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魔砲再革命アハト・カノン・アライヴ

 駅前を覆う煙幕を、大量の光が吹き飛ばした――否、無数の『ポンポン』が食いつくす!


「ど、どういうことだ?」


 〈カタバン・デンジャード〉は困惑が止まらない。地下魔法少女を叩き落しただけのはず。それなのに、今や周囲をきらきらふわふわしたポンポンが漂って幻惑している。


 ずどん!


 しかして、ついに巨大な砲撃音がそれらを一瞬で吹き飛ばす。そして、その中央より少女の声が響き渡った。


「この号砲がわたしの声援!」


 導かれるように、怪人はその中央を見る。


「あいつは!」


 淡いピンク色の学ラン風の衣装を肩にかけ、チアリーダーのような服を着た少女。濃い朱色の髪は大いにうねって踝まで長く、なによりその顔つきと言い体格は服装に不釣り合いなほど幼い、十歳ほどの少女!


「ゴー! ゴー! ビクトリー!」

「押せ押せ未来!」

「行け行け希望!」

「輝く明日へ一直線!」


「『魔砲再革命アハト・カノン・アライヴ』!」


 彼女こそ、怪人の脅威から人類を守るために新生した魔法少女。その名も〈魔砲再革命アハト・カノン・アライヴ〉!


「誰だよお前! 〈魔法少女二十九号〉はどこへ行った!」


 〈カタバン・デンジャード〉は目の前の出来事が呑み込めず叫んだ。否、内心ではわかっているはずなのに、それを受け入れることができない!


「〈二十九号〉ちゃんは、わたしの中にいる。だから、あなたの怒りも悲しみも、全部わたしが受けとめる!」


 〈アハト・カノン・アライヴ〉は高らかに言い放つ。


「ほざけ! 何度姿を変えようと、地下に叩き落してくれるわ!」


 その時、〈魔砲再革命アハト・カノン・アライヴ〉の足元を砕いて地中より、巨大な鉄塊が直立した。


「新しい電車!」


 それを避けて宙へ逃げた〈アハト〉は、獲物を求めて首を擡げる列車に目を丸くした。その車体には、やはり『ゲドードス侵略帝国国営鉄道』のステッカーが貼られている。


(操れるのは三両一つが限界だけど、『キープ』だったらいくらでもあるってわけか)


 〈アハト・カノン・アライヴ〉はこの調布の地下に停車しているそれらを思うと気が遠くなる。幸い、電車に人は乗っておらず避難済みらしい。


「見よ! この列車の猛りを! 毎日お前達に踏みつけられ、汚された怒りに満ちている! 誰からも感謝されぬ悲しみに満ちたこの力を!」


 列車はまるで意志を持つかのように回転し、円盤となって〈アハト〉を襲う。避けるわけにはいかない。背後には建物がたくさんある。人がいるともわからない。


「〈カラフルフラッグ・ツヴァイ〉!」


 対して、〈アハト〉は自身の身長百四十センチを軽く超える、差し渡し三メートル以上の巨大な応援旗を生成した。そして、それを投擲する。片や三両分の列車。彼女の投げた旗など、あまりに小さかった。だが。


 ぱーん、という晴れやかな音とともに二つの回転する物体がぶつかり合えば、円盤にすら見えた列車の形状は一瞬で棒状のそれに戻り、時が止まったかのように宙でぴたりと静止した。


「馬鹿な! わたしの力が断たれただと?」


 ステッカーは剥がされていない。それでも、列車は確かに制御を失った。〈カタバン〉にはそれが信じられない。彼女の力は確かに、電車の心に眠る憎悪を引き摺りだしたはずなのに。


「電車さんには、確かに思うところがあるかもしれない」


 毎日同じことの繰り返し。それがきっと、誰かのためになっているのは間違いないが、労われること一つなく、さも当たり前のように思われている。誰も、自分のことを『ここにいる』と認めてくれない。


「悔しいのはわかる。でも、それで誰かを傷つけ始めたらだめだよ!」


 少女は叫んだ。


「だから、頑張って!」


 一瞬苦しく悶えるように車体を震わせた列車だったが、それきり大人しくなって地面の上に着陸した。


「あり得ない。どうしてわたしの怒りを誰もわかってくれない!」


 髪を掻き毟り〈カタバン・デンジャード〉は吼えた。


「きっとみんなだって、ちゃんと話してくれれば分かり合えるはず。だけど、誰かを傷つけたり、暴れしたりして注目してもらうだけじゃ、話だって聞いてもらえない」


「十分話しただろう! わからないやつが悪い! わたしを見ろ! どいつもこいつも勘が悪い! 察しろよ!」


 ついに〈カタバン〉は三節棍だけを振り回して〈アハト〉に迫る。魔法少女は配信を続けなければ変身を維持できない故、片手は常にマジカルスキスキステッキスマートフォン(自撮りモード)から離せない。


 都合、〈アハト〉はそれを素手で受け、弾いた。


「こんな風に暴れなくても、わたし達は……」


「うるさい! 人類と怪人はこの百年間も殺し合いをしてるんだぞ! お前だって〈レツ〉だけじゃない、われらの同胞を山ほど手に掛けたはずだ!」


「わかってる。いちいち数えきれないぐらいだよ」


 殴る、蹴る、叩く。怨嗟のこもった三節棍を、ただただ〈アハト〉は捌くのみ。


「そうさ。わたし達の戦いは『それ』だ! わたしを殺しに来い! 少しでも手を抜いてみろ、世界中の電車を操って、残りの三十五億をこのわたしが滅ぼして見せる! わたしを殺さぬ限り、止まらないぞ!」


