もうどちらかが滅びるまで終わらないんだよ
「フレー! フレー! 怪人さん!」
〈魔砲再革命アハト・カノン・アライヴ〉の声が、心臓を失い死にかけていた怪人に力を与える。〈アハト・アハト・シュトゥルム・カノーネ・ツヴァイ〉の上で、魔法少女は声を張り上げ応援する。
「やめろ! どうして怪人に与する!」
〈ブレザーリボン・アルティメットスター〉の声が露骨に震えている。
「だって、わたしを応援して、助けてくれて、スペチャを使ってもう一度魔法少女として立たせてくれたのは、ゲドードス大王だから!」
そして、〈アハト〉はその最大の秘密をこともなげに白状した。流石の〈アルティメットスター〉も、そしてゲドードス四天王〈パスワード〉も目を見開いた。
「悩んだけど、わたしは決めた。怪人さんが死ぬのも、魔法少女が死ぬのももう見たくない! 大攘夷なんてやめて、みんなでちゃんと話し合おう!」
「そんなこと、できるわけがない! ならばどうして百年われわれは殺し合ったのだ!」
「やり直せる! 今からでも遅くない!」
「そんなこと!」
だが〈アルティメットスター〉の声には動揺が混じっていた。その時であった。〈アハト〉が顔を抑えるほどの突風が周囲を包んだ。
「ここはわたしが押えます! もとはといえば、わたしの責任です」
〈アハト〉の前に現れたのは『ラビリンス! アリアーネ』のアリアーネちゃんであった。本来ならば大王のための切り札である彼女が、〈アハト〉の前に現れた。
「アリアーネちゃん!」
「あなたとは、分かり合えたと思っていましたが、違うみたいですね」アリアーネの衣装はまるで蜘蛛の巣を模した白と黒。そして目を引く真っ赤なスカーフ。
「そうだね。ごめんなさい。でも、わたしには戦うのが正解には思えない」
「うん。きっと、〈アハト〉ちゃんが正しい。だけど、今だけは!」
アリアーネは、ついにその拳を振り上げた。だが、その手を止める存在が現れた。それは、一瞬で〈アハト〉を攫って行ったのだ。
「〈アハト〉! お前は現実を見ろ!」
そう叫んだのは、怪人でもなければ〈アルティメットスター〉でもない。直管マフラーがうなりを上げて、パープルのロケットカウルが大いに震える! それは一台のバイク、ホンダCBX400Fを駆る魔法少女。
「カチコちゃん?!」
乱れた髪に、血で真っ赤に染まった顔半分。黒く焼けた特攻服。それは『カゼの魔法カチコ』のカチコであった。彼女はまだ生きていたのだ。それが、〈アハト〉の胸倉を掴んだまま空を引き摺って行く。
「アリアーネ、お前は大王に備えろ! 〈将軍〉は早く〈ミラーアイ〉を落とせ! 先輩と誓い合ったはずだ! あたしとお前、二人で怪人を根絶やしにするって!」
カチコの言葉に、緩みかけていた〈アルティメットスター〉の唇が再び締まった。
「やめて! 戦いを止めようカチコちゃん!」〈アハト〉は叫ぶ。
「お前こそ、その頭お花畑を何とかしろ! 綿飴詰めてんじゃねえ! 現実を見ろっつってんだろうが馬鹿!」
カチコは〈アハト〉の頭を掴むと、無理やり血で染まった二十三区を見せつけた。その血の花畑の上を、よろよろと飛ぶ魔法少女の声が泳ぐ。
「どこだ! どこにいるんだモリミ! あたしは、あんたがいないと……!」
『熱血サッカー少女隊 マッハ撫子』のエースちゃんが、目に涙を浮かべて死体の顔一つ一つを確認している。
「いい加減にしろエース! モリミは死んだんだ!」ミッドフィールダーのミドリがエースを掴んで何とか引っ張り上げようとするが叶わない。
「わたし達イレブンが抜けてたら、勝てる試合だって勝てないよ!」
「もうだめ。イレブンは終わりだ。エースがこんなんじゃ、もうサッカーはできない」
「わたしはみんなと楽しくサッカーができればそれでよかったのに」
「……わたしはもう、一人で行く」
明るく、元気にかっこよく、サッカーをモチーフに怪人に立ち向かっていた十一人が、今や全員別の方向を向いて地面に這いつくばっていた。
「『熱血サッカー少女隊』がへばっているぞ!」
「殺せ殺せ!」
「あいつらのサッカー遊びで殺された仲間の仇、今ここで取らせてもらう!」
そして、それに群がる怪人たち。
「イレブンはもとに戻る! それまでわたしが守る! 見てよエース! モリミなんかよりわたしのほうが守れるんだから! お願いだから、わたしを見てよ! エース!」
すでに片腕は機能していない。チームで唯一黄色のユニフォームのキーパー、キミエは折れて歪んだ指を突っ張り、靴の脱げた足で空に張り付き、怪人を抑えようと体を前に進めた。それに容赦なく、下級怪人たちの銃が火を噴いた。一瞬で片はついた。
「モリミ、モリミ、モリミ、モリミ……!」
地面に落ち、ぐしゃりと血肉を開くキミエには見向きもせず、エースはただ瓦礫の町を往く。
「これでもお前は! 怪人と仲良くしようって言えるのか!」
カチコは〈アハト〉の首をゆすりながら言う。
「もう死に過ぎてんだよ。これを終わらせるには、どちらかが滅びるしかない! お前だって散々殺してきただろ! それに、こんなに遅れてきやがって。お前がいたら、少しはましだったはずだ」
〈アハト〉の口元が歪む。
「それは、わたしもいろいろと悩んで……」
「ほらな! もうお前だってわかっているはずだ!」
勿論、『熱血少女サッカー隊』だけではない。そこかしこで怪人と魔法少女の亀裂は広がっている。
「でも、わたしは!」
「何が『でも』だ! 裏切り者め! ゲドードスと寝たのか?」
「違う! わたし達はそういうんじゃない! わたしは!」
『ああ。そうだ。おれはただ、応援してみたかっただけだ。勘違いするなよ地球人類と魔法少女ども』
その声は、天から降ってきた『圧』そのものだった。
「なんだこのプレッシャーは!」
ホンダCBX400Fが勝手に止まり、カチコは空を見上げた。そこに、『それ』はいた。
「ゲドードス大王!」
誰もが、その姿を見て動きを止めた。いないと聞いていたはずのそれが、〈ミラーアイ〉の直下にいた。その姿はしかし、首から下をキューティ拘束衣に包んでおり、妙に哀れであった。
『おれはしばらく前、確かに魔法少女に敗北した。それを今日までだらだらと生き延びてしまったが、もういいと思った』
いつ見ても同じ、白くて荘厳なその顔に、妙な影を皆が見る。彼は、じっとその高みから、二十三区の惨状を見下ろし、溜息を一つついた。
『われわれ侵略帝国ゲドードスは、お前達地球人に対し、停戦を申し入れる。飽いた。もうおれ達は、帰ることにする』
そういうゲドードスは、〈アハト〉にすら一瞥もせず、ただ淡々と人類と部下たちに宣言した。
「まさか、こんなにあっさりと? これで終わりなのか?」
それから、十日後。ゲドードスの居城の一室にて、その怪人は声を震わせた。




