ストロベリーリボン立川城と立川幕府
――最強の魔法少女とは、誰か。
『それは〈サムライ美少女・ブレザーリボン〉でしょ。初代だし』
『〈デーモンバニーエックス〉じゃないの? お色気とグロの融合もすごかった』
『〈プリミティブシスターズ〉でしょ? 断然』
――では、『現行』最強の魔法少女とは、誰か。
『〈ラビリンス! アリアーネ〉ちゃん』
『さすがに〈ラビリンス! アリアーネ〉じゃない?』
『アリアーネちゃんだと思う!』
この日、体調不良で三週間に及ぶ静養をとっていた『ラビリンス! アリアーネ』のアリアーネちゃんが完全復活した。
「アリアーネちゃんより入電。ワレ、完全ニ復活セリ」黒のゴスロリ衣装の魔法少女〈暗黒の手帖ゼラ〉が深く頭を下げてそういった。
「ついにか」
――〈ストロベリーリボン立川城〉天守閣。
井草の香ばしい、体育館程はある広大な和室。その最奥、六重の座布団の上に堂々と座っていた魔法少女――〈第六十六代美少女征夷大将軍ブレザーリボン〉は静かに目を開いた。
「はい。ゲドードスと交戦し、深手を負ったと聞いた時は肝を冷やしましたが」
「よい。時が来た、そういうことだ」
〈第六十六代美少女征夷大将軍ブレザーリボン〉はそう言って立ち上がり、ぴょんと畳の上に立つ。白と金の美しい紋付き(ハートと翼、リボンを組み合わせた伝統の御紋)袴姿故、随分と荘厳に見えるが、あくまでそれを着ているのは十歳の見た目の少女。口調と言い、その背伸びしたような態度が随分とかわいらしく見える。
「それと、もう一つの……」
そういう〈ゼラ〉の視線が泳いだ。
「よい。もう隠し立てする必要もないだろう」
〈第六十六代美少女征夷大将軍ブレザーリボン〉は、自らの斜め正面を飛ぶマジカルスキスキステッキスマートフォン(ドローンモード)を見た。それだけではない、彼女の顔の周囲には顔を明るくするためのリングライトまで浮遊している。
平均視聴者数十万人を超える魔法少女にだけ許された特殊装備の数々である。
「行くぞ、われわれの決意を見せてやるのだ」
配信画面を睨んでから、〈ブレザーリボン〉は〈ゼラ〉を連れ立って歩き出す。
そのままエレベーターに乗り込み、地下へ地下へ。そして、とある階で降りた。そこは、和城の雰囲気とは全く異なる冷たい蛍光灯で照らされた青白い廊下が広がっていた。
そして、二人はとある部屋で立ち止まる。
――第三実験室。
ドア脇にあるカメラに〈第六十六代美少女征夷大将軍ブレザーリボン〉がウィンクすると、ドアがピンク色に染まって開いた。
途端、廊下にまで漂う血の臭い。
「呪いあれ! 呪いあれ! すべての事象に、わが生涯に、お前達のたった一つしかない、みじめで哀れな運命に、呪いあれ!」
絶叫。〈ゼラ〉は顔を歪めるが、〈ブレザーリボン〉は眉一つ動かさない。
ベッドに拘束された『それ』の手足から先は歪な機械に接続されて見えないが、そこから先は既に消失していることを誰もが知っていた――壁際の棚には、奇異なる溶液の詰まった瓶が四つ。それぞれに、手足が入っている。
「これが、例のゲドードス怪人〈ツキマ・トール〉か」
〈ブレザーリボン〉は、部屋の片隅で腕を組む魔法少女〈ドクターガール・リカ〉へ訊ねた。
「ええ。その通りです。先日、柴崎体育館で捕獲した怪人です。原因は不明ですが、手足が突然千切れて行動不能になったところを捕らえました」
「違う! 大王だ! 大王が裏切ったのだ!」
ベッドに拘束された〈ツキマ〉の形相は凄まじかった。顔には憎悪によって無数の皺が深く刻まれ、目からは血の涙を流している。きっと、以前は美しい少女の顔つきだったろうに。
「ひどい絵面です。配信に堪えないので一番大事なところを喋れ」
〈リカ〉がそういうと、〈ツキマ〉は大声で唾を飛ばしていう。
「ゲドードスは、いなくなった! 今の〈ミラーアイ〉は手薄だぞ!」
「そういうことです」〈リカ〉は肩を竦めた。
「このことは、各地の怪人の活動データの情報と一致します。明らかにアリアーネちゃんと戦闘した後の怪人の行動パターンに変化がありますから」
〈ゼラ〉も頷く。
「決まったな。見ているか、視聴者よ。そして、ゲドードス怪人。そして、大王!」
〈第六十六代美少女征夷大将軍ブレザーリボン〉は自らのスマートフォンのインカメラを指した。
「われわれは、お前の不在を確信し、これより第二次『大攘夷』の決行を宣言する! 早く城に戻って軍備を整えるなり、尻尾を撒いて逃げるがいい! 近日、われわれ『立川幕府チャンネル』は、選抜した魔法少女と同盟を組み、東京二十三区上空〈ミラーアイ〉へ総攻撃を仕掛ける」
『これは、宣戦布告だ』
「……だってよ、ゲドードス大王」
ところ変わって『ニートリヒ=シュロス』二〇二号室。可愛らしいパステルカラーの衣服がクローゼットに加わった空地川サビ子の部屋。
カレーライスをラッキョウで食べていた空地川サビ子は隣でローテーブルを囲むゲドードスに問うた。彼は、カレーライスを福神漬けで食べている。
「どうもしねえよ。それに、これがはったりってこともある」スマホの配信画面を見ながらゲドードスは言う。
「あっそう。冷たいんだね。あの怪人もなんか可哀想だけど」
「勝手に言ってろ。おれには別に、怪人も人間も関係ない。恭順しないやつは殺すだけだ」
「それはそうだろうけど」
サビ子は一瞬眉を顰め、やっぱり配信画面を見続けた。
――はったりなわけがない。
ゲドードスとの謎の共同生活は、きっとこれを機に変わるだろう。そして。
(そのとき、わたしはどっちにつくんだろうか)
そんなことを考えてしまう。
(ま、わたしは幕府とはほとんど無縁だし、過度に組織立った魔法少女の運用は『少女らしくない』からBANされるリスクがある。わたしみたいな成金魔法少女に声がかかることはないでしょ。戦闘に参加しないで静観を決めることは視聴者数の譲り合いという意味でも問題ない)
そんなことを考えながら、ラッキョウをもう一つ。その時、スマートフォンに通知が走った。
『はじめまして。アハトちゃんとお話したいです』
『〈ラビリンス! アリアーネ〉より』
ぼとり。折角掬ったラッキョウを、サビ子はスプーンから落とした。




