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視聴者数ゼロの地下魔法少女(27歳)が仕方なく助けた魔王に激推しされてトップ魔法少女に成り上がる ~魔法がないので実銃と筋肉で戦っていたら、なぜか同棲が始まりました~  作者: 杉林重工
二章 東京は燃えているか

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第六十六代美少女征夷大将軍ブレザーリボン・アルティメットスター

 

 第二次大攘夷開始から、三時間。


 〈ブレザーリボン・アルティメットスター〉は西新宿上空で完全に足止めを食らっていた。


(あと少しなのに……!)


「いたぞ! あの地味な見た目の魔法少女だ! あいつを殺せば大攘夷は終わりだ!」


 紺のブレザー姿、ともすればただの女子中学生にしか見えない彼女を、怪人達は指さしては襲い来る。


「チッ」


 対して〈ブレザーリボン・アルティメットスター〉はぱっと右手をかざす。


「ビターアンドスイート! ドキドキ青春トルネード!」


 途端、彼女の手から吹き出したのは、無数の『思い出』であった。鉛筆シャーペン消しゴム定規、ノート教科書分度器ハサミ、ホチキス、リップクリーム、絵筆にキャンパス、サッカーボールに至るまで、あらゆる道具が下級中級を問わず怪人達を飲み込んでいく。


「なんだこれ? 全然痛くないぞ」

「将軍とか呼ばれてるからびびってたけど、この程度なら何ともないぜ!」

「緊張して損した。とっととぶっ殺してやる!」


 そんな様々な道具を跳ねのけて怪人達は仇敵の姿をこの目で認めた――はずだった。


 だが、目の前に広がるのは、少し湿気た空気の重い校舎裏であった。真っ白な中学校の校舎の壁が下級怪人〈アセーダ〉を見下ろす。


「あれ? おれは……」


「〈アセーダ〉君、来てくれたんだ」


 え、と困惑を漏らしながら〈アセーダ〉が振り返ると、そこには中級怪人〈クツシータ・ヌギパナシ〉がしきりに周囲の様子を気にしながら立っていた。


「〈クツシータ〉……様?」


 〈クツシータ〉は〈アセーダ〉の上司にあたる。奔放な性格でいつも部下を困らせる。だが、今目の前にいる彼女は、まるで同一人物に見えないしおらしさがあった。


(どうしてだ? なんでおれは〈クツシータ〉様にこんな気持ちを……)


 〈アセーダ〉は自身の胸当たりのシャツをぐしゃりと握りつぶし、高鳴る鼓動を抑えようとした。だが、意識すればするほど、首の後ろや額に汗すら浮かぶ――まるで、目の前のただの少女、〈クツシータ〉の緊張が移ってしまったようだ。


(そうだ、確かに〈クツシータ〉さんは皆を困らせるけど、それは誰よりも自由だからだ。そして、そんな無垢で奔放な彼女を、おれは……!)


「〈アセーダ〉君、わたしと、付き合ってください!」


 ぎょう、と暖かな春の風が吹き、二人を包んだ。〈アセーダ〉はもう、顔を真っ赤にし目に涙を湛えた彼女のことを、愛しいと思うことしかできなくなっていた。心臓が鳴る、響く、早鐘のように、早く、速く時を刻んでいく。


「〈クツシータ〉さん、おれも、あなたのことが……」


 まるで、呻くように〈アセーダ〉も自分の思いを口にする……


「――ったく、そんなこと、わたしだって経験したことないのに」


 中級下級合わせて千五百六十三名。その怪人たちがこの新宿周辺で一様に動きを止めた。まるで夢でも見ているように、空中で彼らは呆けている。その隣をふわふわと飛行しながら、〈ブレザーリボン・アルティメットスター〉は奥歯を噛んだ。


