参列する魔法少女
「号令! 立て愛、下げ迷い、抱え心、控え悪、捧げ恋!」
「〈魔法少女二十九号〉!」
「アドバンス!」
於、昭和記念公園。侵略帝国流・大葬式特設会場。
土砂降りの雨を突き抜けて注ぐ砲弾の嵐の中、空地川サビ子は魔王少女に変身した。その爆炎が、サビ子の変身を隠していた。
噴煙を超えて跳躍した〈二十九号〉は、改めてこの高さ百メートルの墓石のような物体を見上げる。今、それは巨大な遺影を割って、その中央に巨大な階段を伸ばしている。登れ、ということだろう。
視聴者数『12』
どうやら、人間の視聴者はいるらしい。これから一応増えることは予想される。だが、それがどれほどの力になるだろうか。今、この大葬儀場の中には、世界の要人と多数の魔法少女が囚われている。そのすべてが配信を解除していない都合、人間の視聴者が分散している。
(わたしの視聴者は、いって一万か二万か……)
「聞いて! 〈レツ・ワリコミ〉さん!」
〈二十九号〉は叫んだ。
「わたしは、戦いに来たんじゃない! お話しよう!」
「話などするものか! 人質を助けたくば、ここまで上がってくるがいい! ここまでくれば、人質は解放しよう!」
声だけが昭和記念公園に響く。
「頼むよ、視聴者数もないのに二十七歳にこんな階段上らせるな」
そういいながら、〈二十九号〉はストレッチをしている。
「ふん。ここまで上がってこれないようなやつが、魔法少女など名乗れるのか?」
「……上等。あんたはいいね、怪人らしく卑怯でさ」
視聴者数『1,012』
総階段段数六百六十六。侵略帝国建築法に基づいた正確な葬儀場の階段の数である。
「アドバンス!」
〈魔法少女二十九号〉はびしょびしょの階段を駆け登った。ヒール付きのコンバットブーツが雨飛沫を踏みつぶし、蹴散らしていく。
「来たぞ! あいつが大王を誑かした淫乱だ!」
「殺せ! あいつさえいなければ!」
「なんだっていい! 仇を取るぞ!」
当然、簡単に階段を上らせてくれるわけがない。階段の脇から次から次へと下級怪人が現れる。
「マジカルM4カービン!」
右手に生成したアサルトライフルの引き金を引く。魔法で強化された銃と銃弾が下級怪人を貫いていく。
だが、すぐに弾切れになる。リロードの間も惜しんで、〈二十九号〉はカービンを捨てる選択をする。
「マジカルAK47!」突破段数二十三。残り段数六百四十三。
代わりに、次々と銃を持ち換えて応戦した。
「マジカルHK53!」突破段数四十二。残り段数六百二十四。
「おのれ、魔法少女め!」
〈二十九号〉は、雨に紛れて飛び出した黄色い閃光を鼻先で避ける。
「おれの名前は〈レモンカケルーノ・カッテーニ〉!」
雨の中でもはっきり見える、熊のような体躯と黄色い鎧。〈レモンカケルーノ〉が全身に力を籠めると、黄色い鎧から黄色い体液が飛び散る仕組みである。
それらは、周囲の下級怪人さえ巻き込んで、その体を切断して〈二十九号〉に迫る。
「チッ」
丁度弾詰まりを起こしたマジカルAK47を下級怪人に投げつけて動きを封じると、ラブリーM26手榴弾を作り出して、安全ピンを噛み抜いて投擲する。
「ぬお!」
体液と手榴弾がかち合い、空中で爆散する。その爆発に紛れて〈レモンカケルーノ〉に接近した〈二十九号〉は、マジカルマークⅡ手榴弾を取り出していた。それを、〈レモンカケルーノ〉の口に捩じ込む。
「わたしさ、酢豚にパイナップルも好きなんだ。内緒だけど」
そういって〈レモンカケルーノ〉の背後に回ると、その後頭部を蹴りつける。手榴弾が爆発した。
突破段数五十。残り段数六百十六。
