 子供と言えど男性なわけだ。

 これは、男のプライドにも関わりそうなので、余計な言葉でからかうのは止めておこう。


 と、にわかに表が騒がしくなる。

 そして、しばらく後には、ドカドカと無表情な陛下が私とジェイナスのいる居間へ登場した。

 大人と言えど子供な男性が。

 私を睨み付けてくる。

 なによ。ふんっ。


「ジェイナス、みだりに他人の妻と二人っきりになるものではない」


 もっともらしいことを口にしている。

 真っ先にジェイナスを攻撃するってどういうこと?

 言われたジェイナスは、唇を噛んでいる。


「わたしの不徳の致すところ、誠に申し訳ありませんでした。陛下」

「ジェイナスに嫌味を言うのやめてくれる? 直接私に言ってほしいわね。みだりに独身男性と二人っきりになるものではないって」


 ムカつく、陛下。

 偉そうに、何様? あぁ、国王だったわ。


「よくわかっているではないか」


 陛下と睨み合いが続く。

 あぁ腹が立つったら。

 大体、私がここに愚痴を言いに来たのは誰のせいだと思っているのか。

 ふんっ。

 ここからテコでも動くもんですか。

 足を踏ん張ってみたものの。


「義姉上」


 心配そうに私をみつめるジェイナス。

 自分も八つ当たり被害を受けたっていうのに、陛下に睨まれている私を心配してくれているらしい。

 なんて可愛いいのかしら、弟よっ。


「心配しなくても大丈夫よ、ジェイナス」


 そう声をかけるのとほぼ同時に、陛下の肩に荷物のように担ぎ上げられた。

 うあっ、視界が、いや身体が大きく揺れる。

 そして地面が遥かに遠く、高っ。

 頭が下になって、怖い。腕と首を使って陛下の背中から必死で頭を上げ、ジェイナスを見る。


「ジェイナスぅ、心配しないでねぇ」


 連れ去られる私を見えなくなるまで心配そうにジェイナスは見送ってくれたのだった。




 帰りは馬車でなく陛下の馬に乗せられた。馬に横座り乗りの恐ろしいことったら。

 不安定で、お尻が飛び跳ねる度に陛下にしがみつかなければならなかった。

 無口なまま陛下は私を王宮の陛下の自室に連れて行き、部屋に放り投げるように降ろされ怒鳴られた。


「勝手に出歩くなっ」


 本気で怒っているらしい。その怒鳴り声に思わずビクッとしてしまった。

 背筋に悪寒が走るほど怖い顔で、睨まれる。

 なんでこの人はこんなに怒っているわけ?

 ちょっとジェイナスのところへ行って愚痴ってただけだというのに。

 護衛だってちゃんと連れて出たし。


「どこへ、行くつもりだった」

「ジェイナスのとこよ」


 何を言ってるのか。ジェイナスのとこにいたでしょうが。

 急な外出とはいえ、ユーロウスにも伝えているのだから、陛下にも伝わっているはずだ。

 だから、ハイドヴァン邸へ来たのだろうし。


「その後、どうするつもりだった」

「ジェイナスのとこに泊まるつもりだった」


 何故か陛下は脱力している。

 その脱力にどんな意味が込められているのか、まるで分らなかった。


「陛下、お仕事があるんじゃないの?」


 王様業はいつも忙しい。だから、そう声をかけてみた。

 昼日中こんなところで、ぐったりと、この人、何をやっているのだろう。

 私はちゃんと、今朝、予定を調整しているし、その内容もいくらでも融通のきく仕事ばかりなのだから、急な外出が影響するとは思えない。だが、陛下はそうはいかないはずだ。

 しかし、ほんっとに憎々しげに私を見る陛下。歯軋りしそうなくらい歯を食いしばって私を見ている風で。

 陛下は振り切るように踵を翻し、部屋から出て行った。

 私をこの部屋から一歩も出すなと、入り口の警護騎士達に命じて。



 陛下の部屋で所在無げに過ごしていると、侍女のリリアとユーロウスが入ってきた。

 リリアはお出かけ用になっていた私の鬘をかぶった頭を整えてくれる。

 その横で恨めしそうに私をみるユーロウス。

 どうやら、陛下の低気圧のとばっちりをくらってしまったようだ。


「一体どうして陛下はあんなに怒っているの?」


 ユーロウスに尋ねた。

 なぜわからないんだ?と彼は眼差しで訴えてきた。

 ズイィッと恨めしそうな顔がアップになってく。結構怖い顔だ。半目で、俗にいう死んだ目ってやつで。


「ナファフィステア妃がいらっしゃらないと知った陛下は、本当に恐ろしかったのです」


 も、申し訳なかったわ。

 本当に、今のあなたも十分怖い。


「こんなものではありませんよ。生きた心地がしませんでした。今生きているのが不思議です」


 声がいっちゃってる。虚ろに視線を彷徨わせて。

 ほほほっ。

 ごめんなさい、いや、ほんと、申し訳なかったわ。


 絶対にナファフィステアはわかっていない、部屋にいる女官達や官吏そして騎士達は思った。

 陛下の怒りを前にして、呑気なナファフィステアのその様子に反省の色は全く見られず。

 各々がそれなりの被害を受けており、みな、ユーロウスには同情しきりだった。



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