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空地川サビ子の正体

「大問題だよ! なんてことをしてくれたんですか!」


 サビ子は思わず立ち上がり、青のりを飛ばしながらゲドードス大王を怒鳴りつけた。


「ん? お前視聴者数が欲しいって言ってただろ?」


 やや不満げにゲドードスはサビ子へ言う。


「見ろ。『ピカリライブ』のお前のチャンネルも登録者数が一万人を超えたぞ。二時間前までは八人しかいなかったのにな」


 ゲドードスもまた、自身のマジカルスキスキステッキスマートフォンを持っていることに突っ込む気がしない。やはり注目は、『魔法少女二十九号の行進曲チャンネル』の登録者数であった。


「アハト・カノンの時ですら見たことがない数字……」


「よかったな。この調子ならパールの盾だってもらえるぞ。これでおれも鼻が高い……いや、まあ、お前の注目のために保護されてたのに何の役にも立たないのはさすがに寝覚めが悪いからな! これは一応の恩返しだ! 人間に借りを作るなんてありえないからな!」


「なんで急に萌えキャラみたいなこといってんのこいつ」虚を突かれてサビ子はそう口走るが、慌てて首を振って考えを吹き飛ばす。


「違う! こんなのわたしは望んでない!」


「わかんねえな。次の配信では視聴者数百人は固いだろ? 寧ろ、千人越えも夢じゃない。それの何が悪い」


「わたしは、こういう風に注目されたかったんじゃなくて……」


 サビ子の脳裏に、十二年前の記憶が過る。


『聞いてください。視聴者数をもう、維持できません……わたし、アハト・カノンの配信は、今日をもって』


『終了』


『します』


 視聴者数『29』


『でも、魔法少女の活動は続けます! だって、みんなのことを応援するのがわたしだから! どうかな、これから〈アハト・カノン〉は維持できないけど、いわゆる地下魔法少女っていうやつ? になるし、これからはちょっとオトナな見た目になっちゃうけど、かっこいいでしょ?』


 しかし、次の日も待たず視聴者数はあっさり二桁を割り、ついに誰も見なくなった。現在、〈魔法少女二十九号〉になった空地川サビ子の平均視聴者数は四である。


「おい、どうした。何か言え」大王が眉を顰める。対して、サビ子はあることに気づいた。


 この一万人の登録者だって、一か月と経たないうちに消えるだろう。それを考えると、不思議と気が凪いでいく。そうして、サビ子はある重要なことを理解した。


「……そっか、わたし」


 ――裏切られるのが怖いんだ。


 もちろん、裏切られる、というのは間違いだとわかっている。だが、昨日まで自分を慕っていたはずの人たちが、あっさりと離れることを、なんと形容すればいいのか。


「わたしは、魔法少女になりたいんじゃない。ずっととりあえず死なないで、ぎりぎり生きていけるだけの、地下魔法少女でいるのが心地いいんだ」


 本当は自衛官の男ぐらい殴り殺せる自信があって、贅沢をしないで暮らすぐらいには生活が維持できる。時々、地下魔法少女を舐め腐っている下級怪人をストレス解消代わりに吹き飛ばせる。


「わたしはそれが好きなんだ」


 気付けば膝をついていた空地川サビ子は、ローテーブルの上、炭水化物たっぷりの料理へからからに乾いた視線を落とした。


「だから、大王なんて、最初からどうでもよかったんだ」


「あ? お前なんつった?」


 ゲドードスが唸りを上げる。だが、それを無視してサビ子はそのローテーブルをひっくり返そうとして、やっぱりできないので不本意ながらその料理をぺろりと最後まで平らげると、不遜にも洗っておいて、と命令してお茶を一息に飲んだ。


「おい、なんなんだよ。おれはゲドードスだぞ」


「知るか。とりあえず、いろいろありがとう。あのまま放置されてたら配信が解けて死んでたかもしれないし。でも、しばらくは配信しない。一か月ぐらいは。それくらいしたら、みんな忘れてるでしょ。あんたのことももういい。早く家に帰りなよ」


 じっと見下ろすSNSに躍る文字は、予想通りのものばかり。


『なんなの二十九号って』

『知らん奴のくせに急に出しゃばって』

『強いくせに今まで実力隠してたってこと?』

『急にスペチャって何?』


「おい、どういうことだ。おれは、折角お前のことを応援したかったのに……」


 ぱちん。


 ゲドードスが何かを言い切る前に、サビ子は電灯を消し、煎餅布団の中に潜り込んだ。


「……わたしは、最低な魔法少女だったんだ」


 サビ子は布団の中で小さく丸まり、そう呟いた。たまには訓練をさぼったっていい。一応、貯金はある。一か月、最低限の食事を維持できるはず。それで、みんながこのことを忘れればいい。


 そんなことを考えながら眠りにつく。


 一方のゲドードスは、自分の手元にあるマジカルスキスキステッキスマートフォンを見つめ、〈魔法少女二十九号〉と自分が巻き起こした騒乱を見つめていた。


 そう、この出来事は、人間や魔法少女達の間だけの出来事ではないのだ。


 そのことを空地川サビ子が痛感するのは、十二時間後の出来事である。


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