 三節棍の攻撃に慣れてきていた〈アハト〉の目が見開かれた。なんと、弾いた三節棍に続く形で、列車のように四角く巨大に膨れ上がった〈カタバン〉の肩が〈アハト〉の全身を打った。


 〈アハト〉は落ちていく。そうだ、もう、わたし達の戦いはどんなに言葉を繕おうとも止められない。互いに、血が流れすぎている。


「わたしは止まらないぞ! どうする〈魔砲再革命アハト・カノン・アライヴ〉!」


 対して、〈アハト〉は拳をきつく握り、歯噛みした。そして、決意する。


「……ファイナル・ファンファーレ」


 アスファルトを貫き、土煙を上げて〈アハト〉は墜落した。そして、巻きあがる粉塵を押し返すように、今度は巨大な砲塔が天空に向けて突き上げられる。


「〈アハト・アハト・シュトゥルム・カノーネ・ツヴァイ〉!」


 8.8cmFlaK18――全長二メートルを超えた、巨大な高射砲――否、魔法によって拡大されたそれは、周囲の三階建てのそれらを超え、十メートル以上の怪物となって聳え立つ。砲身も十メートルどころではない。丁度十字路にそれらが展開されなければ、広げられた脚部はどこにも収まらなかったであろう。


 あふれる魔法が〈魔砲再革命アハト・カノン・アライヴ〉の力を限界まで拡大している。


「馬鹿め、そんなものがわたしに当たるものか!」


 得意げに〈カタバン〉は鼻を鳴らした。確かに、その砲はあまりにも大振りすぎる。掠めただけでも相当な傷を負わすことができるだろうが、回避運動に入った敵を追うにはあまりにも鈍重過ぎた。


 だが、それでも〈アハト〉は落ち着いている。


「ターゲット、ロック」


「何?」


 その砲の向きから逃げようとした〈カタバン〉の体が動かない。見れば、その体は〈アハト〉が投擲した応援旗〈カラフルフラッグ・ツヴァイ〉に貫かれているではないか!


 〈カタバン・デンジャード〉の体は、空中に完全に縫い留められている。


「馬鹿な、そんなことがあるものか!」


「照準、合わせ!」


 ごきごきごりごりと〈アハト・アハト・シュトゥルム・カノーネ・ツヴァイ〉はその砲口を調整し、ぴたりと旗に照準を固定した。体を捻って〈カタバン〉は逃げようとするが、びくともしない。


「レディー、エイム……」


 〈カタバン〉は思わず息を飲んだ。自分の定めを悟ったのである。


「フォイア!」


 〈アハト・アハト・シュトゥルム・カノーネ・ツヴァイ〉の根元に設置された大鼓を〈アハト〉が撥で叩く。瞬間、彼女すら吹き飛ばしそうな反動とともに砲が唸った。周囲のアスファルトが波打つ!


「いくら綺麗事を並べても、殺し合うより他にないんだ。話し合いなどするものか。この悲しみはわたしだけのもの。死してなお、わたしは勝ったぞ、魔法少女!」


 上空二十メートルほどで固定された〈カタバン〉と砲塔の距離は三百メートル。その間に詰まっていた空気は一瞬で引き裂かれ、ズタズタにされて飛び散った。砲弾にとって、それらは気体ではなく粘性を伴った個体であった。だが、それらを食い破って目標に命中する。眩い閃光が調布を塗り潰し、遅れて爆発音が立川まで駆け抜けていく。衝撃は遠く〈ダークエリア〉に沈んだ世田谷ですら観測できた。


『まったくよ、無茶するぜ』


「どういう、ことだ」


 だが、その爆発の中において〈カタバン〉は熱や轟音より先に、しかとその声を聴いたのである。


「お前は……」


『おれは、ただの電車さ』


 そう、衝撃の刹那〈カタバン〉と砲弾の前に三両編成の列車が割り込んでいた。


「どうしてお前がわたしを庇っているんだ!」


『確かにおれだって、人を殺すのはやりすぎだって思うぜ』


「……」


『だけど、毎日鬱屈としていたのは事実だ。お前の力で暴れたら、すっきりしたぜ。だから、これはおれからのちょっとしたお礼……っていいたいとこだが、どうやらここまでらしい。全然役に立てなかった。魔法少女って、すげえな』


 ただの列車など、〈アハト・カノン・アライヴ〉の魔法の前には紙切れほどの障害にもならない。それが〈カタバン〉を庇っても、命を守ることなどできるわけがない。


「待て! お前は死んではいけない! わたしはもっとお前と話が……」


『じゃあな、お嬢さん。一緒に生まれ変わったら、今度はおれに乗ってほしいな。約束だぜ』


 調布の空、二十メートルほどの位置に生まれた二つ目の太陽が消え、静けさが戻る。縫い留められていた怪人も、それを庇った列車も一瞬にして塵に帰していた。


 〈魔砲再革命アハト・カノン・アライヴ〉は、マジカルスキスキステッキスマートフォンに向けて笑顔で言う。


「作戦終了! わたしのエール、届いたかな?」


ここまでが第一章です。ここまでどばどばと更新しましたが、ここからは毎日ぐらいにペースを落とします。気に入っていただけましたら、ぜひこの先もよろしくお願いいたします!

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