「パイナップルとレモンの話は別だろうが!」
〈シオ・メダマヤキ〉と〈ショーユ・メダマヤキ〉の中級怪人コンビ。白と黄色の混じった戦闘服に、白いラインと茶色のライン。二人は抜群のコンビネーションで有名である。
「細かいこと気にしないでよ。ちなみにわたし、目玉焼きはハンバーグに乗せちゃう」
取り出したサーベルですれ違いざまに二人を切断し、キューティレミントンM870で目の前に立つ〈キッサ・テンデイッパイデネバルーノ〉の胸を至近距離で打ち抜いた。
突破段数六十一。残り段数六百五。
「しんど。あとどんだけあるんだよ。ねえねえ、ずるしていい?」
ラブリーM26手榴弾をポイポイ投げて下級怪人を妨害しながら、片手に持つマジカルスキスキステッキスマートフォン(自撮りモード)へ〈二十九号〉は訊ねる。
『いいよ!』『がんばって!』
「ありがと! その分急ぐから! シャイニーKS600!」
〈二十九号〉が生成したのはサイドカー付きのバイクであった。〈二十九号〉はサイドカーに立ち乗り、空のバイクのハンドルにマジカルスキスキステッキスマートフォンをひっかけた。
「アドバンス!」
無人のバイクが車輪を回す。魔法で強化されたそれは、階段をものともせず前進した。
マジカルM4カービンとプリティロケットランチャーRPG-7が火を噴いて、進路を邪魔する怪人たちを吹き飛ばしていく。
突破段数七十二、七十七、八十、九十二、九十六、百二! 残り段数、五百六十四。
その様子を、〈レツ・ワリコミ〉は大葬儀場の天辺で待っていた。祭壇には、〈コゼーニ〉の遺影が堂々と飾られている。無数の異形の花々に加え、謎の木札や短剣が並べられた異様な光景であった。
「そうだ。それでいい。お前は、強さを示さねばならない」
自身の甲殻――無数の亀裂が入ったそれを眺めながら、〈レツ〉は思う。そうでなければ、自分が倒される意味がない。
「安心しろ、〈センセン〉、〈コゼーニ〉よ。確かに、〈魔法少女二十九号〉は最強の魔法少女だ。このおれが倒されることで、それを証明してやる」
『〈レツ〉隊長! 〈魔法少女二十九号〉が戦車を! 戦車を持ち出しました!』
スピーカーが悲鳴を上げた。〈レツ〉は顔をしかめ、無線のスイッチを入れて言う。
「好きにさせろ」
うんざりしてスイッチを切る。確かに、モニターの中でファンタスティックティーガーが階段を粉砕しながら猛然と駆け上っている。砲は自動で火を噴き、その上の銃座から〈二十九号〉が狙撃をしている。
『隊長! あいつ、アパッチを呼んでいます! ずるくないですか!』
「攻撃ヘリはずる過ぎるな。撃ち落とせ」
だが、空中で機銃を撃ち猛威を振るう攻撃ヘリコプタードキドキアパッチは、下級はおろか中級も寄せ付けず、その隙にファンタスティックティーガーの砲弾が道を開く。
「まったく、何をしているんだ」
そういいながら、〈レツ〉はこの土砂降りの中、祭壇の前にいつの間にか立っている一人の下級怪人を見た。
その下級怪人はすたすたと〈レツ〉を無視して〈コゼーニ〉遺影に向かって礼を行い、数珠をじゃらじゃらと鳴らした。
「作法が間違っているぞ、〈魔法少女二十九号〉」
「やっぱりそうですか。〈レツ・ワリコミ〉さん」
いつのまにかその変装が解け、〈レツ〉の前に立っていたはずの下級怪人は〈二十九号〉の姿をとっていた。背中からマジカルスキスキステッキスマートフォンが覗いている。
「話に来ました。〈レツ・ワリコミ〉さん」
〈魔法少女二十九号〉は、低く声を落として〈レツ・ワリコミ〉へそういった。




