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魔砲革命アハト・カノン

 今も昔も変わらない、侵略帝国ゲドードスと人類の緩衝地帯〈アンダーグラウンド〉狛江。


 その曖昧な境界の上を、一人の魔法少女の声援が駆け抜けていた時代がある。


「エールを込めて、想いを放つ!」


「〈魔砲革命アハト・カノン〉!」


「アドバンス!」


 ピンクの学ラン姿の、まるで応援団のような姿の少女。十歳程度の彼女の右手には、喇叭型の砲口が八つもついた特徴的な銃器〈ポンポンメガホン〉があった。その引き金を引きながら、〈アハト・カノン〉は瓦礫の上を駆け抜ける。


「狛江絶対防空域は、わたしが守る! フレー! フレー! こ、ま、え!」


 喇叭型の銃器から放たれるのは、応援に付きものの『ポンポン』であった。連射されるそれが、調布の夜空に線を描く。


「応援団だったら応援をしろ! 撃つなよ! コンセプトがおかしいだろ!」


 対して、夜天を飛び回るカラス型の怪人=〈ゴミマ・ゼール〉はそれらをぎりぎりの角度で交わしながら怒声を口にする。このエリアには〈ゴミマ〉と〈アハト・カノン〉以外の影はなかった。


「それが、わたしの革命なの!」


 〈魔砲革命アハト・カノン〉は叫び返した。


「夜の戦闘なんて、暗くて何やってるかわからないし、配信映えしないし、誰も見てなんてくれない!」

「だけど、それがわたしの戦わない理由にはならない!」

「わたしがこの戦線を応援する! 援護する! 支援する! この空は、わたしが守る!」


 そう声を張りながら、〈アハト・カノン〉は、左手に握るマジカルスキスキステッキスマートフォン(自撮りモード)の画面を確認する。


 視聴者数『701』……否!


『688』

『683』

『671』

『665』


(まずい! 今のセリフは全然可愛くなかった!)


 〈アハト・カノン〉は顔を歪めた。これ以上、視聴者数を維持できない。リスクはあるが、大技でこの夜空ごと怪人を排するしかないだろう。


「ええい! フレッフレッわたし! 俯くみんなの顔だって、わたしの声が晴らしてあげる!」


『536』

『470』

『399』


 視聴者数の減少は止まらない!


「ファ、ファイナル・ファンファーレ!」焦りに押されるように、〈アハト・カノン〉はその必殺技の名前を叫んだ。


「アハト・アハト・シュトゥルム・カノーネ!」


 〈魔砲革命アハト・カノン〉の足元を砕き、大地から巨大な砲塔が顔を出す。口径、八点八センチメートルの高射砲型魔法兵器! 〈アハト・カノン〉の二倍ほどの高さを持つその台座の根元には、大鼓が備わっている。


「フォイア!」


 〈魔砲革命アハト・カノン〉は、〈ポンポンメガホン〉の代わりに大きな撥で、大鼓を叩く――!


 ぽーん!


 ――どこか間の抜けた呼び出し音。


「〈魔法少女二十九号〉さん、六番窓口へどうぞ」


 そして、彼女の名を呼ぶ声。


「あ、はい!」


 はっとして、〈魔法少女二十九号〉は椅子から立ち上がる――ここは、調布基地魔法少女総合案内所。主に、地下魔法少女が役所や自衛隊から仕事を回してもらう、職安のような場所である。だからか、清潔な空間なのに空気はすこぶる重い。


 内装もお役所然としたここは、事実調布市役所を改造して作られた場所である。故に、役所にありがちな背の低い椅子から〈二十九号〉は素早く立ち上がると、駆け足で六番の窓口に齧りついた。


「早くしてください、時間が……」


 〈二十九号〉は時計をちらと確認した。たなかねみちゃんのぬいぐるみ探しの案件を受領してから十分も経っている。


「わかっています。こちらをどうぞ」


 受付の女性の自衛官は、透明なビニールバッグに入ったそれを机の上に出す――グロック17と、それを凌ぐ巨大な物体、デザートイーグル。双方とも名の知れた拳銃であるが、その大きさはまるで異なる。グロックよりはるかに大きいデザートイーグルは、そこにあるだけで周囲を圧倒する。


「ありがとうございます。すぐに案件に取り掛かります」


 その場で二丁を脇下のホルスターにしまう。予備の弾倉は一つずつ。それらはオリーブドラブのドレスのポケットへ。


「そういえば〈二十九号〉ちゃんがデザートイーグルを申請するなんて珍しいですね。難しい案件でもないと思いますが」


 すでに背を向けていた〈二十九号〉へ、受付の女性は疑問を口にした。


「大丈夫です。ちゃんと返しますし、使えますから」


「いえ、疑っているわけでは! 勿論『応援』してますよ、わたし!」


「ホント? ありがとう!」


 自衛官の言葉に対し、作り物の笑顔で〈二十九号〉は返す。


「じゃあ、行ってきます!」


「ご武運を!」


 その言葉を後に〈二十九号〉は調布を駆け抜けていく。調布基地から〈アンダーグラウンド〉狛江までの最短ルート、すなわち魔法少女専用の道路を、最高速度で走り抜ける。いくら地下魔法少女とはいえ、その速力は時速四十キロを下らない。


 〈魔法少女二十九号〉は思う――女性自衛官の考えは、正しい。銃の貸し出しは魔法少女に認められた権利とはいえ、普段はグロックばかりを使っているからだ。だが、それでも〈二十九号〉が今回、それよりも威力の高いデザートイーグルの持ち出しを決意した理由はただ一つ。


 ――ぬいぐるみを回収次第、油断しきっているゲドードスの顔面をこの銃でぶち抜いてやる!


 確かに三十億の視聴者数があれば、ゲドードスは倒せるだろう。だが、配信開始時点でそれだけの視聴者がいるとは限らない。


 だから、その時はきっと、わたし一人だ。一人で、なけなしの魔法で大王を殺さないといけない。脇に下げた銃が重く揺れる。


「フレー、フレー、わ、た、し……」


 まるで、呪いのように〈魔法少女二十九号〉は独り言つ。跳躍した彼女の体が、清浄な空気を突っ切って、〈アンダーグラウンド〉狛江の砂塵の中に埋もれていく。




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