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魔法少女二十九号

「想定より風が強くなってる。遠くに飛ばされてないといいけど」


 自然と顔が険しくなる――のを慌てて〈魔法少女二十九号〉は直す。


「でも大丈夫! わたしね、探し物は得意なんだ! だから絶対、ねみちゃんのお友達を見つけるからね!」


 地上、十メートルほど。〈アンダーグラウンド〉狛江のひときわ高い瓦礫の上で、〈魔法少女二十九号〉は明るく声を張る。


 手元の地図で、ぬいぐるみがなくなったと思われる場所を再確認。だが視界は最悪で、警報級の砂嵐の接近が彼女の計画を根本から圧し折っていた。


 視聴者数『0』


 砂嵐到着まで、八分。


 〈二十九号〉は瞬時に一つの決断をした。


「ラッキー双眼鏡! アドバンス!」


 なけなしの、アーカイブ配信や暇な時間に作った切り抜き動画の再生数二回を消費して双眼鏡を生成する。過去のほとんどの再生数は、大王の拘束に使ったため残っていなかった。


(『この後』のことを考えると、本当は二回だって使いたくはなかったけど……)


 〈二十九号〉の脳裏にあるのは、会ったことも無ければ、見たことも無い六歳の女の子の姿だった。


 ――バカバカしい。ぬいぐるみ一つぐらい、また買えばいい。形見がなんだ、そのうち忘れる。


 だが、それでも〈二十九号〉はラッキー双眼鏡を生成したことに後悔はない。視聴者数の数が、依頼人の関心のなさを示していても。


 武骨な双眼鏡を覗き、風に吹かれたことを考慮してぬいぐるみが移動した場所を推測する。悲しいことに、〈魔法少女二十九号〉は狛江の失せもの探しが得意になっていた。


「あった!」


 依頼文の詳細にあった、ピンクの牛のぬいぐるみ。珍しいモチーフ故、間違いないはずだ。


 残骸の山から飛び降りると、華麗な前転で衝撃を殺す。カーキのマントを揺らしながら走り、跳び、ぬいぐるみの前に立つ。元は閑静な戸建てが並ぶ場所だったのだろう。そんな場所の十字路にそれはあった。


「じゃーん! ねみちゃん、ちゃんと見つけたよ!」


 スマートフォンの画面に砂で汚れたぬいぐるみを映すと、軽く振って挨拶しているように見せる。


「さて! マジカルキレイキレイシャワー!」


 それは、シャワーヘッドだけなのに液体をじゃばじゃばと吹く不思議な魔法。各種動画の視聴者数三回に相当する――これで、〈二十九号〉の魔法のストックは切れた。


「じゃあ、きれいにして連れて帰るから、ちょっと待っててね!」


 風を背にしてぬいぐるみを守ると、シャワーで砂だらけで変色したぬいぐるみを洗浄する。魔法のアルコールを含む特殊な洗浄液で見事なピンク色を取り戻したそれは、少しも待たずに乾燥した。それを〈二十九号〉は清潔なボンサックへしまい込む。


「ではこれから帰りまーす! これからすこーし寄り道するけど、必ず自衛隊の人に預けておくから、元気になったらお迎えに来てね!」


 あくまで元気に手を振って〈二十九号〉は帰途につく。


(これで大王に対する魔法はなくなったけど、リアルタイム配信の視聴者数がちゃんと確保できれば問題ない。確かにもし今のわたしが下級怪人に遭遇したら、それだけで詰むんだけど……)


「ゲーッゲッゲッゲッ! こんなところに魔法少女がいるドゲス!」


「うそやん……」


 〈二十九号〉は配信しっぱなしであることを忘れ、可愛さゼロでそう口走った。十字路の向こう、そこに双眼レンズを装着したマスクを被った、全身タイツ風の奇怪な人型が立っている――見紛うことなき、ゲドードスの配下、怪人の中でも能力が低く見た目すら誰も彼もが一緒の下級怪人である。普段は群れで行動し、中級怪人の指示で悪事を働くのだ。


 だが、能力が低いと言っても地下魔法少女を凌駕している。多少の誤差はあるが、常に十名ほどの視聴者がいる程度の強さである。


 〈二十九号〉は冷静に周囲を確認する――おかしい、普段なら十体以上で集団行動するはずの下級怪人なのに、こいつはどうやら一人だ。


(もしかしたら、はぐれているだけかもしれない。だとしたら戦闘は避けられる!)


「一人か? 一人だよな! ちょうどいいドゲス! お前は、この下級怪人〈コゼーニ〉様のお給料の糧になるドゲス! 正々堂々一騎打ちで戦うドゲス!」


(終わった……)


 〈二十九号〉の淡い希望は儚く打ち破られた。どうやらこの下級怪人〈コゼーニ〉はやる気らしい。なのに、動画再生回数のストックもない。


 こうなれば、〈魔法少女二十九号〉が頼れるのはたった一つ!


 ――視聴者数『3』


(来た! これならやれる!)


