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視聴者数ゼロの地下魔法少女(27歳)が仕方なく助けた魔王に激推しされてトップ魔法少女に成り上がる ~魔法がないので実銃と筋肉で戦っていたら、なぜか同棲が始まりました~  作者: 杉林重工
三章 わたしの名前を呼んでみろ

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偽物の魔法少女

 

「戦車にヘリコプター。随分と派手な囮を用意したもんだ」


「最初は真っ当に登ろうと思ったんだけどさすがに邪魔が多すぎるでしょ」〈二十九号〉は肩を竦めた。


「まあいい。お前の強さはわかった。さあ、人質を解放したくばおれを倒せ! 最後の戦いだ!」


 〈レツ〉は祭壇を離れ、この大葬儀場の中央へ歩き出す。サッカーコート二面分はくだらない広さである。戦いにはもってこいの場所。だが、〈二十九号〉は動かない。


「ねえ、だけどさ。本当にわたし達が戦うのが正しいことなの? あなただって、戦いがもう何の意味もないことはわかっているでしょ」


「意味はある! おれ達は戦士だ! 戦うことに意味がある!」


「じゃあ、あの時のお葬式の話とかは全部嘘なの?」


「そうだ! お前をここにおびき出すための罠だ! お前さえいなければ、停戦も何もなかったはずだ!」


「なら、最初っからそういえばいいのに。まどろっこしいなあ」


「なんとでもいえばいい。さあ、おれを倒せ!」


 〈レツ〉は早くかかってこいと言わんばかりに声を張った。だが、〈二十九号〉は応じるそぶりを見せない。


「そこの祭壇に、トゥルーストーンがあるでしょ」


「それがどうした」


「見せてあげたいんじゃないの? わたしとあなたの戦いを。そのためにわざわざお葬式って体を取ったんでしょ。でも、本当にそれを望んでいるのかな。死んだ怪人さん達は」


「何が言いたい! いいから、早く……」


 しかし〈二十九号〉は彼の言葉を無視し、手をスマートフォンへ伸ばすとその配信を切った。


「おまえ! 何をして……!」


 すぐさま、目の前の十八歳ほどの魔法少女はいなくなった。その代わり、そこにいるのは二十七歳独身住所不定無職の女だった。空地川サビ子。その服装はアイボリーのブラウスにハイウエストの細身のスラックスという、少しだけフォーマルを意識した、いつの日かエヌ女史と語らった日の服装に同じだった。サビ子の私服のバリエーションは多くない。


「殺せないでしょ。ねえ、あなたにだってまだ、話す余地があるってわたしは信じている。なんでこんなことをしたの? わたしを殺すだけなら方法はいっぱいあったはず。お願い、わたし達は、まだわかり……」


 その時、この大雨の中、きらりと光る何かがサビ子の目に入った。〈レツ・ワリコミ〉の遠く背後の暗がりの中。


「ん?」


 そして、それがなんであるか気づいた時、サビ子は自然と走り出していた。


「危ない!」


 そう叫んで、何もわからないらしい〈レツ〉の体を突き飛ばす。同時、銃声が瞬いた。


「おっと……こうきたか」


 熱い。空地川サビ子は自分の胸がその熱に応じた赤に染まっていくのを呆然と見下ろした。毎日自衛隊に通って鍛えた肉体など、たった一発の銃弾に勝てないことを悟った。


「おい! 〈二十九号〉!」


 〈レツ・ワリコミ〉が動揺している。滑稽だと思った。ここで、空地川サビ子の意識は途切れていく。


「おい、これは誰がやった! どういうことだ!」


 これは、〈レツ・ワリコミ〉の予定にないことだった。だが、何より〈レツ〉を驚かせたのは、この銃弾は侵略帝国が作ったものでもないことだった。


「まさか、人間の……」


「〈レツ〉隊長! 人間です! 人間がやってきます!」


 ――影が落ち、雨が止んだ。


 否、それは空を埋め尽くす無数のパラシュート! 次々と真黒な衣装の魔法少女が降下してくる。彼女達の視聴者数はゼロ。しかし、組織的な運用を行うことで効率を高めた正真正銘の正規軍用魔法少女、空挺魔法少女隊である。『視聴者』が気付き、大人らしい行動だと判断されてアカウントBANが発生するわずかな時間のみ成立する、使い捨ての悪魔の集団である。それが奇しくも視聴者から見放された今、活動時間を伸ばして襲い掛かる!


「この女を生かせ! 殺してはならん!」


 走りくる下級怪人にサビ子を委ね、〈レツ〉は空を見上げた。空挺魔法少女隊の武器は魔法の節約のため現行兵器が主だが、その威力は人間の枠を超えた火力で固められている。スリーマンセルで行動すれば、下級怪人程度なら相手にすらならないだろう。


「おれが前に……」


 そのとき、〈レツ〉は信じられないものを見た。なんと、無抵抗に床に打ち捨てられた空地川サビ子の体を、下級怪人たちが蹴り飛ばそうとしているではないか。


「お前達! こんな時に何を……」


「こいつがいなければ! こいつがあの魔法少女の群れを連れてきたんだ!」


「まだ言っているのか!」〈レツ〉は慌てて下級怪人たちと空地川サビ子を離す。


「〈レツ〉隊長こそ! 目を覚ましてください! もう、おれ達にはあなたしかいないんです!」


 そうしてようやく、〈レツ〉はすべてを理解した。ここまで下級怪人たちが自分に付き従った理由を。


「魔法少女を殺しましょう! 停戦なんてくそくらえだ!」

「なにがゲドードス大王だ!」

「人間を根絶やしにするんだ!」

「〈レツ〉隊長! おれ達はどこまでもついていきます! だから、指示をください!」


 怪人達は口々に叫んだ。


『〈レツ〉隊長! おれ、隊長に憧れてたんです! 隊長の無敵で強いところ、最高です!』


「……ああ、そうだな。おれは、強いんだったよな、〈コゼーニ〉」


 そうだ、おれは、強いんだ。魔法少女如きに、負けてはいけない。一瞬でも、負けることを考えた自分が愚かだった。


 〈レツ・ワリコミ〉は空地川サビ子に背を向け、部下達を撃ち殺していく空挺魔法少女隊に向き直った。そしてその腕を一瞬で伸ばして戦いの間に割り込むと、魔法少女達を肉片に変えた。


「おれが相手になるぞ、偽物の魔法少女め! 数だけそろえようと、このおれを倒せるとは思わないことだな!」


 無数のロケット弾を受けても〈レツ〉の体はびくともしない。空挺魔法少女達がプラスチックシールドを展開するが、そんなもの、わざわざ〈レツ〉が腕を伸ばすまでもなく、足先一つで破壊できる。


「奴らの狙いは人質だ。そこの守りを固めろ。ほっておいてもこいつらはアカウントBANでそう長くはもたない! 焦らず戦え!」


「はい! 隊長!」


 そんな騒乱に置いていかれ、空地川サビ子はただ雨に打たれながら、血液を広く広くその水溜りに伸ばしていく。


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