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第1話

 

 らんたった~らんらん~ぱん、らんたった~らんらん~ぱん。

 リズムを口で表現しながらダンス教師のパルデニ氏が目を光らせている。


「ナファフィステア妃、足元がふらついてらっしゃいますよ。もっと、しっかり姿勢を保って!」


 簡単に言ってくれるものだ。

 こっちは、40cm近くも背が高い男相手に、背中を反らせているし、腕は上げてるし、第一に歩幅が違うのよっ。

 そう思いながらも、顔は作り笑顔を張り付けたまま、足を踏ん張る。ふんっ。

 あ、間違えた。


「うっ」


 相手の男性の爪先を踏んでしまったらしい。体重かかっていたんじゃないかと思う。すぐ退いたけど。

 これで何度目のことか。

 ひたすら視線を逸らして口端を笑顔になるよう引き上げ固定してるけど、きっと内心では罵詈雑言を浴びせているはず。私に。

 この男性、明日は来ないな。このままでは彼の足先骨折は、そう遠くない未来に現実となりそうだから。


 パンッパンッ。


「はいっ、今日はここまでにしましょう」


 パルデニ氏が手を叩きながら、終了を宣言する。彼は、私の相手を務めた男性に笑顔で、

「お疲れ様。貴方はとっても素晴らしかった。あんな下手の相手をさせてしまってご免なさい」

 と言葉をかけている。さり気なく、肩に手をおいて。


 やっと終った。

 この苦行、なんとかならないものだろうか。

 あのおネェ先生、まだ男性に擦り寄ってる。あぁいうタイプが好きなのよね、先生。


「お疲れ様」


 私は男性に声をかけ、侍女に視線を移す。

 侍女は心得たもので、ドアを開け男性の退出を促した。男性は礼をして部屋を立ち去る。

 きっと彼も私が声をかけてホッとしたはず。でないと、おネェ先生はいつまでもベタベタと彼に触れながら、会話を続けようとするんだから。


「先生、背の低い男性を練習相手にしてちょうだい」

「陛下はあのくらいの体格でいらっしゃいます」


 小馬鹿にするような目で先生が私を見た。まぁ、この先生は女性全般をこんな風に見下してるんだけど。

 この変なおネェ先生、ダンスセンスは超一流らしい。

 他の貴族の人達のような陰湿さではないから、楽ではある。

 こちらの機嫌を伺ったりもしないし、嫌味な視線も種類が全く違うから。


「最初ステップを覚えるときくらい、あんなデカい男性相手でなくったっていいでしょ?」

「貴女に合わせた背の低い男性など見つかりません」


 えぇえぇ、そうでしょうとも。

 先生の好みは、背の高いガッシリとした骨太な男性だから。


「陛下の弟のジェイナス君はどう?」


 その言葉に先生が驚いた顔で、あんたバカ?とでも言いたそうに見てくる。


「殿下は大事な王位継承権第一位の方よ? あんたのようなガサツな女の相手なんかさせるわけないでしょ?」


 いやにハッキリ言うわね、先生。本音が口に出てるわよ、ガサツな女って。

 仮にも妃なんだけど。


「陛下に頼んでみるわ。たしか、十歳くらいだから、殿下もダンスの練習が必要でしょ」


 先生は、嫌そうな顔をしている。

 まだ私が他の妃達を破滅に追いやったとか、行儀作法も知らない野蛮な女だとかいう認識が貴族達の間に蔓延っているのだ。貴族である殿下側が承諾するとは思えない、といったところか。

 だからといって、陛下の弟と仲良くしないってのはどうなの?

 だいたい陛下はご両親もいないし、兄弟仲良くするなら、私もちょっとくらい交ぜてもらってもよくない?

 陛下の従兄弟は可愛くなかったから、仲良くしなくていいけど。

 陛下と殿下の許可があるなら、と渋々承諾してパルデニおネェ先生は引き上げていった。



 早速、陛下へ手紙を書いた。殿下にダンス練習の相手をして欲しいので許可して下さい、と。

 直接言わなかったのは、寝室で陛下に言うとおねだりするみたいで嫌だったのと、手紙なら証拠も残せるし、陛下以外の者が確認のため目を通すだろうと思ったからだった。


 夜、私の部屋へ陛下がやって来た。

 ここのところ毎日のことだけど。


「ジェイナスには伝えた。明日から来る」


 おい、そんなに急に事を進めるなんて。相手に対して配慮のない人だ。

 そんなことを思っていると、顔に出ていたのだろう。


「どうした。そなたが望んだのではないか」


 訝しげに陛下が問うてきた。

 陛下は、私が喜ばないことにガッカリしたようだった。

 陛下の態度がそうだったわけではない。なんというか、声の勢いや目を伏せた様子から、なんとなく、そうかなと。


「もちろん私はそうしたかったんだけど、殿下の方は嫌がってなかった? 私の評判、貴族達には良くないから」


 無理やり引き受けさせたりしてないのか、と心配になり尋ねた。

 陛下がガウンを脱ぎベッドへやってくる。


「ジェイナスは王宮を出てハイドヴァン邸に住んでいるが、母のハイドヴィラル前側妃は殆どを王都から遠く離れた領地に引きこもっている。だから、独りで寂しい暮らしなのだ。できるだけ、王宮に呼ぶようにはしているのだがな」


 そんな事情があったとは。こういうことは、前もってユーロウスに聞いておくことにしよう。


「そう。なら、よかった。ジェイナス君には『お姉さん』と呼んでもらうわ。かわいい弟が欲しかったのよね」


 すっかり姉弟に想像を膨らませワクワクしていると。

 陛下がベッドの上に座っているわたしの腰に腕を回し、耳を軽く囓る。

 いつの間にか陛下は私のすぐ側にいて、その両手先は悪戯に私のあちこちを擽っている。

 連日は勘弁しようよ、と思ったけれど。

 どうやらご褒美の催促らしい。

 まぁいいでしょう、今はとっても上機嫌だから。

 私は陛下の首に腕を回し、微笑みかける。問いかけるような視線を投げ。

 勿論、陛下はそれを了解とばかりに、私をベッドに沈めた。

 そして嵐のような興奮の渦の中へ連れていった。翻弄され疲れ果てその渦から抜け出ようとするのに、陛下はそれを許さなかった。



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