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視聴者数ゼロの地下魔法少女(27歳)が仕方なく助けた魔王に激推しされてトップ魔法少女に成り上がる ~魔法がないので実銃と筋肉で戦っていたら、なぜか同棲が始まりました~  作者: 杉林重工
二章 東京は燃えているか

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タキシード大王

 空地川サビ子は魔法少女人生十七年のうち、最大のピンチを迎えていた。特に戦闘においては、常に最適解を弾きだし生還を果たしてきたはずなのに。


 そんな彼女が今、全身から染み出る汗を抑え、敵と相対していた。


「なあ、これが本当に正しいおれの格好なのか」


 〈ブライトタワー〉立川。東京どころか日本を見回しても最も発展した都市。その中でも風通しの良いテラスが目立つカフェに、侵略帝国の指導者にして恐怖の大王ゲドードスと、今ある意味最も勢いに乗っている魔法少女〈魔砲再革命アハト・カノン・アライヴ〉こと空地川サビ子(住所不定・無職・二十七歳・独身)は来ていた。


「そ、そうです。それが普通です、人間の」


 一通り店を回り、互いのいい感じの服を探し終わった後。流石にちょっと疲れたんじゃないか、と妙な気遣いを見せたゲドードスに促されるまま、サビ子はそこで緊張していた。


「いや、嘘だろ。誰もこんな格好してないぞ。大喜利のつもりか?」


「いいえ、違います。正直に言いますとわたしにファッションセンスがないのです。だから、もう勘弁してください。わたしが頑張って選んだあなたの格好は正直言って異常です」


「殺すぞ」


 そういうゲドードスの格好は、それはそれはもう異常であった。勿論、趣味の悪い簀巻きのようなキューティー拘束衣に比べたらまだましかもしれないが。


 ――黒く光沢のある上品な生地のジャケットに、同じくやや透かしの入った上品なシャツを着ている。シンプルな見た目のはずなのに、その艶や丁寧に刷り込まれた模様、ボタン一つ一つをとっても情報の密度がさりげなく高い。加えて、それらの要素をきゅ、とまとめるように締まる蝶ネクタイが印象的である。総じて、今の大王の姿を形容するなら。


「ごめんなさい。なんでゲドードスへタキシードを選んだのか、自分でもよくわからないです」ついにサビ子はすべてを白状した。


「本当に殺してやろうか」


 今まであらゆる命の危機に瀕して一度として諦めたことのなかったサビ子も、この時ばかりはもう殺されても仕方ねえな、という境地に達していた。


「まあいい。どうせおれの姿はお前以外には正確に認知されないようにしているしな」


 そういってゲドードスはテラスの椅子の上でふんぞり返る。ちょうどウェイターがやってきて、ゲドードスの前に新春いちごパフェを、サビ子の前にチーズケーキのセットを持ってきた。


「やっぱり……」


 去っていくウェイターの背中を見つめながらサビ子は思う。そもそも、調布駅の前にゲドードスがいるだけで普通は事件である。それが微塵も発生せず、そのままバスで立川に行き、様々なショップを回っていたのに誰も悲鳴一つ上げないのだ。


「でも、お前の姿を見る奴はいる。どうだ、就活用のリクルートスーツよりはましになったろう」


「……はい、とても」


 サビ子の服装は完全に様変わりしていた。ボートネックの薄手のニットにハイウェストのセミフレアスカート。全体的に淡い配色で、普段の女気のないサビ子とは真逆に仕上がっている。おまけにネックレスとイヤリングまでつけている。


「休日の外出にいいだろう。ほかにもいくつか買ってやったし、これで遊びに行くのにも不便しないな」


「っていうか、このお金はどこから……」


 そう、この買い物にサビ子は一切お金を出していない。


「すでにおれの部下は人間社会で働いている。そいつらから徴収した金だ。別に汚くはないぞ」


「ブオッフォ!」


 コーヒーに口をつけてなくてよかった。サビ子はさらっと提示された驚愕の事実に噴き出してしまう。


「だからおれはおれの姿をきちんと隠さないと目についてしまう。安心しろ、おれの姿もお前のとの会話も、異なる位相にずらしてあるから誰も気にはしない」


「いや、そういう問題じゃなくて……」


「まさか、いちいち二十三区から怪人を飛ばしていると思ったのか? そういうこともあるが、大抵はもう『仕込み』が終わっている」


 さも当然のように大王は言った。


「そんな馬鹿な……」


 そういいつつ、納得はできる。怪人の出現経路が不明なことは別に珍しいことではないからだ。


「じゃあ、どうして潜伏させている全員を一度に動かしたりしないんですか」


 サビ子の問いに、ゲドードスは眉を顰めた。


「わからないのか? 別におれはお前達を滅ぼしたいわけじゃない。おれは、統一したいんだ」


 ――統一。それは確かにゲドードスが頻繁に人間に宣誓している。


「菓子の呼称も料理の名前も、趣味嗜好、そのすべてを統一する。虐殺したいなら当の昔におれがこの手でやっている」


「……」


 その通りである。魔法少女の力は基本的に怪人を凌駕するが、結局のところ拮抗が限界だった。それはひとえに、帝国が手を抜いているからだ。


「まったく、お前はこういうときにもそういう会話しかできないのか?」


 飽きた、と言わんばかりの表情をゲドードスは見せつける。


「別に、そういうわけじゃないですけど! えっと……」


 まるで馬鹿にされているよう。サビ子は慌てて話題を考えた。


「ご、ご趣味は……」


「これだからお前の視聴者数は頭打ちになるんだよ」


「うるさい! 人のことを馬鹿にして」


「もっと語彙を増やせ。色んな人に共感できる話題を探すんだよ。雑談配信ってのはそういうもんだ」


「クソ、なんでこんな奴に駄目出しされなきゃならないんだ」


「そうじゃないと、視聴者様に好かれないだろ」ゲドードスはそう言って空を見上げた。


 すると、サビ子はつい、全ての人類が気になっている疑問に至った。


「あ、そういえばゲドードスは知ってるんですか」


「何をだ」


「これの、出所です」


 サビ子は財布一つでパンパンになる小さなショルダーバッグから、マジカルスキスキステッキスマートフォンを取り出した。


「それから、わたし達が相手にしている、『視聴者』についてです」



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