「いい夢見れて良かったな。くたばれ」


 ぱちん。彼女が指を鳴らすと、怪人達の心臓が大いに膨らみ爆発した。悲鳴すら上げず、彼らは花火のように血飛沫を上げた。


「下級中級とは言え怪人だ。心臓を潰した程度ではしばらく生きる。皆の衆、止めは任せたぞ」


「御意!」


 〈セクシー美少女軍団〉は急降下した。新宿のビルの群れの上に落下した心臓のない怪人たちは、そこで真っ赤な花びらを広げていた。それは、暗黒の世界に咲く彼岸花の畑であった。


「おのれ! 奇ッ怪な!」


 そう激怒するのはゲドードス四天王が一人、〈マルナゲルヤ・クイーン〉だった。対して、〈ブレザーリボン・アルティメットスター〉はおのれの拳を鉄より硬く握りしめて叫ぶ。


「お前だって感じたはず! 校舎裏の土の匂い、好きな男の子の前に立った時のドキドキ! 友達と笑って勉強したり部活したり! でも、お前達が奪ったんだ! 異界より来たりし夷蛮戎狄! ここで会ったが百年目! 星と人に代わって、ここでわたしが取り戻す!」


「たわけが! そんなものこのわたしには通用しない!」


 〈マルナゲルヤ・クイーン〉は〈アルティメットスター〉に急接近する。その時、四天王〈パスワード・バースディ〉は顔を青くした。


「罠だ! あいつは誘っている! 近づくほどドキドキ青春トルネードの威力が高まるぞ!」だが、そんな悲痛な叫びは〈マルナゲルヤ〉に届かない。なぜならば。


「〈マルナゲルヤ〉、君のおかげで城は守れた。ありがとう、よくここまで戦ってくれたね」


「え、ゲドードス、様?」


 〈マルナゲルヤ〉の目の前に、あのゲドードス大王が立っていた。


「そうか! これがあの魔法少女のまやかしか!」


 〈マルナゲルヤ〉は、眼下に〈アルティメットスター〉がいることを確かに認めた。だが、そんな彼女の顎をゲドードスは掴み、くい、と自分の方を向かせた。


「あっ、いけません、ゲドードス様……!」


「四天王を、やめてくれないか。そして、おれのためにずっとそばにいてほしい。〈マルナゲルヤ〉……いや、マリー」


「だめです、ゲドードス様、そんな……」


 ゲドードスの顔が、〈マルナゲルヤ〉に迫る。両手を彼の胸に押し当て、何とか距離を保とうとするが、一切力は籠っていない。やはり彼女の心臓はバクバクドキドキバクバク止まらない、破裂しそうなほど鼓動が逸る!


「もうだめ、夢でも幻でも何でもいい! ゲドードス様! 愛しています!」


「うわああああああああああ!」「なんだこれえええええ!」「ぎゃあああああああ!」「魔法少女の攻撃か?」「どうした?」「おれの心臓の鼓動がおかしいぞ!」


 そんな悲鳴など、〈マルナゲルヤ〉には届かない。当の昔に致死レベルにまで跳ね上がった彼女の鼓動のダメージは、固有能力を伝い部下である下級怪人に丸投げされていた。ときめきが仲間を殺していく。新宿よりはるかに遠い位置にいる怪人たちさえもが次々と心臓を破裂させていた。


「気持ち悪い顔。ねえ、キスってどんな感じ?」


 〈アルティメットスター〉の胸に抱かれた〈マルナゲルヤ〉だけが幸せのまどろみに包まれている。


「嘘だ! こんなの、計算にない!」


 〈パスワード・バースデイ〉の手から、タブレット端末が滑り落ちる。控えに用意していた下級怪人すら次々と心臓を破裂させて戦闘不能になっていく。ここは〈ダークドーム〉ではない。落下した衝撃で身を散らす怪人の赤が咲く〈ブラッドガーデン〉である。