「よーし! ゲドードスの悪事は、わたしが許さないんだから!」


 そういうが早いか、マジカルスキスキステッキスマートフォン(自撮りモード)を衣装の背中に固定しつつ、ホルスターから拳銃二丁を引き抜いた。グロックとデザートイーグルの銃口が怪人を狙う。


(先手必勝! 地下魔法少女と侮っているうちが勝機!)


「絶対命中! 追いかけて! ハウンドバレット!」同時、グロックから三発の銃声。


 ところが、彼女の声が発される前に下級怪人〈コゼーニ〉は移動していた。常人では目で追うことも困難な速度。だが。


「ぬおっ!」


 怪人はバランスを崩して砂だらけのアスファルトの上に転んだ。その腿に、三つの弾痕がある。


「嘘ドゲス……地下魔法少女の癖に、こんな魔法を……」


「そして、これがわたしの本気! 破壊のストライカーバレット!」


 左手に握ったデザートイーグルが炸裂する。男でもその反動の制御に苦労する拳銃だが、魔法少女であれば問題ない。


 〈コゼーニ〉の胸を、確かにその弾丸が貫いた。


「どうだ! これがわたし、〈魔法少女二十九号〉の実力だよ!」


 下級怪人に銃弾四つを浴びせてご満悦。だが、その表情はあっという間に凍り付く羽目になる。


「……これが、お前の魔法の全力か?」


 地の底から這い寄るような声。一瞬、それが〈コゼーニ〉から発せられたことすら気付かない。


「うざってえ。だとしたら、お前はもう終わりだよ」


「う、そ……」


 〈魔法少女二十九号〉の顔が一瞬で真っ青に変わる。勝利を確信した笑顔など、あっという間に吹き飛んでいた。


「おれを舐め腐ったこと、後悔させてやる!」すでに、腿と胸の傷は癒えていた。下級怪人はしゅらりと立ち上がると、短剣を構えて勢いよく駆けだした。対して、〈二十九号〉は腰を抜かして後ろに倒れる。もう、彼女には打つ手がない!


「来ないで!」


 しいて言うなら、マントを外して投げつけるのみ。


「邪魔だ!」


 しかし、そのマントすら一瞬で切り裂かれる。そして、その向こうに怯え切った表情の地下魔法少女が――


「消えただと?」


 眼前の砂色の中に、〈魔法少女二十九号〉の姿がない! ――否、すぐに怪人はその中に人影を再び見出した。カーキやオリーブドラブの衣装をまとっていた〈二十九号〉の姿は今、コヨーテブラウンに統一され、砂の中に溶け込んでいたのだ!


 その混乱、零点三秒。


 だが、それで十分だった。打つ手が無ければ作ればいい。射撃場で鍛えられた〈二十九号〉は、装弾の魔法すら惜しんで視聴者数三人分の武器の引き金を引く。その武器の名は!


 ――マジカルウィンチェスターM1885


 〈二十九号〉が生成したこれは、全長一メートル以上、重さ四キロの鉄の筒である。信頼性の高いシンプルな構造。単発式のライフル銃。それ以外は何もいらない。


 装填した銃弾は.45-70ガバメント弾のマジカルコピー品。一センチ以上の直径を持つ怪物。その尻に五グラムの黒色魔法火薬を詰めた。そう、これを作るために、先の二丁の拳銃で〈二十九号〉は魔法を一切使っていない。すべては十二年間鍛え続けた銃の腕前がなせる業。それを魔法と勘違いしてしまった時点で下級怪人の命運は決まっていた。


「フォイア!」


 撃鉄が雷管を叩く。魔法火薬は爆発だけを残して、マジカル弾頭を飛ばす。マジカル弾頭は一メートルの筒の中を瞬く間に滑った。そしてライフリングで回転を与えられ、たった二メートル目の前のゲドードス下級怪人コゼーニの首元で炸裂した。


 ばん!


 肉片が飛び散るも、ほとんどは一センチ未満の微小なもの。そして、残った死骸は首と胸を抉られ、薄く残った肩口から先がプラプラと揺らす。頭は、衝撃で吹き飛んで背中側の遥か後方、コンクリート壁に打ち付けられていた。首を断ち、胸を破壊する――理想的な怪人の殺害であった。


「や、やった……!」肩で息をしつつ、〈二十九号〉は声を漏らした。


「どうだ! すごいでしょ!」


 額の汗をぬぐいながら、背中に固定したスマートフォンへ笑いかける。


『0』


(渋すぎたか)


 〈二十九号〉は反省した。


(まあいっか。ぬいぐるみは守れたし)


 それに、目の前にお宝もある。


「じゃあ、ついでにトゥルーストーンも持って帰るね!」


 砂嵐到着まで時間がない。急いで死体に駆け寄ろうとした、その時である。


「ちょっと、ワリコミはよくないですよ!」


 目の前に、人影が立つ。あまりの違和感のなさに平然と文句を口にした後、遅れて〈二十九号〉はぶるぶると震えだした。何が起きたのかを、正確に理解したのだ。


「それは失礼した。だが、誰にものを言っているのか、わかっているんだろうな? 地下魔法少女」


 そういって振り向くのは、全身を分厚い甲殻で覆った雄々しき体格の、見るからに中級以上を示すゲドードス怪人であった。

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