「時は満ちた」


 そして、〈アルティメットスター〉は静かに言う。


「四天王が知将〈パスワード・バースデイ〉よ。時に、われらがどうやって〈ミラーアイ〉を攻めるつもりかわかっているか?」


「このまま突撃するつもりだろうが、そうはさせない! 今すぐに〈フタアケ・パナシン〉を呼び戻して……」


「そんなもん、いらん。ここから魅せるは、将軍の戦い方よ!」


 きーん、こーん、かーん、こーん。


 それは、学校のチャイムだった。


「将軍あるところに城あり。青春に一夜漬けあり。少年老い易く学成り難し、一寸の光陰軽んずべからず、いまだ目覚めぬ池塘春草の夢、階前の梧葉已に秋声!」


 周囲に飛び散っていた無数の文房具が再び集結する。全身に誕生日と思しき数列を纏った怪人〈パスワード〉はもう、その様子を眺めることしかできない。


「ここに魅せるは一夜城、いでよ、〈ストロベリーリボン〉立川城新宿支部! 築城!」


 その声に導かれるように、〈ミラーアイ〉直下の東京都庁に無数の鋏が群がりその形を切り刻み、糊やセロハンテープ、ボール紙が形を作り、スプレーや絵筆がそれらを彩る!


「見よ! この立川城が〈ミラーアイ〉を食い破り、支配してくれるわ!」


 都庁はあっという間に和城に改造され、どんどん増築されて伸びていく。そう、〈アルティメットスター〉はこうして増築した立川城で〈ミラーアイ〉を貫くつもりなのだ。


「おのれ、あんなものすぐに壊して……」


「助けてくれええええ!」「痛い痛い痛い!」「何もおれは知らない!」「ゲドードス様に従って立川で静かにしていたのに!」


 立川城新宿支部から悲鳴が上がる。


「あの城には、立川で捕らえた潜伏中の怪人を閉じ込めてある。中では〈ドクターガール・リカ〉が拷問をしているがな。攻められるものなら攻めるがいい」


 〈ツキマ・トール〉のことを考えれば、城の中でいかに凄惨な光景が繰り広げられているかは想像がつく。〈パスワード〉は唾を飛ばし怒りに任せて絶叫した。


「卑怯者! 人質を取るなど、それが魔法少女のすることか!」


「外道なら仲間を見捨てて攻撃すればいいだろう!」


 もはや、侵略帝国は侵攻してくる天守閣を止める術がなかった。ただ、敵の牙が自分達の守り続けてきた領域を犯しに来るのを見つめるばかり。


 四天王の〈フタアケ〉は馬鹿。〈マルナゲルヤ〉は戦意喪失。〈イケタライ・クー〉はいつの間にかいなくなっている。大王は行方不明。もう、戦いは決した。〈パスワード〉は決意した。


「わかった。われわれは、幕府に降伏……」


「――ファイナル・ファンファーレ!」


 瞬間、十倍以上に拡大された8.8cmFlaK18高射砲に似た魔法〈アハト・アハト・シュトゥルム・カノーネ・ツヴァイ〉から放たれた直径二メートルを超える巨大な砲弾が立川城新宿支部を貫いた。


「やめ……」そう言いかけた〈パスワード〉は目を見張る。


 なんと、その飛び散った破片は城ではなく、あくまで都庁のコンクリート! 拷問になく仲間の声もぴたりと止んだ。そこに、立川城はなく、半壊した都庁が屹立する。


「まさか、立川城もまた〈将軍〉のまやかし! わたしから降伏を引き摺りだすための罠!」


「そうだよ。だからまだ頑張って! 怪人さん達!」


 かわいい少女の応援の声がブラッドガーデンに響き渡る。誰もが〈アハト・アハト・シュトゥルム・カノーネ・ツヴァイ〉の砲塔の上に立つ魔法少女を見た。


「裏切ったか、〈魔砲再革命アハト・カノン・アライヴ〉!」


 〈ブレザーリボン・アルティメットスター〉はその魔法少女へ向かって叫んだ。


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